こんな雪の森をキクは幾日も彷徨ったのだろうか
昨日の続きになるが、山スキーとスノーシューを無理して比べるなら、スノーシューの方が扱いが手軽で特に技術の習得の要もなく、しかも山スキーや靴、金具にかかる費用と比べれば、安価であるということだろうか。ただしこれは、オートバイと自転車を比較するような話かも知れないから、これ以上深入りしないでおこう。
昨夜HALは犬小屋に寝ず、屋外で一夜を過ごしたようだ。小屋のマットを破いてしまったから、外のシートの方がよかったのだろう。今夜は玄関に古いカーテンをマット替わりに敷いてやったら、気に入ったようでそこに寝るつもりでいる。
HALを見ていると、何で人間に生まれてこなかったのかと思う。そうなれば、出会うことはなかったかも知れないが、それでもこの犬に接していると何故か人に生まれてきて欲しかったと思う。キクに対しては、愛情の点ではまったく違いはないが、そういうふうに考えたことはない。キクは犬らしい犬だと思っていたからだろうか。
となると、HALは犬らしくない犬ということになる。そうかも分からない。飼い主の分裂気味の性向を、ちゃんと承知した上で相手になっているような、犬らしくない気遣いを感じさせるときがある。それに川上犬にしては、キクとは正反対で気が小さい。いつか雄鹿と対峙したとき、相手の鹿が角を突き出すように身構えたら、情けないことにあっさりと引いてしまった。また昨年の夏、上に連れていったら何かの拍子にキクと喧嘩になって、鼻をかじられ、まだその傷が残っている。
ただHALは利口な犬だと、彼女の名誉のために言っておこう。まだ2,3歳のころいろいろ教えたら、何でもすぐに覚えた。このごろは、そんなふうに遊んでやることも少なくなって、内心さぞかしHALは不満だろう。
犬は寒さに強いということになっている。しかしそれは単に、寒さに耐えることができるというだけのことで、HALのみならずキクも、暖かい部屋に入ればそこを気に入って出ようとしない。おそらく、屋内で飼育される犬の方が幸せだろう。ただし犬種にもよるが、それが本当に犬にとってよいことなのかまでは、分からない。特に川上犬のような純粋和犬にとっては。
キクが雪の山に姿を消してもうすでに、45日が過ぎた。鹿の死体を食べたか否かは分からないが、自分だけが取り残されてしまったことに気付いてからどんな思いで、どんな行動をとったのだろうか。翌日山を下りることができて、その途中で見つけてやることができたら・・・、キクの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
雪原に消えたる犬の血統も言いつつ猟師淹るる茶の濃き E.S