大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

ソニーにはプラットフォーム化の概念がなかった/製紙業界、ゲーム業界には環境変化の波が押し寄せている

2012年11月30日 | ニュースの視点

 欧米格付け会社フィッチ・レーティングスは22日、ソニーを3段階引き下げて
 「BB(ダブルB)マイナス」に、パナソニックも2段階引き下げて
 「BB」にしたと発表した。

 双方とも「投機的」と言われる水準で、世界経済の減速や販売競争で
 厳しい状況に置かれていることが理由とのことだ。

 3段階引き下げられてしまったソニーを見ていると、一体何をやりたいのか、
 どのような方向性に進んでいきたいのか、私には全く理解できない。

 出井氏、ハワード・ストリンガー氏の時代を経て、
 「ソニーらしさ」を失ってしまったことが大きな要因だと思う。

 加えて戦略的には、「プラットフォーム化」という概念を持たなかったことが
 残念でならない。

 ソニーはEdyのような非接触ICカード技術を開発していたのに、
 それをプラットフォーム化して展開するのではなく、
 「単に部品として売る」という選択肢を取ってしまった。

 またApple社がiPodを発売しiTunesStoreというプラットフォームを
 展開した時にも、そこに乗ることを拒否した。

 結果、数年の遅れをとったと思う。

 電子書籍リーダーに関しても、「プラットフォーム化+Eコマース」の
 意識がなかったために、せっかくソニーリーダーという質の高い「ハード」を
 持っていたにも関わらず、本という「ソフト」を押さえなかったのが致命的だ。

 ハードとソフトの両方を押さえたアマゾンには勝てないと思う。

 ソニーらしさを取り戻し、どのような戦略で進んでいくのかを明確にしなければ、
 ソニーが復活する見込みは薄いと私は感じている。
 
 王子ホールディングスは22日、2016年3月末までに国内の全従業員の
 1割にあたる約2000人の削減を柱とするリストラ策を明らかにした。

 内需の縮小、円高による輸入紙の定着で国内市場が厳しさを増すと判断、
 一段の構造改革に踏み込む考えだ。

 また、日本格付研究所は19日、日本製紙グループ本社の長期発行体格付けを
 「シングルAプラス」から「シングルA」に1段階引き下げたと発表している。

 王子製紙といえば、日本でも有数の地主であり、そのような企業が
 苦境に追い込まれているというのは注目すべきだと思う。

 電子化によって紙媒体が衰退し、かつ輸出が減り輸入が増えるという
 状況になっている。

 原材料自体も輸入品を使わなければコスト高になるため、
 森林という最高の資産を保有しながらも、それを活用できないという
 ジレンマに陥っている。

 そして、今後は「格付けの下落→リストラ→さらなる格付けの下落」
 という悪循環が待っている。

 これはかつて繊維業界が陥った状況と全く同じで、
 大きな環境変化によってビジネスモデルの根幹が揺らいでしまっている。

 また、大きな環境変化という意味では、ゲーム業界も注目したいところだ。

 任天堂は18日、家庭用ゲーム機で6年ぶりとなる新型機「Wii U」を
 米国で先行発売します。

 手元のコントローラーに6.2インチの液晶タッチパネルを搭載、
 テレビと液晶画面の両方で遊べるのが特徴。

 2012年3月期に上場後初の最終赤字を計上した任天堂の業績回復の鍵を握ると
 見られている。

 本体にはテレビ電話・カラオケ・インターネットの機能が備わっていて、
 高精細画像でゲームが楽しめる。

 そして手元のコントローラーだけでも独立して遊べ、
 かつスマートフォンよりも本格的なゲームができる点が「売り」になっている。

 しかしスマートフォンで「手軽に遊べる」ことを覚えてしまった人が、
 果たして多くの機能が盛り込まれたコンソールゲーム機に戻ってきてくれるか?
 というと、私は疑問を感じざるを得ない。

 任天堂は依然多額の現金を保有する企業ですから、単年度赤字くらいで
 屋台骨が揺らぐことはありませんが、そうは言っても、コンソールゲーム機に
 固執すると将来的に大きなダメージを被る可能性が高いと私は思う。

 仮に今回の商品が売れたとしても、次のコンソールゲーム機が
 同じように売れる保証はない。

 約3万円という高額コンソールゲーム機を買ってくれる人が、
 将来的にいつまでいてくれるだろう?

 そして、スマートフォンのゲームに対して、コンソールゲーム機で対抗する場合、
 「外した」ときの損害が大きいというのが非常に痛いところである。

 スマートフォンとそれによる大きな環境変化をどのように受け入れるべきか、
 どのように対応していくべきか、改めて考える必要があると思う。


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