物置小屋の屋根に積もった雪
雪の森を歩きながら、妙にザックの中の本のことが気になった。前日、友人が送ってくれたばかりの山の本で、管理棟で夜時間を潰すには丁度よいと思って持ってきたのだ。いかにも山とは縁のない本好きが選びそうな、そんなタイトルの本だった。内容は、大方予想できたし、その本が特に読みたかったというよりも、早く本でも広げてくつろげるような場所へ行きたかっただけだと、今なら分かる。
本以外のことも当然考えた。冷えたビールや、ドロドロとしたウイスキーは、考えるというよりも恋しかった。山の中を歩いていると脈略もなく、断片的に、いろいろなことが突然頭に浮かんでくる。小説「氷壁」の中で、主人公がかつてのパートナーの妹に、山を登りながら何を考えているのかと尋ねられる場面が出てくるが、主人公がどう応えたか覚えていない。しかし彼にも、大した返答はできなかっただろう。
距離を稼げぬもどかしさにふと振り返えってみたら、雪の上に残した足跡が一本、細い線のように緩やかな曲線を描きながら、落葉松の森の雪の中を進んできていた。一人でいる雪山の寂寥感が、心の中に沁みてきた。
管理棟前の水場はこのごとく
夕飯は湯豆腐をするつもりで豆腐を持ってきたが、その気になれず中止した。例の山の本を読みっ飛ばしながら、道中恋しかった飲み物を飲んだら、またいつものように空腹感が消えてしまった。
HALにはシーチキンとパンをトッピングしたユーカヌバ(高級!?ドッグフード)に、いつものように湯をかけて上げた。寒さのせいだろうか、しきりと部屋に来たがるが、心を鬼にして極寒の夜に耐えてもらった。
一夜明けて、20名プラス幼児2名の客の来る日とあれば、それなりにすることもある。小屋の玄関前の除雪にも、一汗かいた。
初めての客は13時過ぎ、やってきた。スノーシュー、山スキー、ワカンと様々。元気のよい挨拶が飛んできて、久しぶりに辺りに賑わいが戻った。それまで一本の誘導路しかなかった雪の原が、その日の夕方には雪合戦の後の校庭のようになり、そしてその夜、笑い声はいつまでも絶えなかった。山の会というわけではなく、気の合った仲間たちだという男女20名だったが、それなりにそれぞれが協力し合い、よくまとまったグループのように見えた。自転車やカヤックもやるアウトドア愛好者たちだと聞いた。
短い山の日々が終わり、彼らは去っていった。一泊ではもったいないと別れ際、幹事のIさんにはそっと言っておいた。
3月、光の明度が一段と高くなった早春の入笠牧場にも、是非お出掛け下さい。
古くて恐縮ですが、山小屋「農協ハウス」の営業に関しましては、昨年の11月17日のブログを参考にしてください。またコメント欄へもお問い合わせください。