大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

日本の年金基金は、カナダなどの学ぶべきことが多い

2013年07月12日 | ニュースの視点

三菱商事や企業年金連合会、みずほ銀行、国際協力銀行はカナダの公的年金と共同で、月内に米ミシガン州の火力発電所を買収すると発表した。買収総額は2000億円弱で、民間資金によるインフラ整備が世界の潮流となるなか、株式や債券以外にも投資先を探す日本の年金マネーを呼び込むモデルケースとなる見込みだ。

今日本では金余り状態が続いているから、非常に良いことだと思う。欲を言えば、日本の発電所も含まれていて欲しいところだ。

カナダの年金ファンドの運用実績を見ると、非常にしっかりしていることが分かる。インフラファンドには、公的年金基金、企業年金基金、保険会社、銀行、アセットマネージャー、そしてスーパーアニュエーションがある。スーパーアニュエーションというファンドはオーストラリア独自のファンドで、リゾートなども取り扱っている。ですので、年金を買った人は、安い金額でリゾート地への旅行が可能になることもある。引退したら、こういう仕組みを利用できるのは大いにメリットがあるだろう。

世界のインフラ投資ファンドを見ても、カナダ、アメリカ、オーストラリアは非常に経験豊富だ。この十数年の利回りで見ると、平均で10%程度は稼いでいる。正直、三菱商事だけでは不安だ。カナダの公的年金と共同というのは、良い勉強にもなるだろうし、非常に良いことだと思う。

日本の年金基金の運用利回りは、カナダ、アメリカ、オーストラリアに比べると、まだまだ低い水準だ。国民年金と厚生年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2日発表した2012年度の運用成績は運用利回りが10.23%と過去最高になったとのことだが、逆に言えば過去最高で「10%」なのだ。

過去の運用実績を四半期別に見ると、マイナスの時期もあったので全体の平均では10%には遠く及ばない。理論上、日本の年金は6%を超える利回りにならないと困る設計になっているが、おそらくこれまでの運用実績では6%にも届いていないだろう。

カナダやシンガポールの年金基金は、「平均」で10%の運用利回りだ。アベノミクスのフェイントによって瞬間風速で10%の運用利回りはすごいと言われても、今年の後半まで持つのかどうかさえ不安に感じてしまう。

国土交通省は2日、2012年度の国土交通白書を発表した。それによると、40歳未満の若者の持ち家比率が1983年から08年の25年間で42.2%から28.4%へと約14ポイント低下したとのことだ。

このニュースについて、私は非常にポジティブに捉えている。というのは、今の日本の状況に鑑みれば、持ち家ではなく賃貸という選択肢を取るのは間違っていないと思うからだ。

日本は空き家の比率が13%もあり、地価は上がらない状況だ。その上、今後人口は減っていくから、さらに空き家は増えるだろう。この状況からすれば、無理をして持ち家を買うのではなく、賃貸のほうが明らかにリーゾナブルだ。

しかも日本はこの十数年で年収も減っている。無理をして持ち家を買うために、数千万円の借金を抱えるのは得策とは思えない。自分で余裕を持って支払える範囲内で賃貸を利用するほうが良いと思う。

フランスでは年収の5倍、ドイツでは8倍が持ち家価格の限界と言われている。日本はかつて年収の20倍の持ち家を買っていた。「将来間違いなく地価が上がるから今買っておかないと損だ」という時代であれば、確かに多少無理をしてでも持ち家を買うほうが得策だ。とは言え、バブル時代の日本で地価が上がり続けると思って持ち家を買った人達は未だにそのときの借金を抱えている人が多くいる。非常に不幸な財務バランスになってしまっている。

人生の財務バランスを考えた時、大きな金額で持ち家を買って、いきなり大きなマイナスからスタートするのは避けたほうが良いと思う。また住む場所を固定してしまうと、何かあっても自由に動くことが難しくなる。

日本では持ち家がないとクレジットカードの審査で不利になるなど不便な側面もあるが、それを考慮しても、今の日本では持ち家ではなく賃貸という選択肢のほうがリーゾナブルだと思う。それでも人生の最後には持ち家が欲しいという人もいるだろう。そのような場合には、定年退職後に避暑地などでリーゾナブルな家を見つけると良いと思う。そして、定年後の20年間住む家を持つというのも1つの選択肢ではないだろうか。


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