大前研一のニュースのポイント

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東芝HD-DVDの撤退における問題点は? 消費者にとって本当に大きな問題か?

2008年03月04日 | ニュースの視点
19日、東芝は「HD-DVD」事業からの撤退を正式に発表した。

ソニー陣営のブルーレイディスクと激しく規格争いをしていたが、去年の年末商戦での不振、米映画会社ワーナー・ブラザーズの離反などから事業継続の断念に至ったとのこと。

東芝が事業撤退を決めた直接のきっかけとなったのは、DVDソフトの提供元であるワーナー・ブラザーズが、東芝の「HD-DVD」からソニーの「ブルーレイディスク」に鞍替えしたことだ。

これによって、例えば米映画会社のDVDソフト販売における金額シェアで見ると、ブルーレイディスクが66%を占めることになった。

これにより、HD-DVDは否応なくソフト不足の状況に陥るだろう。

このような状況は、かつてビデオの規格でVHSに敗れ去ったベータと全く同じ状況であり、事業撤退も止むを得ないと私は思う。

では、今後、消費者にとってどのような影響が考えられるか?

まず、東芝の対応としては、端的に言えば次の3点に集約されている。

それは、「返品には応じない」「修理は行う」「記録メディアは当面販売を継続する」ということ。

ソフト販売については、今後、パラマウント、ユニバーサルを代表とする映画ソフト会社が、いつまでHD-DVDを継続利用するかは、現時点では何とも分からない。

また、販売する立場にある家電量販店は、「販売中止」派と「販売継続」派に分かれているが、唯一エディオンだけが「ブルーレイディスクに交換する」という対応を発表している。

消費者にとって最も親切な方法だが、全体を考えると、これは絶対に選択してはいけない方法だと私は思う。

規格争いの暗黙のルールは、敗れた方は静かに消えていくということだ。

ところが、今回のエディオンのような対応が行われると、「HD-DVD」が静かに消えるまえに、大きな火種を残してしまう可能性があるのだ。

それは、エディオンだけが特別対応をすることで、東芝に対して「自分も取り替えたい」と主張する人が必ず現れる。

こうなると、東芝は交換対応をしないと言っていても、消費者の怒りが政府に波及し、政府が消費者救済を名目として東芝に圧力をかける可能性があると私は見ている。

消費者にとって、規格争いは品質向上や低価格化というメリットがある反面、常にこのように撤退する可能性がある方式を選択するリスクを負うデメリットが存在する。

しかし、これは事前に分かっていることだし、消費者としてもそのリスクを想定して、予め織り込んでおくべきだろう。

ただ、私に言わせれば、今回の規格争いで勝利した「ブルーレイディスク」にしても、今後ブロードバンドが発達し、全てホームサーバからHDDにダウンロードするという方法に移行していく世の中になれば、消え行く運命だと思う。

いずれの規格も、ハイビジョン対応のときにしか有効に使われない規格で、40インチ以上などの大きなテレビでなければ実感も変わらないのだから、それほど大騒ぎするほどのことではないというのが私の率直な感想だ。

ニュースを賑わしているからと言って、単にそれだけの理由で関心を持っても意味はないだろう。

実用的な意味での効果・効用を考慮したうえで、情報に流されることなく、自分自身でバランスをとることが大切だ。

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