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〈荒蝦夷〉(あらえみし)は宮城県仙台市にあって、書籍の編集、出版を事業とする小さな会社です。
民俗学者・赤坂憲雄教授の提唱する「東北学」を主体とした雑誌『季刊・東北学』をはじめ、そのインパクト溢れる社名からも察せられるとおり、どこまでも東北にこだわった視点からの出版物発行にこだわる、小さいながらも気骨溢れる会社です。
代表を務める土方正志氏は北海道出身。大学の4年間を仙台で過ごし、卒業後東京の出版社に就職。その後フリー・ライターとなって活動しておりました。
2000年に拠点を先代に移し、〈荒蝦夷〉を立ち上げます。
そして2011年、東日本大震災……。
この書籍は、被災地にあって書籍の編集・出版を職業とする一人の男の、濃密な5年間を綴ったドキュメントです。
なんといいますか、書の端々から、「怒り」「口惜しさ」「悲しみ」「虚しさ」「焦燥感」といった、土方氏がこの5年間感じ続けていたであろう感情が立ち上っているんです。
書ききれなかったこと、書きたくても書けなかったことはたくさんあったでしょう。被災地に暮らす出版人として、一人の被災者として、自分はなにをすべきなのか。それを考え続け、苦悩、苦闘し続けた土方氏の5年間が見えるようです。
私も一応、あの震災を経験しておりますが、私などの経験はとても「被災」などと呼べるようなものではありません。私は自分のことを「被災者」だなどと思ったことは一度もありません。
沿岸の市町村の受けた甚大な被害に比べたら微々たるもの、私なんぞが「被災者」などと名乗ってはバチが当たりますよ、ホントに。
でも仙台は違います。仙台が受けた被害は、私の町などよりも遥かに大きい。特に海沿いの地域が受けた被害は筆舌に尽くしがたい凄惨なものです。
そんな仙台に暮らす一編集者がなすべきこと……やはりそれは、「伝え続ける」こと。
東京発信ではない、あくまでも被災地からの、地元からの視点で発信し、伝え続けること。
未来の子供たちのために、二度と悲劇を繰り返さないために。
彼、土方氏の、〈荒蝦夷〉の「闘い」は、現在進行形です。
細かいことを言えば、彼、土方氏の政治的思想的心情には、私とは相いれない点が多々あるようです。
が、まあ、そんなことは小さなことです。〈荒蝦夷〉が行っていることは、東北の、大自然溢れる東北が歩んだ歴史や文化、伝統といったものを紙に綴り、後世に伝えようとするもの。それもあくまで東北からの視点にこだわったもの。
私も東北人として、東北を愛し、東北の歩んだ悲しい歴史に涙したものとして、
この〈荒蝦夷〉の出版姿勢は、高く評価したい。
ガンバレ、荒蝦夷!!
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最後に、私信を一つ。
土方君、君とは大学の4年間を通じて、面白い付き合いをさせてもらいました。
思えば君とは、バカなことも随分一緒にやった……というより、君が行うバカな行為に、私は一方的に巻き込まれていただけ、という方が正しいかな(笑)。
でもあのころから、君はある点でとても純粋だったし、「熱さ」を持った男だった。どうやらその点は今も変わらないようだね。
君の活躍を、とてもうれしく思う。
ガンバレ、土方!!
『震災編集者 ~東北の小さな出版社〈荒蝦夷〉の5年間~』
土方正志著
河出書房出版社