大前研一のニュースのポイント

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今の銀行には、まともな融資判断をするスキルがない・・・他

2013年08月23日 | ニュースの視点

●今の銀行には、まともな融資判断をするスキルがない

金融庁は独自の基準に基づいた画一的な銀行検査を見直す方針を明らかにした。1990年代はじめのバブル崩壊後の不良債権処理を目的としてきた検査を転換し、融資先が健全かどうかの判断は銀行に大部分をゆだねる方針とのこと。

銀行がリスクをとりやすくなり、技術力はあるのに決算上は赤字になっている中小・ベンチャー企業がお金を借りやすくなるということだが、これは全く実現性のない「嘘」だと私は思う。なぜなら銀行には「査定」するスキルがないからだ。

バブル崩壊以降、金融庁が作成したマニュアルにのみ従ってきた銀行には、「経営者を見て、事業計画を見て」融資を判断することができる人は育っていない。今、銀行は融資の際、必ず「抵当」を前提とする。かつて赤字で苦しんでいた松下幸之助氏に、銀行が「経営者としての松下幸之助を見込んで」融資してくれたという話は有名だが、今では無理だろう。

金融庁も都合が良すぎる発表をしたものだと思う。自ら作成したマニュアルのせいで、融資判断ができない人材を育てておいて、今頃になって銀行にまともな融資判断を求めるとは支離滅裂だ。

さらに似たような事例を挙げれば、金融庁は3月、各財務局の認可を得た信金に対し、取引先企業が海外に作った現地法人に直接融資できるという政策を打ち出している。愛知県瀬戸市の瀬戸信金や大阪府八尾市の大阪東信金が認可を得た他、およそ20の信金が準備に入ったそうだが、これも「本当に大丈夫か?」と疑いたくなる。

国内で運用先がないからと言って、そのスキルもないのに海外直接投資を促すというのは、金融庁による規制緩和によってノンバンクに投資して失敗した住専を思い起こさせる。役人が主導することというのは、基本的に同じパターンであり、全く進歩が見られない。


●大学発ベンチャーも聞こえはいいが、仕掛けそのものが間違っている

日本には、このような役人主導の辻褄の合わない政策が多すぎる。帝国データバンクが15日発表した大学発ベンチャー企業の2012年の売上高は、約7割は売上高が1億円を下回ったと言う。約半数は5000万円未満で、有望技術や特許を強みに設立しても、事業が軌道に乗らず苦戦が目立つとのことだが、これも日本の大学の先生の実態を知っていれば、「当たり前」の結果だ。

小泉元首相が実施した「大学発ベンチャー1000社計画」をピークに、東大発バイオベンチャーなどがいくつか出てきた程度で、ジリ貧になっている。それでも、安倍政権下では、2012年度の補正予算で、産学共同研究や大学発ベンチャーへの出資金などの用途1800億円を割り当てているが、この資金はどこに消えていくのだろうか?

大学の先生がベンチャーを起業したいなら、自由にやるのは良いことだ。ただし、実行するなら、授業料の3分の1は配当金で賄うくらいの気合が必要だろう。スタンフォードやMITとは異なり、日本の大学の先生には「起業意欲」そのものが低いと感じる。

また資金を出すのは国ではなく、高齢者がエンジェル(投資家)になるほうが良いと私は思う。そうすることで、高齢者が抱えている預貯金の流動性も高くなるし、意義も大いにある。これも役人主導の「仕掛け」そのものがよろしくない政策の代表例だと言えるだろう。

さらには、次のような事例もある。

東京都江東区は区内を南北に通る豊洲―住吉間の地下鉄新線計画について、70円の加算運賃を設定すれば開業から29年で累積収支を黒字にできるとの試算をまとめたそうだ。

しかし、これは建設費に国の補助を受けるには30年以内の黒字化が義務付けられているため、それに合わせて「29年」と言っているだけだろう。実際に黒字になる確率は極めて低いと思う。これまでにも、飛行場を始め同じような試算をして建設された多くが採算割れしている。基準ありきで、そこに合わせる政策。それが日本の役人が主導する政策にはよく見られる。結果として、不必要なものまで作ってしまうのだ。

このような事例は枚挙に暇がない。それにも関わらず、その虚像のままを報道している新聞にも大いに問題があると私は感じる。上手く行っていない施策であれば、それは事実としてしっかり書くべきだ。役人が発表するままに報道しているだけでは、脳天気に過ぎると言わざるを得ないだろう。


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