内容紹介
指揮者はタクトを振るように語り、小説家は心の響きを聴くように書きとめる――。 「俺これまで、こういう話をきちんとしたことなかったねえ」。ベートーヴェン・ピアノ協奏曲第三番、復活のカーネギー・ホール、六〇年代の軌跡、そして次代の演奏家達へ。「良き音楽」を求め耳を澄ませる小説家にマエストロは率直に自らの言葉を語った――。東京・ハワイ・スイスで、村上春樹が問い、書き起こした、一年に及ぶロング・インタビュー。
素直に面白かった。早くも読み返してます。村上春樹の文体は相変わらず淀みなく小気味よく、軽快なリズムで心に沁みる。
正直言うと今まであまりクラシックに馴染んでこなかったぼくにとって<世界のオザワ>は「偉すぎてよく知らない偉人」なのだけど、この人は日本でよりも欧米でのほうが深く理解され愛されてるんじゃないかな。
そもそも指揮者の良し悪しってわかんないんだよなあ、ぼくは(オケにいながらこういうこと言うのも心苦しいが)。
「カラヤンいいなあ」とか思うことはあるけど、具体的に他の指揮者との違いを説明できないし、所詮テレビやPCで聴いてるレベルでは違わないのかもしれないけど。
前半、親交のあったグレン・グールドの話が出てくるとこっちもテンション上がる、だってあのグールドだもんね。彼の部屋まで遊びに行ったとか。
そしてカラヤンとかバーンスタインなど歴史的巨匠との様々なエピソードも興味深い。
後半のスイスで行われている小澤主催の音楽アカデミーの話がこれまた面白い。村上春樹が参加して、生徒たちが格段に成長する様子を描いているのだけど、奏者の端くれとしては羨ましいし憧れるし。
小澤征爾の話す言葉はとても難しい、だって音楽の表現者であって文筆家じゃないから感覚を言葉にするのに長けてるわけじゃなし、それを汲み取ってうまく咀嚼し我々にもわかりやすく補足する村上春樹の技術は超一流だと思う(まあそれでも小澤の意図はわかりづらいのだけど)。
でも、村上自身が部類の音楽好きだからこそできるのであって、しかも読んでいて思うのは村上春樹は「常軌を逸した」というレベルの音楽マニアだということ。
彼の作品に度々JAZZやクラシックが出てくるのはおなじみだが、世界的オケの歴代指揮者を年代順に知ってたり小澤が録音した曲を年代で記憶して曲調雰囲気まで解説するって尋常じゃない。ボストンフィルとウイーンフィルの性格の違いを微細に論じるに至っては、楽器奏者でもないのに凄い、というか度を超えている。
そういう凄い二人が邂逅したことで生まれた奇跡的な対談集。
音楽界にとって貴重な史料となるのじゃないか。
後半に出てくるジャズピアニスト大西順子との逸話も面白い。
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