アケミ(75歳)はおととし、ウチで自殺未遂を犯した。
睡眠薬を多量摂取して倒れているところを
ヘルパーが発見したのだ。
退院後、すぐには帰ってこられなかった。
また自殺するリスクがあるとして
3ヶ月間、精神病院に入院させられたのだった。
あれからもうすぐ2年。
すっかり回復したアケミは毎日10000歩のウォーキングを日課とし
他の利用者からも、職員からも親しまれて
明るく健康的な毎日を送っている。
さて、そんなアケミのところに、昨夜、服薬介助のため訪室した。
「ねえ、アナタはなんでそんなにスタイルがいいの?」と、アケミ。
(もちろん、かなりのお世辞である。そんなこと、わかってら~い)
いやいや、アケミさん、これでも結構太ったのよ。
8年前にちょっと辛いことがあってご飯も食べられなくて
すっごく痩せちゃったことがあったんだけど
今はほとんどもとの体重に戻ったの。
そう言うと、アケミの目は輝き、ぐいぐいと質問を浴びせてくる。
「何? 何があったの? お金? ご主人のこと?」
いや~、お金のこととも言えるし、主人のこととも言えるし
いやいや、別に主人が女をつくったとか、そういう話じゃなくて…
援助は詰まっているからここで長話をするわけにもいかないし
ましてやお世話している利用者さんに
個人的な苦労話を聞かせるのもどんなものか!?
ま、とにかく、50、60過ぎれば
誰にも苦労の一つや二つあるってことよね。
そう言って惜しまれつつ退室した。
それから2時間後。
夜勤中だった私は、エントランスに怪しい人影を発見する。
アケミだ。
マスクをして、頭からすっぽりスカーフをかぶっていて
一見怪しげな不法侵入者だが
あのダウンコート姿はアケミに違いない。
どうしたの、アケミさん? こんな夜中に。
私を見て嬉しそうな笑顔を浮かべた彼女は言った。
「さっきアナタと話をして、辛いのは自分だけじゃないってわかったの。
実は誰にも話していなかったけど
私の夫、結婚前から女がいて
子どもを生んだ頃にそれに気づいて
でも、子どものためにず~っと、ず~っと我慢してきたのよね。
それがおととし、ついに爆発しちゃって
あんな騒ぎ(自殺未遂)を起こしちゃったの」
「入院治療のお陰でもう自殺を考えることはなくなったけど
それでも心の奥底に、夫に対する恨みつらみが残ってて
たま~にフツフツと嫌な記憶が戻ってきたりしてたのよ」
北風の舞うエントランスで立ち話をする彼女の手に
コンビニの袋が。
で、こんな時間にお買い物?
するとアケミがカラカラと笑った。
「うん。苦労してるのは自分だけじゃないと思ったら
なんだか気分がよくなって
思わず梅酒買って来ちゃったあ!
これから一人で乾杯するの。
アナタの話を聞いたお陰よ。ありがとねえ」
十数年ぶりに飲むお酒らしく
介護職員としては一応、心配していた。
しかし今朝、彼女に会うと
夕べはあれから梅酒を2杯ほど飲み、久しぶりに心地よく眠れたという。
「ありがとう。アナタの話で救われたわ」
ええ~? 私の何気ない話で
アケミさん、救われちゃったのかあ?
ありがとう。こちらこそ、ありがとう、だわ。
人間、持ちつ持たれつ、というけれど
人間、救い救われつつ…って気がするなあ。
睡眠薬を多量摂取して倒れているところを
ヘルパーが発見したのだ。
退院後、すぐには帰ってこられなかった。
また自殺するリスクがあるとして
3ヶ月間、精神病院に入院させられたのだった。
あれからもうすぐ2年。
すっかり回復したアケミは毎日10000歩のウォーキングを日課とし
他の利用者からも、職員からも親しまれて
明るく健康的な毎日を送っている。
さて、そんなアケミのところに、昨夜、服薬介助のため訪室した。
「ねえ、アナタはなんでそんなにスタイルがいいの?」と、アケミ。
(もちろん、かなりのお世辞である。そんなこと、わかってら~い)
いやいや、アケミさん、これでも結構太ったのよ。
8年前にちょっと辛いことがあってご飯も食べられなくて
すっごく痩せちゃったことがあったんだけど
今はほとんどもとの体重に戻ったの。
そう言うと、アケミの目は輝き、ぐいぐいと質問を浴びせてくる。
「何? 何があったの? お金? ご主人のこと?」
いや~、お金のこととも言えるし、主人のこととも言えるし
いやいや、別に主人が女をつくったとか、そういう話じゃなくて…
援助は詰まっているからここで長話をするわけにもいかないし
ましてやお世話している利用者さんに
個人的な苦労話を聞かせるのもどんなものか!?
ま、とにかく、50、60過ぎれば
誰にも苦労の一つや二つあるってことよね。
そう言って惜しまれつつ退室した。
それから2時間後。
夜勤中だった私は、エントランスに怪しい人影を発見する。
アケミだ。
マスクをして、頭からすっぽりスカーフをかぶっていて
一見怪しげな不法侵入者だが
あのダウンコート姿はアケミに違いない。
どうしたの、アケミさん? こんな夜中に。
私を見て嬉しそうな笑顔を浮かべた彼女は言った。
「さっきアナタと話をして、辛いのは自分だけじゃないってわかったの。
実は誰にも話していなかったけど
私の夫、結婚前から女がいて
子どもを生んだ頃にそれに気づいて
でも、子どものためにず~っと、ず~っと我慢してきたのよね。
それがおととし、ついに爆発しちゃって
あんな騒ぎ(自殺未遂)を起こしちゃったの」
「入院治療のお陰でもう自殺を考えることはなくなったけど
それでも心の奥底に、夫に対する恨みつらみが残ってて
たま~にフツフツと嫌な記憶が戻ってきたりしてたのよ」
北風の舞うエントランスで立ち話をする彼女の手に
コンビニの袋が。
で、こんな時間にお買い物?
するとアケミがカラカラと笑った。
「うん。苦労してるのは自分だけじゃないと思ったら
なんだか気分がよくなって
思わず梅酒買って来ちゃったあ!
これから一人で乾杯するの。
アナタの話を聞いたお陰よ。ありがとねえ」
十数年ぶりに飲むお酒らしく
介護職員としては一応、心配していた。
しかし今朝、彼女に会うと
夕べはあれから梅酒を2杯ほど飲み、久しぶりに心地よく眠れたという。
「ありがとう。アナタの話で救われたわ」
ええ~? 私の何気ない話で
アケミさん、救われちゃったのかあ?
ありがとう。こちらこそ、ありがとう、だわ。
人間、持ちつ持たれつ、というけれど
人間、救い救われつつ…って気がするなあ。
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