鼠丼

神の言葉を鼠が語る

<642>

2013-11-05 18:45:02 | 日記

 毎度!ねずみだ。

 古い話だが、かなり前に某お笑い芸人が「ありがとうマイル」という話をしていた。他人から「ありがとう。」と言われる度にマイルが貯まり、一定のマイルが貯まると自分へのご褒美(確かカツカレーだった。)を食べられる、というもの。

 なるほどと思い、私も始めた。職場で同僚や上司から「ありがとう。」と言われる度にノートに「正」の字を書き入れ、50回言われたらカツカレーを食べることにしたのだ。別にカツカレーでなくても良かったのだが、なんとなくカツカレーは私の身の丈に合っていたような気がしたから。区切りを100回でなく50回にしたのがちょっとイヤラシイのはご愛嬌。
 周囲が面倒がるような雑用を進んでやったり、他人の仕事を手伝ったりした。50マイルなんてあっと言う間に貯まるだろう、と考えて。

 ところが。

 意に反して、「ありがとうマイル」はなかなか貯まらなかった。私は悟ったのだ。この世の中は意外と「ありがとう。」に溢れてはいない、と。「在り難い」はやはり文字通り「滅多に無いこと」なのだ。
 1週間ほどでカツカレーが食べられると皮算用をしていた私であったが、2週間経ってもマイルは20を超えなかった。

 と言う話を当時友人(女性)にした。彼女は時々メシを一緒に食べる仲で、友達以上恋人未満の存在だった。(いや、正直に書くと恋人からは程遠かった。友人に毛の生えた程度の仲だ。)
 彼女は思慮深く頭が良かった。おまけに美人だ。A型長女の代表格のような女性で、私の話にじっくりと耳を傾けていた。
「どうしたらマイルが貯まるのかな?」という私の問いに、彼女は事も無げに返した。確かパスタを食べながらだったように記憶している。
「ありがとうと言われる事をする前に、他人にありがとうって言っている?ありがとうって言葉は、言われるより言うほうが難しいよ。」
 ゆっくりと言葉を選びながら彼女はそう言った。

 私は暫し考え、「なるほど。」と言った。「いつも他人に感謝して人生を送っていれば自然に出てくるよね。」なおも続ける彼女の顔を、私はただ見つめた。そしてもう一度うなずいた。「なるほど。そういうものか。」
 冷静な彼女は何事も無かったように目の前のパスタにフォークを突っ込む。
 滅多に他人の話を聞かない私だったが、その時の彼女の言葉は素直に頭に残った。どう頑張っても外れなかった知恵の輪が、ふとした拍子にカチリと微かな音を立てて外れたような気がした。女性に対して滅多に抱かない尊敬の念を、その時は素直に抱いたのを記憶している。

 その話を契機に私は「ありがとうマイル」を貯めることをやめた。

 今から何年か前の話だったが、私は時々この話を思い出す。思い出すと件の女性に話すのだが彼女は全く憶えていないらしい。その時の聡明なA型長女はどこでどう妥協したのか、現在は私の奥さんをやっている。
 彼女は事ある毎に「ありがとう。」と言う女性である。今なら毎週カツカレーが食べられるかも。まあカロリーオーバーだから止めておきなさいと文句を言われる事必至なのだが。


<641>

2013-11-01 16:07:56 | 日記

 毎度!ねずみだ。

 久しぶりにビン入りのラムネを飲んだ。首のところがキュッと絞れていてビー玉が下に落ちないしくみになっているあれだ。首のところに出っ張りが二つあって、そこにビー玉を乗せないとビンの口がふさがってしまい中身を飲めない、あれだ。
 会社で100円の缶コーヒーを買おうとしてポケットをまさぐったら80円しか出てこず、やむを得ず目が合った80円のラムネを購入したのだ。

 子供の頃は祭りの度に親に買ってもらい、親に手を引かれながらいつまでもちびちびと飲んでいたものだ。
 テキ屋のお兄ちゃんが売っているラムネは氷水で冷やされていたが、自販機でキンキンに冷やされたものとは違いそれほど冷たくはなかった。それでも祭りの屋台の間を歩く時には必須アイテムだった。飲みきっても捨てるのが惜しくて、中のビー玉をカラカラ言わせて家まで持ち帰り、父親に糸鋸でビンを切ってもらい中のビー玉を取っておいたり。

 何十年かぶりに飲んだラムネはただただ甘ったるいだけで、旨くも不味くもなかったがただ懐かしかった。

 当時不思議に思っていた「どうやってビー玉を中に入れるのだろう?」という疑問に対して、「熱したビンの口から予め入れておいて、冷える前にビンの口を絞る」という、実につまらない回答を知ったのは暫く経ってからの事だったし、ビー玉の「ビー」はABCのB(B級品)と知ったのも、やはり大人になってからだった。

 ラムネのビンの口の周囲にはポリエチレンと思しき青色のキャップが巻かれており、それを外すとだらしなく広がったビンの口が現れた。
 ビンが熱している間にビー玉を入れてから冷える前に口を絞るというかつての作業工程を踏まずに作られた現代のラムネのビンの口からは、事も無げにビー玉が転び出てきた。

 そのビー玉がかつて父親に取り出してもらったのと同じ色をしているのか、思い出そうとしたが上手くいかなかった。粗悪なB級品のビー玉だったのなら、多分形がいびつだったのか、気泡を多く含んでいたのか、あるいか曇っていたのだろう。

 今回ラムネのビンから出てきたビー玉はA玉なのかB玉なのか判らないが、とりあえず私の会社の机の中で転がる運命に落ち着いた。