もう来週に迫ってしまいましたが、来る2月15日、師家の月例会「梅若研能会2月公演」にて ぬえは能『実盛(さねもり)』を勤めさせて頂きます。ここのところずっと序之舞を舞う女性の役ばかりだったのですが、今回は久しぶりの修羅能。。どころか流儀では「準九番習」として重く扱われる能『実盛』ぼお役を頂戴致しました。(゜;)
時宗の指導者である他阿弥上人が加賀国篠原に滞在して説法をしていると、熱心に日参して聴聞する老人がいます。不思議なことには老人の姿は上人以外の者には見えないのでした。上人は老人に名を名乗るよう促すと、老人は実盛の霊だと明かして篠原の池の汀に姿を消します。
その夜、上人が臨時の踊り念仏をして弔うと実盛の霊が現れ、阿弥陀仏を称えることにより成仏できるという教えを喜び、懺悔のためにかつての有様を語ります。
この篠原の合戦で平家が破れたとき、源氏の大将・木曽義仲の御前に畏まって手塚光盛が申し上げたことには、光盛は奇怪な武者と組んで首を討ち取りました。大将のようにも見えますがそれに続く軍勢もありません。また身分の低い侍かと思えば錦の直垂を着ております。名を問うても答えずに首を取りましたが、言葉は関東の者のようです。。これを聞いた義仲はさては実盛であろうと直感しましたが、歳のほどであれば白髪であるはずのところ黒髪なのを不審に思い、家臣の樋口次郎を呼んで首実検をすることになりました。
樋口は首をひと目見て涙を流し、この首が実盛のものだと断じます。彼によれば実盛が常に言っていたことには、六十歳を越えて合戦に出たら、若武者と先陣争いをするのも大人げない。また老武者だと敵にさげすまれるのも口惜しいこと。いざその時には鬢や鬚を墨で染めて若やいで出陣して討ち死にする覚悟だ。。樋口はこの首を洗ってみる事を提案し、近くの池の水で洗うと、果たして墨は流れ落ちて白髪の元の姿に戻りました。これを見た源氏の武者たちは、実盛の武者としての覚悟に感嘆し、みな鎧の袖を濡らすのでした。
また実盛が着ていた錦の直垂は、自身の功名心の故ではありませんでした。義仲討伐のため北国へ進軍する事になった平家軍の中で実盛は大将の平宗盛に向かってこう言います。故郷へ錦を飾る、という言葉があります。実盛は領地を賜って武蔵国の長井に住んでおりましたが元は越前の生まれ。このたびの北国での合戦は自分の故郷へ帰ることになります。この老武者は生きて陣に戻ることはないでしょう。老後の思い出のため、なにとぞお許しを願いたい。こう言うと宗盛も感じて、赤地の錦の直垂を実盛に賜ったのでした。
こうして故郷に錦を飾り、若やいで討ち死にする決意も成し遂げた実盛でしたが、やはり合戦に出たからは敵の大将・義仲を討ち果たすことが念願。それを手塚に阻まれたことは今に残る無念。そのとき実盛の前に立ち塞がった手塚に実盛は組もうとしますが、手塚の家臣は主人を討たせまいとさらに実盛に組み掛かります。これを容易く首を取った実盛でしたが、その隙に手塚は実盛に手傷を負わせ、さらに手勢も襲いかかって、ついに実盛は首を打ち落とされたのでした。
こうして篠原の土と還った、と語った実盛は上人に重ねての回向を頼んで姿を消すのでした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
能の多くの曲は作者が不明なのに対して、能『実盛』は世阿弥作であることが確実、しかも成立年代までおおよそ判っているという希有な例の曲です。世阿弥としてはやや後年に作られた曲であり、彼にとって自信作でもあったようです。
謡曲の中には明示されませんが、じつは実盛は敵将の木曽義仲の命の恩人でもあり、また後世の話になりますが、彼が遺した兜が現存していて、国の重要文化財となっていたり、この兜を見た松尾芭蕉が「むざんやな兜の下のきりぎりす」の有名な句を詠んだり、と話題も多い主人公ですね。
今回は時間がなくブログでの作品研究はできませんが、こうした話題も紹介しながら能『実盛』の見どころをお話する事前講座「能『実盛』みどころ講座」も開催させて頂くこととなりました。
どうぞお誘い合わせの上ご来場賜りますよう、お願い申し上げます~
梅若研能会 2月公演
【日時】 2018年2月15日(木・午後2時開演)
【会場】 セルリアンタワー能楽堂 <東京・渋谷>
仕舞 野 宮 中村 裕
狂言 千鳥(ちどり)
シテ(太郎冠者) 大蔵彌太郎
アド(主人) 吉田信海
アド(酒屋) 小梶直人
~~~休憩 15分~~~
能 実 盛(さねもり)
前シテ(尉)/後シテ(斉藤別当実盛) ぬ え
ワキ(遊行上人)福王和幸/間狂言(里人)大蔵基誠
笛 藤田次郎/小鼓 観世新九郎/大鼓 柿原弘和/太鼓 小寺真佐人
後見 梅若万佐晴ほか/地謡 青木一郎ほか
(終演予定午後4時30分頃)
【入場料】 指定席A6,500円 指定席B5,500円 学生席各席2,000円引き
【お申込】 ぬえ宛メールにて QYJ13065@nifty.com
※事前講座※
能「実盛」みどころ講座
