ミミちゃん

寒い日曜日だ

部屋の温度は１５度を下回っているので

さすがに電気ストーブを出した


夕方から映画でもと考えていたのだが

雨が降るかもしれないので部屋でゴロゴロしている

さっきまでだらしなく寝ていた

私も今日と明日は連休なので

ついつい部屋でゴロゴロしてしまう

寒いから外出する気にもなれない

なので晩御飯は弁当を配達してもらう

４５分かかるらしい

先週は配達の男の子が道に迷ってたけど

今週は大丈夫だろうか


土曜日に始めて来店されたカップル

男の方がガテン系でオネエ心をそそるタイプだ

連れの女はマニッシュでサバサバしている

こう言ったカップルはとっても話がしやすい

「実はオレ、歌舞伎町のあるオカマバーの子と

　付き合う寸前まで行ったんだ」

その店は既に閉店しているが

私も知っている店だったので

ママさんや何人かのスタッフの名前を出したら

ガテン君も懐かしそうに頷く

「で、アナタと付き合うところまで行ったのは誰？」

「Ｔちゃんだよ」

何とＴちゃんは私が調布の店で働いている時の同僚だった


当時はミミと名乗っていた彼女

まだ２０代前半でニューハーフになりたてだった

小柄で細身のミミは胸にこれでもかとパットを詰め込んで

ガテン系のお客さんに迫りまくっていたのを思い出す

イッキ飲みをしてはよく潰れていたのも懐かしい

若いからついつい勢いでやってしまうのだ


そんなミミも店を辞めて歌舞伎町にとらばーゆした

私が知る限りは二店舗で働いていた

たまに調布の店に遊びに来て

「オネエさん、今女性ホルモン打ってるのよ」

とか近況報告をしてくれた

その後音信不通になっていたのだが

一度、新宿のショーパブに

若い男と遊びに来ているのを目撃した

少年のようだったミミもすっかり女っぽくなって

私たちの知らない世界で生きているのだと実感した


ガテン君がミミに電話した

何と彼女はニューハーフを辞めて

ゴールデン街で店をやっていると言う

「久しぶりィ、元気？ミミちゃん！」

受話器の向こうから聞き覚えのある声がした

「元気ですオネエさん、懐かしいですね」

敬語で話すミミの声は少し大人っぽくなっていた

しばらく昔話に花を咲かせて

いつか再会出来る事を約束してガテン君に代わった


今は女性ホルモンもやめてヒゲを生やしているそうだ

誰からも可愛がられる性格なので

ミミはきっとゴールデン街でも人気だろう

ガテン系の男っぽいタイプに目がないので

そう言う客が来たらきっと

「今日はもう店じまい」と言って

２人でしっぽり飲んでいそうだ


「じゃあそろそろ行くよ」

ガテン君は連れの女と帰って行った

店の前の通りは底冷えしていた

隣の居酒屋から女性の歓声が聞こえる

ガテン君、今度はミミちゃんと遊びに来てね