荻野洋一 映画等覚書ブログ

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フォルクスビューネ、ベルリン『無防備映画都市』

2011-09-25 11:05:57 | 演劇
 「フェスティバル/トーキョー11」の一環として来日したフォルクスビューネ、ベルリンによって、《ルール地方三部作》第二部である『無防備映画都市』が、東京・豊洲の春海運河わきにつくられた野外特設会場にて上演されている。作・演出ルネ・ポレシュ、美術ベルト・ノイマンによる秀逸な作品。
 初日、二日目と台風15号によって上演中止となったことを思えばいっそう、肌寒いほどの秋の浜風に晒されながら、このひとときの哄笑に包まれたから騒ぎに立ち会えた観客は幸福だと断じておこう。ルール工業地帯の産業社会の終焉と再生事業の行きづまり、そして労働運動をめぐるディスカッションが、なぜかローマの映画撮影所チネチッタに移管されている。これは、ゼロであり終焉でもあったロベルト・ロッセリーニの『ドイツ零年』(1948)がブリッジとなっているだろう。
 登場人物たちは必死に『ドイツ零年』を再現しようと努めるのだが、どうしてもから騒ぎに移行してしまい、完遂することができない。そしてチネチッタからの連想ゆえ、『8 1/2』や『そして船は行く』のフェリーニが接ぎ木され、から騒ぎは切れ目がなくなっていく。
 200人程度を収容する観客席の頭上に、村祭りのような大テント。そして舞台はというと…。広大な空き地に建物の書割り、乗用車2台、パトカー1台、ケイタリングカー、メイク車、ロケバスがときどき無造作に発進し、猛スピードで土ぼこりをあげながら円を描いてみせる。俳優たちは時に観客の目の前で絶叫し、時に豆粒になるほどずっと奥の方へ──つまり春海運河の方角へ──立ち去ってしまい、舞台上は無人となる。スクリーンでは、撮影クルーが映し出す芝居が遠隔での集散を、かろうじて私たち観客のもとに報告し続けてくれるのだ。ロケバス内の登場人物とメイク車の登場人物がなんの問題もなく会話を交わす。つまり、2カメで撮影されているため、スイッチングによって切り返しが別空間を飛べ越えているという案配である。
 いくら野外劇とはいえ、舞台(?)の面積はざっと観客席の10倍はあるにちがいなく、とんでもなくふざけた、素晴らしく広大な芝居だ(写真は、終演直後の会場)。

 それにしても、この特設会場のすぐ隣に、「がすてなーに」(ガスの科学館)が建っている。建築の外観は子ども相手のフレンドリーなデザインだが、ようするに東京ガスの工場跡地である。何年かしたら、強力な反対運動にもかかわらず、私たちがいま腰かけているこの空き地には築地市場が移転し、仲買人の掛け声がこだましているのだろうか。国の環境基準を大きく上回る有害物質(ヒ素、鉛、六価クロム、ベンゼンなど)だらけのこの土の上でいま上演がおこなわれているという事実を、フォルクスビューネ、ベルリンの面々は知っているのだろうか? これはきわめて皮肉な状況だ。


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2 コメント

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Unknown (無名)
2011-09-25 19:44:55
レス失礼します。

先日、期間限定で一般公開されているチネチッタを見るためにイタリアへ行ってきました。展示物のどれを見てもやはりフェリーニの影を強く感じる撮影所でした。国立映画学校のドキュメンタリーを上映していましたが、増村保造もここで学んだことを思い出して感慨深くなります。しかし、旅行前にフェリーニの映画を何本か見直そうとDVDを探したら、意外と少ないのに驚かされました。『そして船は行く』や『アマルコルド』が絶版状態なのは、特に驚き失望してしまいましたが。

記事と関係ない話で失礼しました。
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チネチッタ (中洲居士)
2011-09-26 05:13:27
無名さん、お早うございます。

イタリア旅行、そしてチネチッタ見学いいですねえ! うらやましい。わたくしは残念ながらまだイタリアに行ったことがないのです。

日活調布、大映多摩川、東映大泉、東宝砧、国際放映(新東宝)と、大船以外は東京地方の撮影所は仕事がらみで行っていますが、外国の撮影所は行ったことがないです。こういう場所は、なかなか機会があるものではないですよね。
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