鼠丼

神の言葉を鼠が語る

<770> 妻の卵焼きに涙がこぼれたので

2022-02-01 18:24:23 | 日記
 毎度!ねずみだ。

 先日の事。

 3か月ごとの血液検査の日。(鼠丼の賢明な読者なら知っていると思うが、私は慢性腎臓病に犯されていて、死ぬまであとわずか40年という余命宣告を受けている。こうして残り少ない日々を送っているのだ。)

 朝起きると妻が卵をチャッチャッとかき混ぜている。血液検査するのだから朝版抜きで出社する旨伝えると「お腹空くでしょ。採血が終わったら食べてね。」と卵焼きを焼き始めた。ご存じの通り卵焼きと言う奴は複数の卵を焼かないと美味しく焼けないのだが、一人用の卵焼き用フライパンがあって、それを使えば美味しく焼けるのだ。彼女は時折自分で弁当を持っていく時にそれを使っている。
 見るともなしに見る。あらかじめ醤油と砂糖で味付けした溶き卵を熱したフライパンに少しずつ流し込んでいく。ある程度固まったら片方に寄せてくるりと巻き込みながら残りの卵をさらに入れる。それを巻き込みながら形を整えてあっと言う間に出来上がりだ。
 
 結婚して10年以上が経ち、妻が料理をする姿は数えきれないほど見てきた。それでも、彼女が卵焼きを作る手順や立ち振る舞いを見ていた私は急に物凄い感動を覚えた。神聖な儀式を見ているようだ。
 私の視線に気づいた妻が眉根にしわを寄せ「見ないでよ。」と言わんばかりに私を睨む。
 あわてて振り向き洗面所に急ぐ。急に涙が出てくる。なんだか分からないが次から次へと。お湯を流し顔を洗う。
 感謝の念からなのか、それとも他に理由があるからなのか。日常の、なんでも無いシーンに突き動かされ唐突に涙が出るようになってしまった。何の根拠もないが、彼女が卵焼きを焼く、その後ろ姿を永遠に忘れないというような、ぼんやりとした思いが頭の中を占拠する。もし私より彼女が先にあの世に旅立つ日が来るとしたら、私は彼女が卵焼きを焼く、その後姿をまず思い出すような気がする。

 会社での血液検査が終わり、休憩スペースで弁当を開く。保温袋に入っていたのでまだほんのり暖かいおにぎりとタッパーを取り出す。タッパーにはウインナーとプチトマト、そして件の卵焼きが。一緒に入っていたプラスチック製のフォークで切り取って口にすると、私好みの少し甘めの卵が口のなかでほろりと崩れる。

 今朝の一件を思い出しまた涙が出てきてしまう。周囲に人が居なかったのが幸いだった。

 えらそうな事を語るつもりはないが、こんな些細な出来事の積み重ねがあって夫婦というのはずっと一緒にいられるのかもしれない。
 感謝の気持ちを込めて、帰りに近所のコンビニで甘いお菓子を買って帰る事にした。

 じゃ、また。


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