大前研一のニュースのポイント

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大統領選挙に見えた、米国の人種的な分裂状況/オバマ大統領ゆえに、財政の壁はより危機的になっていく

2012年11月20日 | ニュースの視点

6日投票の米大統領選は即日開票の結果、民主党のオバマ大統領が
激戦州の大半を制し再選を果たした。

7日未明には財政再建と経済成長の両立に取り組む考えを示したが、
米議会選挙は野党共和党が下院の過半を維持しており、
政策運営には不安が多い状況だ。

今回の大統領選挙を終えて感じるのは、米国には「徒労感が残っただけ」
ということである。

1年半という選挙期間は「列車時代」の過去の産物であって、
今の時代に合わせるなら3ヶ月程度でも良いと思う。

またその長期間にわたって、膨大なお金を無駄にしつつ候補者同士が
お互い中傷合戦を繰り広げるため、結果として国を2分してしまうのである。

オバマ大統領の再選が決定した直後は盛り上がりを見せましたが、
すぐに「これからの新しい4年間には何ら変化は期待できない」というような
倦怠感に似たムードが漂い始めた。

株式市場が4日続落したのも、こういうムードを受けた結果だと思う。

選挙期間だけでなく、最多得票数を得た候補者がその州の選挙人票を
すべて獲得できる「選挙人団制度」にも問題があると私は感じている。

米国は選挙制度そのものを見直す時期にきているのではないだろうか。

また、今回の選挙結果について「属性別の支持率」を見ると、
米国は人種的な分裂が非常に大きいという事実が浮かび上がってくる

・ 白人(男):ロムニー、オバマ:62:35

・ 白人(女):ロムニー、オバマ:56:42

・ 黒人(男):オバマ、ロムニー:87:11

・ 黒人(女):オバマ、ロムニー:96:3

・ ラティーノ(男):オバマ、ロムニー:65:33

・ ラティーノ(女):オバマ、ロムニー:76:23

  注:CNN調べ

上記を見て分かる通り、米国には「白人対その他」の明確な人種的な対立が存在している。

年代の違い、主義主張の違い、など様々な観点があるが、
最も大きなものは「人種的な対立」という観点であり、
それがここまで明確に表れたことは今までにはなかった。

また州ごとの支持政党もほとんど固まっていて、
ごく一部のスイングステートを除き変化が見られない。

州、人種レベルで支持する人(政党)が固定化してしまっているので、
本当の意味で「米国が変化する」ことは現実的に非常に厳しいと私は感じている。

20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は5日閉幕した。

閉幕に先立ち採択された共同声明では、日米欧が取り組むべき課題を明記し、
日本には特例公債法案を早期に成立させ、今年度の予算執行のための
財源を確保するよう求め、米国には大型減税の失効と歳出の強制削減が重なる
「財政の崖」の回避を要請。

また欧州には債務危機の克服に向け、ユーロ圏の銀行を欧州中央銀行(ECB)が
一括監督する銀行監督の一元化を2013年中に実施することを促した。

再選したオバマ大統領に求められているのは、
兎にも角にも「財政の崖」の回避だ。

米国の財政収支の推移を見ると、「夢の8年」と言われる90年台後半の
クリントン政権後期に財政黒字に転換した後、ブッシュ政権では戦費が
かさんだ上にリーマン・ショックの影響で一気に財政は悪化した。

その後を引き継いだのがオバマ大統領である。

リーマン・ショックの影響という大きなハンディキャップがあったことは
確かだが、明確な改善案を打ち出せず、結局無駄遣いをしただけと
指摘されても致し方ない結果だと思う。

今後、ブッシュ減税の失効などによって財政政策がなくなり、
同時期に自動歳出削減も始まる予定で景気への悪影響が予想される。

また、財政赤字の改善についても、支持基盤が黒人やヒスパニック中心なので
オバマ大統領は大胆な歳出削減施策を打ち出せず、
「歳出減少」に関して明確なポリシーを示していない。

経済、財政面から見ると、オバマ大統領のイメージは完全にマイナスだと
言わざるを得ない。

「財政の崖」の問題は、「オバマ大統領であるがゆえに」さらに
危機的な状況に陥りつつあると私は危惧している。


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