「エスパイ」とは、「エスパー」と「スパイ」とを組みあわせた造語です。世界平和を守るための国際的なスパイ組織で、その日本支部長に加山雄三。
その配下に藤岡弘、由美かおる、睦五朗。新人エスパイに草刈正雄という布陣。
対する悪の超能力者組織のボスに若山富三郎。配下には内田勝正(!)
原作は日本SF界の泰斗、小松左京。当時人気があった山田風太郎の「忍法帖シリーズ」に対抗できる小説を、という注文だったようで、小松さんの作品としてはかなり通俗的な作品に仕上がっていたようです。
映画としては、やはり当時人気のあった「007シリーズ」に、SF的なエッセンスを配合したような作品にしたかったのでしょうが、当時の日本映画の実情ではさすがにそれは無理があった。
舞台はジュネーブからイスタンブール、パリ、東京と移り変わっていきますが、どうにもこじんまりとした感じが拭えない。若山さん率いる悪の組織にしても、007に登場する「スペクター」のような、闇の奥深さがまるで感じられず、このスケール感の小ささはどうしようもないものがあります。
大体、若山さんの演技がなんというか、「もっさり」していて、若山さんの演技が始まると途端に映画のテンポが止まってしまう。あれは観ていてイライラします。
若山さんはご自分でご自分の事を「先生」と呼ぶくらいの大御所でしたから、ご自分で立てた演技プランを押し通すところがあったようです。この映画は低予算で、僅か1ケ月の強行スケジュールで撮り終えねばならず、天下の若山大先生の機嫌を損ねずに撮影を終えるには、言うがままにするしかなかった、ということもあったのではないですかね。
なんといいますか、切ないですねえ……。
ただ、「つまらない」と言って終わらせてしまうのは勿体ない、何と言いますか、「珍妙」な映画だとはいえると思います。癖になると案外イケるかも知れません(笑)
藤岡弘さんはお得意のアクションを存分に披露していますし、草刈さんの二枚目ぶりは当時としては天下無双のものがあります。
が、この映画の最大の功労者は、なんといっても内田勝正さんです。
超能力者の殺し屋として冒頭から登場し、映画の主要シーンにはほぼ出ずっぱりで、藤岡さんや草刈さんより遥かに目立ってる。とにかく内田さんがメチャメチャカッコよく、内田さんなしにこの映画は成り立たなかったといっていい。
内田さんファン必見!いやファンならずとも、この作品における内田さんの魅力には大いに惹かれるものがあるのではないでしょうか。
内田勝正という俳優がいかに魅力的であるか、良い役者であるかがよくわかる。内田さんを魅せるためにある映画ですね。
いや、ホントに。
内田勝正という俳優を見たい方、知りたい方。
どうぞご覧あれ。
『エスパイ』
制作 田中友幸
田中文雄
原作 小松左京
脚本 小川英
音楽 平尾昌晃
京謙輔
特殊技術 中野明慶
監督 福田純
出演
加山雄三
藤岡弘
草刈正雄
由美かおる
睦五朗
内田勝正
岡田英次
若山富三郎
昭和49年 東宝映画