アイ子さん

昨夜は久々にアイ子さんが遊びに来てくれた

彼女は去年まで隣町のＳと言うクラブに勤めていた

元々自分でもお店をやっていただけあって

キャリアを感じさせるソツのない接客と

淡島千景に似た華やかな顔立ちが

オジサマ達には大好評だった


実はＳが昨年末に急遽閉店し

高齢のアイ子さんは行き場を失った

しかも１００万近く給料の未払い分があると言う

店が暇なので毎月の給料日が来ても

「今月はコレしかないのよ、勘弁して」と

ママから渡される額はスズメの涙

残りの分が蓄積して行き、遂には突然の閉店

更にママは破産手続きをしたらしく

結局アイ子さんは残りを貰えないままになった

「お給料が滞るようになった時に辞めておけば

　こんなに腹も立たなかったんだけどね…」と

ため息混じりに話すのだが

辞めてすぐに次の働き口があれば良いが

既に時代は大不況の真っ只中

それに店にも愛着があるし、馴染みのお客様も多い

蛇の生殺しの様な状態でズルズル来てしまった


ところでＳにはアイ子さんの他にもスタッフが数人居た

他の人は週に１～２日の勤務で給料も出てたようだ

高齢のアイ子さんだけが後回しにされてたのだ

「サブプライム問題やリーマンショックがなければねェ…」

がママの口癖だったとか

客離れに拍車をかけたのは

料金が高額だった事もあるようだ

予めご予算が決まっているお客さんに

幾らか乗せて請求してたらしい

それでなくても閑古鳥が鳴いてる店で

やっと来てくれたお客さんに「それはないだろう」と

アイ子さんも呆れていた


それにしても１００万は大きいし悔しい

オカマバーでも似たような話は聞く

あのサコ姐も以前勤めてたお店で未払いが３０万近くあると言う

日払いなのだが、売り上げがないと当然貰えない

それが蓄積して行くのだ

「４～５万滞った時点で辞めるべきだったのよォ

　だけど働いた分はしっかり貰わなきゃと思って

　気付いたらこの有様よ」

今働いてる店は何とか給料が出ているらしいが

この不景気で休みを増やされたそうだ


久しぶりに会うアイ子さんは少し痩せていたが

とりあえず元気そうだった

「ま、色々あったけどクヨクヨ考えたって
　
　仕方ない事だし…」

前向きな彼女に、速水のパパも私もホッとしたのだった