大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

再び見直されるヘンリー・フォードの経営哲学とは?/デトロイト市の悲惨な状況は他人事ではない

2013年08月16日 | ニュースの視点

●再び見直されるヘンリー・フォードの経営哲学とは?

東南アジア主要6カ国の1~6月の新車販売台数は前年同期に比べ15%増の182万332台。2013年通年では過去最高だった昨年と同水準となる見込みで、日本車のシェアは80%を突破したとのことだ。

日本車(トヨタ)の生産台数の全体で見れば、未だに米国が強いが、タイが大きく伸びて2位になっている。また中国市場、欧州市場が伸び悩む中、インドネシア市場が欧州を抜く日も近いと思う。タイ、インドネシアといった東南アジアの持つウエートが重要になってきていると言えるだろう。

スズキは2014年を目処にインドネシアに乗用車工場を新設すると発表した。投資額は約1000億円と言われているが、これも東南アジア重視の流れだろう。現在、インドネシア市場におけるシェアは、トヨタ、ダイハツ、三菱、スズキの順だが、今回の投資によってスズキが2位に上がってくると思う。

日本の自動車メーカーの目が東南アジアへ向き始めている中、先日、日経新聞は「日本とフォード、すれ違いの歴史」と題する記事を掲載した。最近、日本とフォード・モーターには不協和音が多いとし、トヨタ自動車との提携を2年で解消することや、TPP交渉への日本の参加を反対していることを紹介。フォードのアラン・ムラーリー最高経営責任者(CEO)は、トヨタ生産方式を導入するなど親日派で知られることから、フォード創業家一族の影響力が働いていると分析している。

ちょうどヘンリー・フォード生誕150周年ということもあって、米国ではノスタルジックな雰囲気が強くなっている。今こそ、ヘンリー・フォードの時代に戻るべきじゃないか、という論調が強まっている。

ヘンリー・フォードはT型フォードを大量生産し、同時に従業員に「高賃金」を支払うことを何回も演説したことで有名だ。従業員が高い給料を手にすれば消費が拡大し、国全体が豊かになるという考えだ。

当時においても、他の搾取的な資本主義者とは違う「経営者の鑑」だと言われていた。実際、米国の労働分配率を見ると、ヘンリー・フォードの時代から悪化の一途を辿っていた。

ヘンリー・フォードの時代には、資本家と労働者の分配率の差は今よりも小さかったのだが、両者の格差は段々拡大し、現在では資本家に傾いている。これは株式市場の優勢により、配当を行い、貯めた資産を海外に移すという流れがあり、労働者が重視されていないことが原因だ。


●デトロイト市の悲惨な状況は他人事ではない

フォードと日本の不協和音という意味を考える時には、米国の自動車産業の「聖地」とも言える「デトロイト」という街のことを念頭に置いておく必要があると思う。フォードのアラン・ムラーリー最高経営責任者(CEO)は評判が良く、優秀な経営者だ。そのムラーリー氏が考えていることの1つは、「デトロイトを守る」ということだ。ゆえに、TPPに対する日本の農業のごとく、デトロイトを守るために「ハンディキャップ」を獲得しようと画策しているのだと思う。

ご存知の通り、先日デトロイト市は財政破綻した。その結果、今のデトロイト市はどうなっているか?というと、1日のうちに十数件の放火や犯罪がある状況だ。街灯も40%しか行き届いておらず、ますます犯罪が増えるという悪循環に陥っている。

米経済誌フォーブス電子版が今年2月に発表した「惨めな米都市番付」でも、暴力犯罪の多さや高い失業率、人口の減少や金融危機の影響などにより、デトロイトがワースト1位になっている。

日本はこれを他人事だと思っている余裕はない。代表的な例を言えば、夕張市だ。今日、同市の人口は最盛期と比較すると10分の1以下に減った。夕張市だけでなく、一昔前には「3割自治」と言われた日本の地方財政はさらに悪化しており、国の補助がなければ「1割自治」のレベルに落ちているところもある。このような地域では、当然のことながら人口は減っていくし、サービスレベルも下がっていく。日本全体の人口が減っていく中、地方のオフィス空室率は高まる一方だ。おそらく、今のままでは存続できない市町村が多く出てくると思う。デトロイト市の事例が、まさに日本の地方都市の明日の姿になってしまうかも知れない。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。