大前研一のニュースのポイント

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消費増税の再検討は危険な考え方/景気よりも財政問題が深刻・・・他

2013年08月02日 | ニュースの視点

●消費増税の再検討は危険な考え方/景気よりも財政問題が深刻

安倍首相が来年4月に予定する消費増税による景気や物価への影響を再検証するよう指示したことが26日明らかになった。政府は法律で定めた通り消費税率を現行の5%から10%に2段階で引き上げる場合を含め、増税の開始時期や引き上げ幅を変える複数案を検討するとのこと。

デフレ脱却を重視し、増税が来春以降の景気腰折れを招かないよう、追加的な景気対策の実施も視野に万全の準備で臨む考えのようだが、これは「危険」な考え方だと私は思う。

消費増税については、民主党政権時に自民党も合意の上で可決されている。つまり、これは正式に「やらなければならない」ことだ。実施を2段階にした上、さらに繰延べとなってくると、日本の財政規律の問題になるだろう。

これは国債の暴落を招く危険性すらある。ゆえに、麻生財務相及び財務省は、何とか食い止めようとしている。安倍総理は事情を理解していないのか、1年で1%ずつなどと言っているが、市場との対話という点で相当ハイリスクだと思う。消費増税を実施しても、きちんと3本目の成長戦略を描けば問題ないはずだ。例えば、私が提案するような土地活用の規制撤廃などだ。

また、消費増税について、景気にどのような影響が出るのか?という議論がある。安倍総理も、景気の数字を見ながら消費増税のタイミングを秋に判断したい、などと述べているが、根本的に間違っている。

というのは、今の日本の最大の問題は景気の悪さ(不況)ではないからだ。この20年間日本はずっと不況だったが、それでも餓死者が続出するわけでもなく、失業率も4%台でスペインのような大きな数字にはなっていない。つまり、日本という国は景気が悪くなっても、つぶれることはないのだ。

それよりも、GDPの2倍という歴史上類を見ない莫大な借金を抱えた財政こそが、日本の最大の問題だ。約1000兆円の借金のうち、大半は自民党が生み出したものだ。だから、今の政府はなるべく手を付けたくないという心理が働いているのだろう。

飛行機に例えるなら、不況というのは「乱気流になって揺れますのでご注意ください」程度の話でだが、財政問題は「墜落します」と同義だ。

かつて今の日本ほどの借金を抱えた国もなければ、そこから回復した国もない。さらには、毎年80万人ずつ就労人口が減っていく日本では、借金を返す人がいなくなる時代が、すぐそこに迫っている。まず、この重要性を認識して欲しいと思う。


●日本は米国化し、輸入国になった

財務省が24日発表した貿易統計によると、1~6月期の貿易収支は4兆8438億円の赤字だった。上期ベースでは3年連続の貿易赤字。赤字額は前年同期(2兆9168億円)を上回り、比較可能な1979年以降で最大となったとのことだ。

原発稼働を停止したため、燃料の輸入が増加したことが大きな要因になった、という報道もあるようだが、これは本質的な問題を指摘していない。確かに、直近の数字で輸入が大きく伸びていることは確かだが、貿易収支のグラフを長期スパンで見れば、右肩下がりの傾向にあるのは明らかだ。増加したという鉱物燃料の輸入額も2008年と同レベルであり、突出して大きな数字だったというわけではない。

日本の貿易収支には、反転の兆しは全く感じられない。これは日本が米国化したことを意味している。すなわち、日本は輸入国になったということだ。今、日本企業は海外でモノを作って日本国内の販売網で販売する、という形態に変化している。かつて米国が経験した「3つ子の赤字」問題のうち、2つの赤字を日本も抱えてしまっている状況なのだ。


●安易に「国益」という言葉をつかって、ごまかすな

日本政府は23日午後、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に正式参加した。日米両国を軸とする巨大な貿易圏作りが動き出し、アジア太平洋を巡る経済や安全保障の枠組みに大きな影響を与える見通しとのこと。

私が気になったのは、交渉担当官がしきりに「国益」を強調していたことだ。私に言わせれば、彼らが言う「国益」は「少数利益団体の利益」であって、本当の意味での「国益」ではない。

国民消費者から見れば、良いモノが安く購入できることは非常にいいことだ。そうした観点を無視して、自分たちの都合だけで「国益」を語るのはおかしな話だ。安易に「国益」などという言葉を使わずに、正直に言えば良いのだ。

自民党には「国益」と称して、利益を守るべき団体があって、そういう存在が自民党を支えているとも言える。ただ、そのような事情は米国でも同じだろう。オバマ大統領にしても理解できるだろうから、「お手柔らかに」と言えば良いのだ。

こうしたことさえ理解できずに、安易に「国益」という言葉を使うのは、明らかに新聞記者の認識不足だと思う。


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