夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

命令形の英語のCM、日本語なら何と訳すのか。トヨタとキヤノン

2008年07月06日 | Weblog
 「……しよう」と呼び掛けるCMはあるが、「……しろ」などと言うCMは無いと思うのが常識だが、それがある。ただし、日本語ではなく、英語である。だから本当は命令しているのではないのかも知れない。しかし学校で学習した私の英語には、動詞が先頭に立つのは命令形しか無いのである。

Drive Your Dreams.
Make it possible with cannon.

 前者はトヨタ自動車で、命令形だから、Your は「お前の」になるのだろう。driveは一般的には「運転する」だが、その本質は「動かす」だろう。ニュアンスとしては「操る」と言うような事なのかとも思うが、そうした意味は私の持っている二冊の英和辞典、『ニューセンチュリー英和辞典』(三省堂)と『グリーンライトハウス英和辞典』(研究社)には載っていない。似たような用例も無い。
 driveの対象になっているのは、どちらも人や物、風や雨などで、意味も、
・追いやる
・吹きやる
・こき使う・無理に……させる
・追い込む・駆り立てる
・たたき込む・打ち込む
などで、一見良さそうに見える「駆り立てる」も対象は動物だったり、「無理に……させる」の意味だったりしている。
 dreamを引いてみても、realize=実現する、come true=かなう、などはあるが、driveは無い。
 まあ、車のCMなのだから、意味はうるさく言わずに、Drive Your Dreamsでも構わないとしても、今度はその命令形がとても気になる。いったい、夢とか理想をどうせよと言うのか。

 後者はキヤノンで、自社の製品でそれを可能にせよ、と言う。「それ」もまたdreamと同じなのだろう。
 possibleの意味は、
・ありうる
・可能な
である。だから「可能にせよ」だと思うが、『ニューセンチュリー』に面白い説明がある。
 probable は可能性が大きいが、possible は可能性が少ない。It's possible,but hardly probable.の意味は「それはありえないことではないが、実際にはまず起こるまい」
だと言うのである。
 そのような説明はしていない『グリーンライトハウス』も、「ありうる・起こりうる」の意味と並んで、
・(もしかしたら)…になりそうな
・(もしかしたら)…かもしれない
の意味を挙げている。
 つまり、「キヤノンで出来るもんならやってみな」と言っているようにも思えてしまう。こちらは命令形がどうのこうの、と言う以前に非常におかしい(これは「変だ」の意味ではなく、「笑ってしまう」の意味)。

 夢をどうの、可能にせよ、などと言っているのだから、いずれにしても上を見て暮らせ、と言っている事は間違いない。それはいい。九ちゃんだって「上を向いて歩こう」と歌った。意味は分からなくても、何しろ「スキヤキ」などと勝手なタイトルを付けられたのだから、それでも全世界で大ヒットした。多分、歌に込められている希望を求める事の大切さが伝わったのではないか、と勝手に考えている。
 九ちゃんは、「涙がこぼれないように」だった。しかしこのCMは、メーカーの言葉である。だから「涙がこぼれないように」などであるはずがない。むしろ、笑いがこぼれてしょうがないのである。その笑いをもっと確実な物にしようとの魂胆があふれている。

 現代生活で車は欠かせない。地方に行けば、車が無いと生活が出来ないと言う。都会にしても、マイカーはともかく、車が無かったら生活はストップしてしまう。しかしそれは生活に最低限必要な車の事であって、豪華さを求めた車でもないし、夢の対象になるような車でもない。地道に生活に寄与する車の事である。
 だが、それでは車は売れない。人々の夢をかき立てなければ売れない。と言った所で、前出の「駆り立てる」の意味がにわかに重要になって来た。そうか、夢をかき立てるのではなく、夢を駆り立てるだったのか。
 誰だって夢を持ちたい。しかし夢は駆り立ててまで持つものではないだろう。しかも、命令される筋合いは無いのである。一人勝ちしている企業が勝手な事を言う筋合いは無いのである。その陰にどれほどの人々が泣いているか。
 まあ、それは一人トヨタだけの問題ではないから、とやかく言っても始らないが、人々に命令をする権利は無いはずである。それとも、このCMの言葉は、本当は、もっと違う事を言っているのか。それならそれで、もっと分かり易い言葉で、もちろん日本語にして言うべきだろう。

 キヤノンはテレビの多くのCMでは、その英文を読まずに、ただ画面表示をするだけで、言葉では単に「キャノン」と言っている事が多い。でもそれなら、命令形の英文は引っ込めるべきではないのか。それとも、これまた私の英語の理解力不足なのか。
 私は今、デジタルカメラが欲しいが、同社は除いて考えている。何かが可能になるのはどの会社の製品だって同じである。たとえどんなに同社の製品が優れていようが、それはあきらめる。命令されてまで買う気は無い。
 仕事でDTPをしているので、プリンターは必需品である。今はモノクロプリンターしか持っていないが、レーザーのカラープリンターが必要になるのは目に見えている。だが、どんなに安くしかも優秀であっても、同社のプリンターは対象の候補には入れたくない。他社の製品でもmakes it possibleになるはずなのである。

 大体が、この手の製品は自社製品の特徴のCMにはならない。なぜなら、今の技術力ではほとんど甲乙付けがたいからだ。わずかな差しか無いから、特徴を打ち出せない。打ち出そうとすれば、非常に細かい説明になるだろう。それはテレビや新聞のCMでは無理だ。だからイメージで勝負するしか無い。そのイメージの一端が言葉なのだが、それが命令形なのである。英語だから直接的には響かない。何でも英語がかっこ良いと思い込んでいる人々のあさはかな感覚に便乗しているだけに過ぎない。
 それほどこれらのキャッチフレーズが素晴らしいなら、是非とも日本語で誰にでも分かるようにしたらどうなのか。その方がずっと効果的だろう。
 さて、その日本語訳はどうなるのか。英語の得意な方、教えて下さい。

2 コメント

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始めまして (月の児)
2008-07-08 08:51:07
英語は得意ではありませんが、「少年よ、大志を抱け!」と似たニュアンスで言っているように感じました。
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月の児さんへ (夏木広介)
2008-07-12 21:29:29
 お礼を申し上げるのが遅くなりました。急ぎの仕事に追われて……などと言うのは理由になりませんが。
 なるほど、とは思いますが、「少年よ」でクラーク博士が得をするような事は何も無いのですが、「夢を……せよ」の方はメーカーが大いに得をする事に引っ掛かりがあるのです。と言うよりも、自分が得をするために、そう言っている節があるのが抵抗があるのですが。
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