認知症のコント婆・ミチコ。
彼女のことをネタにするのは去年の5月以来か。
毎日違うお悩み事を携えて、ミチコは事務所にやってくる。
しつこくて迷惑極まりないのだが、あとで必ず、笑い話になる。
一昨日は、何十回もケアマネのショーコを訪ねてきた。
いろいろお世話になっているようだから
その方にお礼を言いたい、というのである。
訪問のほとんどを、本人であるショーコが対応した。
来るたびに、ショーコと対面するたびに、ミチコは言う。
「すみません、私のケアマネージャーさんはいらっしゃいますか?」
ショーコは応える。
「私ですよ。で、ご用はなあに?」
「あ、あなた様でしたか。
お世話になっているのお礼をしたいんですが
どんな食べ物がお好きですか?」
ーーいいんですよ。お礼を受け取ったら、私、クビになっちゃうから。
「ではせめて、あなた様のお名前を教えてください」
仕方なく、ショーコは”タカギ”と自分の名前を書いたメモを渡した。
しかしその後もミチコの訪問は続く。
メモを見ながら、しかも当のタカギショーコに向かってミチコは言う。
「すみません、タカギさんはいらっしゃいますか?」
ショーコは応えた。
「だから、私がタカギショーコですよぉ」
するとミチコは言った。
「あ、あなた様でしたか。
ええと、私はあなた様に何の用があるんでしょう?」
……???
おい、いい加減にしろ! アンタのお陰で一日中仕事ができなかったんだよ!
ショーコはげっそりとやつれ果てて帰っていったのだった。
そして昨日。
またしても事務所を訪ねてきたミチコ。
対応した常勤職員に向かって、彼女はモジモジと恥じらいながら悩み事を伝える。
「あの、実は、子宮が…いえ、子宮といっても何というか、入り口の方が…」
ーーは?子宮の入り口?
問い返す職員に向かって、ミチコはそ〜っと股間を指差しながら言った。
「ここがヒリヒリと痛いんです。
薬を塗ったら、ますます痛くなったんです」
ーーミチコさん、いったい何の薬を塗ったの?
「はい、メンソレータムです」
ーーえっえ〜〜〜? 股間にメンソレータム?????」
(注釈:ミチコは背中が痛くても、お腹が痛くても
とにかくメンソレータムを塗れば治ると信じている)
対応した職員の悲鳴を聞いて慌てて事務所から出てきたショーコは
ミチコの腕を掴むと
「シャワーを浴びて洗い流さなきゃきゃダメーーー!!!」と
大急ぎで部屋に連れ戻したのだった。
憐れ、ショーコ。
短期記憶が著しく欠落してもメンソレータム信仰だけは忘れないミチコが生きている限り
ケアマネージャーであるあなたの苦悩、苦労は続くのだろう。
追記
股間のヒリヒリとする痛みを訴えにやってきた時
ミチコは職員にこうも告げたという。
「私はずいぶん前に夫を亡くしています。
だから、性交渉はしていないんです。なのに、アソコが痛いんです」
やめてくれ〜、そんな話、聞きたくない!
ちなみに、コント婆・ミチコはもうすぐ90歳である。
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