毎日毎日、様々なお客様が事務所を訪ねてくる。
生まれつき聴覚に障害を持っている爺様Yは
「すみませーん、ファックスが故障しているので見て下さ〜い‼️」と
どでかい声で困りごとを訴える。
(故障ではなく、操作方法がわからなくなっただけなのだが)
診察を受けたわけではないが
恐らく認知症に加えて精神疾患も持っているであろう婆様Zは
「あのさ、だからね、私はアレなんだよ。でさ…」と
意味不明の訴えを延々続ける。
時には下着姿のこともあって、こちらは大慌てするのが・・・。
一見しっかりしているが
部屋の中に汚れたオムツが散乱している爺様Hは
この季節になると「確定申告に行ってきます」と
外出の挨拶にやってくる。
(それはもう何年間も家族がやってくれているのが)
医者の妻であり、ついこの間までしっかりしていた婆様Mは
通帳と保険証がなくなったと訴えてくる。
(なくなった、なくなったと毎日大騒ぎするので
家族が金庫にしまっただけの話なのだが…)
そしてコント婆ミチコ。
もちろん彼女は健在である。
「股間がヒリヒリと痛い」が収まったかと思えば
今度は「お金がなくなったから息子に電話してほしい」。
「皆さんにお礼をしたいので好きな食べ物を教えてほしい」。
そんなやりとりが一周すると
またしても「股間がヒリヒリ」という訴えに戻る。
これらはほんの一例であり
事務所にいると
日々、気が狂いそうになるほどたくさんの珍客に
対応しなければならないのだ。
もう、うんざり。
そんな訪問があまりにも多いと、心底辞めたくなる。
さて、そんな私たちを笑わせてくれるのが
能天気な認知症、エツコである。
下肢筋力が弱っているため杖を持って歩かなければならないのに
エツコはいつも、忘れる。
杖なしで、転げそうになって食堂に歩いてくる。
「エツコさ〜ん、杖を忘れてるわよ」
職員がそう注意すると、あ、そうだったわ!と素直に引き返すのだが
再び廊下を歩いてくる彼女を見て大笑い。
彼女が持っているのは杖ではなく、なんと、自転車の空気入れなのである。
エツコは自転車の空気入れを杖にして
廊下を歩いているのだ。
まったくもぅ!!!と思いながらも笑える。
たまには笑いたいから
エツコの自転車の空気入れはそのまま玄関に置いておくことにした。
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