11月7日付のブログ「ワタシノコトヲ、シッテイマスカ?」に登場した
激しい認知症のチエミ。
他の利用者から白い目で見られたり怒鳴られたり
時には「お前なんか出ていけ!」と突き飛ばされたり
そんなことが続くうちに
ますますおかしくなってしまった。
この間なんぞパンツ一丁で出てきてしまったから
大慌てで部屋に連れて帰った。
たまたま私が近くを通りかかったからよかったが
職員に発見されずにそのまま食堂に来てしまっていたら
元気な利用者たちからどんなに罵倒されたことか・・・。
自立高齢者と重度の認知症高齢者の共存する「サ高住」は
だから難しいのである。
他の利用者に迷惑をかけず
チエミがここで安心して暮らせるようにするにはどうしたらいいのか。
さまざまな取り組みを検討する中で
今日、私は唱歌のDVDを彼女に見せた。
研修室にチエミともう一人穏やかな認知症の女性を呼び
彼女たちにとっては恐らく初めての抹茶ラテを運ぶ。
そしてスタートした、歌と映像を楽しむ時間。
「赤とんぼ」「ちいさい秋みつけた」「朧月夜」など
誰もが知っている温かい歌が流れ
その歌への郷愁を掻き立てるように
どこか懐かしい田舎の風景や
そこではしゃぐかわいい子供たちの姿が映し出さる。
果たしてチエミは、落ち着いて座って見ていられるだろうか。
いや、そんな心配をするより早くチエミは一緒に口ずさみ始め
時折り「いいなあ、あんなとこ行ってみたいなあ」
子どもたちの姿を見て「かわいいなあ」と
それは穏やかな笑顔でつぶやいている。
ああ、こういうの好きだったんだ。
穏やかで優しい時間を、彼女は求めていたんだ。
そして驚いたことが一つ。
ふと気づけば、彼女はすべての歌を口ずさんでいる。
最初は歌詞を覚えているのだと思っていたが、そうではない。
彼女は画面下に流れる歌詞を見ながら歌っているのだ。
字が、読めているのだ。
チエミは字が読めなくなったと思っていた。
以前簡単な文章を読ませたときは、確かに読めなかったのだ。
それが完全に歌詞を読み
時には「ああ、この歌、森山良子って人が歌ってるんだ」
と、画面の隅に紹介された歌手の名前までしっかり読んでいる。
チエミさん
あなた、ほとんどのことがわからなくなったわけじゃないんだね!?
本当いうと、もうお手上げだった。
打つ手はないと、私も、他の職員も内心では思っていた。
でも、まだしてあげられることはあるかもしれない。
「また今日みたいなことができたないいな」
そう言って自分の部屋に戻っていった彼女の笑顔が
私たちにわずかな光を与えてくれたのだった。
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