鼠丼

神の言葉を鼠が語る

<793> 230531 親父が出張から帰って来た話 <夢十夜の七>

2023-05-31 19:06:38 | 短編小説
 こんな夢を見た。

 実家に帰るとお袋が忙し気に布団を出している。
 なんでもお袋の親戚がやってくるらしい。彼女たちが寝る際に使う布団を用意しているのだ。

 手伝おうかと声をかけると「お前は疲れているだろうからゆっくりしていけば良い。」というような事を言っている。そう言われてみればなんだか疲れている気がしないでもない。お前が久しぶりに帰ってくるということなのでお父さんも急遽香港から帰ってくるそうだよなどとお袋は布団を敷きながら言っている。
 親父は某観光会社のツアーコンダクターをやっていたのでよく海外にも出かけていた。だがそれは30年近くも前だったような記憶がある。その親父が急遽帰ってくるという。ツアーコンダクターの仕事は大丈夫なのか、と思っていると玄関に人の気配がする。

 親父かと思って出てみると、親父ではなくお袋の姉であった。続いて田舎から叔母もやってきた。ずいぶん派手な車で乗り付けて5時間も運転してきて疲れた、と文句を言っている。叔母は長野に住んでいるので東京まで車で出てくると時間がかかるのだ。
 どうしたものかやたらに元気が良いと思っていると、お袋の姉にしろ叔母にしろずいぶんと若い様子である。私などより余程若く、お袋に「叔母さんたちが着いたよ。」と声をかけると振り向いたお袋もこれまたすこぶる若い。自分より若い母親というのもおかしな話だが、若く見えるのだから仕方がない。

 そうこうしていると親父が帰ってきた。私が実家に帰って来たのでいそいで香港から帰って来たそうだ。そんな馬鹿な話があるものか、息子が帰って来たくらいで仕事を切り上げて帰ってくるのはいかがなものか、と親父に文句を言うが、親父はにこにこしながら「お前に土産を買ってきた。」と答えるばかりである。
 そんな親父もお袋同様に私より若い。なぜかアロハを来ている。香港ではアロハは流行っているのか、と親父に聞くとどうも香港ではアロハが正装らしい。親父が来ているアロハは確か私がずいぶん昔に買ったもののようだが、その事を問うとやはり私のアロハだと言う。
 
 ほどなく親父はカバンの中からいやに大きなヒラメを取り出した。ヒラメはまだ生きており、あたかも海から吊り上げられた直後のようにびちびちと音を立てて海水を周囲にまき散らしている。香港では大量にヒラメが釣れるのだろうかまあ親父が買ってくるくらいだから余程釣れるのだろうと独り言ちる。得意げに写真を見せるので覗き込むとおびただしいヒラメに囲まれて得意げな親父が写っている。

 親父に、急いで帰ってくることもないだろうにどうしたのだ、と問うと代わりにお袋が何を言っているんだい、今日はお前のために皆集まったのじゃあないかと答える。

 唐突にそうか今日は私のために皆集まったのだと合点がいく。

 そこで目が覚めた。

 夜が白々と明ける頃で隣の布団では妻が寝息を立てている。

 先ほどまで私の周囲にいた親父やお袋、叔母たちは姿を消してしまって、あれほど賑やかだった家の中はしんとしている。先ほどまでびちびちと音を立てていたヒラメもいない。

 そうこうしているうちに自分が昨日誕生日を迎えたため、親父やお袋が夢に出てきて祝ってくれようとしたのかもしれぬと思い至る。

 それにしても息子の誕生日にヒラメを買ってくるというのもどうか、と思うと妙に可笑しく思えてきた。

 了
 

<792> 230518 20年前の事を言われても

2023-05-18 18:39:50 | 日記

 毎度!ねずみだ。

 先日の事。会社の廊下で後ろから「〇〇さん、お久しぶりです。」と声をかけられる。
 振り返ると歳の頃なら40才半ばくらいの男が手を振っている。

 よせばいいのに、「ああ、どうも。久しぶりです。」と言ってしまった。慌てて脳みその引き出しを引っ掻き回した。見たことがあるような無いような、端的に言うと「あんた誰?」というのが本音。誰にでもある経験だろう。
「いや、本当に久しぶりですね。」と笑いかけてくるので、仕方なく「そうですね。何年ぶりでしょうか。」と答えると「20年以上前になるのかな。」と返ってきた。

 なんと。20年以上も前。どうやら同じ部署の人間では無さそうなので、恐らく何かの仕事を一緒にしたか、社内委託で仕事をしてもらった方に違いない。とにかく憶えていない事だけは確か。
 彼に「あ、こいつ、俺の事憶えてねーな。」と思われるのが嫌なので、「そうですか、もう20年以上も前になりますか。」と続ける。

 遠回りに、ものすごく遠回りに当たり障りのない話をしつつ、頭の中で「こいつ誰だっけ?なんとなくヒント出てこないかな~。」と、しばし歓談(のふり)。少しずつ探ってみる。
「あの頃吉成さんや荒井さんなんかと一緒に仕事しましたね。」といった話が出てくる。その方は同じ課だったので憶えている。「そうですね、荒井さんは会社辞めてどこかの印刷会社に再就職しましたよ。」と言うと、「吉成さんはとなりの課で今でも元気です。」と言う話が返ってきた。

 ここで、細い糸が繋がる。

 吉成さんと言えばあの部署である。あの部署の人間であれば、社員検索して見つける事ができる。

 知らない相手と喋っているいやな汗が出てくるので、早々に「では、また。」と告げて席に戻る。冷や汗をぬぐいつつ早速デスクトップパソコンに該当部署を入れる。

 部署名を入れてぽちっと。検索した結果、該当部署の社員が200名。こりゃだめだ。とてもではないが一人ひとり確認するわけにはいかない。

 結局、彼の名前は分からずじまいである。ま、良いとしよう。
 
 じゃ、また。