2月10日11:00~12:30
於:梅若万三郎家能舞台(東京都渋谷区西原1-4-2)
受講料:1,000円(研能会入場券購入者は無料)
講師:ぬえ
時宗の指導者である他阿弥上人が加賀国篠原に滞在して説法をしていると、熱心に日参して聴聞する老人がいます。不思議なことには老人の姿は上人以外の者には見えないのでした。上人は老人に名を名乗るよう促すと、老人は実盛の霊だと明かして篠原の池の汀に姿を消します。
その夜、上人が臨時の踊り念仏をして弔うと実盛の霊が現れ、阿弥陀仏を称えることにより成仏できるという教えを喜び、懺悔のためにかつての有様を語ります。
この篠原の合戦で平家が破れたとき、源氏の大将・木曽義仲の御前に畏まって手塚光盛が申し上げたことには、光盛は奇怪な武者と組んで首を討ち取りました。大将のようにも見えますがそれに続く軍勢もありません。また身分の低い侍かと思えば錦の直垂を着ております。名を問うても答えずに首を取りましたが、言葉は関東の者のようです。。これを聞いた義仲はさては実盛であろうと直感しましたが、歳のほどであれば白髪であるはずのところ黒髪なのを不審に思い、家臣の樋口次郎を呼んで首実検をすることになりました。
樋口は首をひと目見て涙を流し、この首が実盛のものだと断じます。彼によれば実盛が常に言っていたことには、六十歳を越えて合戦に出たら、若武者と先陣争いをするのも大人げない。また老武者だと敵にさげすまれるのも口惜しいこと。いざその時には鬢や鬚を墨で染めて若やいで出陣して討ち死にする覚悟だ。。樋口はこの首を洗ってみる事を提案し、近くの池の水で洗うと、果たして墨は流れ落ちて白髪の元の姿に戻りました。これを見た源氏の武者たちは、実盛の武者としての覚悟に感嘆し、みな鎧の袖を濡らすのでした。
また実盛が着ていた錦の直垂は、自身の功名心の故ではありませんでした。義仲討伐のため北国へ進軍する事になった平家軍の中で実盛は大将の平宗盛に向かってこう言います。故郷へ錦を飾る、という言葉があります。実盛は領地を賜って武蔵国の長井に住んでおりましたが元は越前の生まれ。このたびの北国での合戦は自分の故郷へ帰ることになります。この老武者は生きて陣に戻ることはないでしょう。老後の思い出のため、なにとぞお許しを願いたい。こう言うと宗盛も感じて、赤地の錦の直垂を実盛に賜ったのでした。
こうして故郷に錦を飾り、若やいで討ち死にする決意も成し遂げた実盛でしたが、やはり合戦に出たからは敵の大将・義仲を討ち果たすことが念願。それを手塚に阻まれたことは今に残る無念。そのとき実盛の前に立ち塞がった手塚に実盛は組もうとしますが、手塚の家臣は主人を討たせまいとさらに実盛に組み掛かります。これを容易く首を取った実盛でしたが、その隙に手塚は実盛に手傷を負わせ、さらに手勢も襲いかかって、ついに実盛は首を打ち落とされたのでした。
こうして篠原の土と還った、と語った実盛は上人に重ねての回向を頼んで姿を消すのでした。
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能の多くの曲は作者が不明なのに対して、能『実盛』は世阿弥作であることが確実、しかも成立年代までおおよそ判っているという希有な例の曲です。世阿弥としてはやや後年に作られた曲であり、彼にとって自信作でもあったようです。
謡曲の中には明示されませんが、じつは実盛は敵将の木曽義仲の命の恩人でもあり、また後世の話になりますが、彼が遺した兜が現存していて、国の重要文化財となっていたり、この兜を見た松尾芭蕉が「むざんやな兜の下のきりぎりす」の有名な句を詠んだり、と話題も多い主人公ですね。
今回は時間がなくブログでの作品研究はできませんが、こうした話題も紹介しながら能『実盛』の見どころをお話する事前講座「能『実盛』みどころ講座」も開催させて頂くこととなりました。
どうぞお誘い合わせの上ご来場賜りますよう、お願い申し上げます~
梅若研能会 2月公演
【日時】 2018年2月15日(木・午後2時開演)
【会場】 セルリアンタワー能楽堂 <東京・渋谷>
仕舞 野 宮 中村 裕
狂言 千鳥(ちどり)
シテ(太郎冠者) 大蔵彌太郎
アド(主人) 吉田信海
アド(酒屋) 小梶直人
~~~休憩 15分~~~
能 実 盛(さねもり)
前シテ(尉)/後シテ(斉藤別当実盛) ぬ え
ワキ(遊行上人)福王和幸/間狂言(里人)大蔵基誠
笛 藤田次郎/小鼓 観世新九郎/大鼓 柿原弘和/太鼓 小寺真佐人
後見 梅若万佐晴ほか/地謡 青木一郎ほか
(終演予定午後4時30分頃)
【入場料】 指定席A6,500円 指定席B5,500円 学生席各席2,000円引き
【お申込】 ぬえ宛メールにて QYJ13065@nifty.com
※事前講座※
能「実盛」みどころ講座
2月10日11:00~12:30
於:梅若万三郎家能舞台(東京都渋谷区西原1-4-2)
受講料:1,000円(研能会入場券購入者は無料)
講師:ぬえ