夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

「○○が発売」の蔓延は、日本語の破壊現象だ

2010年12月28日 | 言葉
 前にも取り上げて、コメントも頂いている言葉だが、新聞の記事でも見掛けたので、取り上げている。CMのような浮ついた話ではないから、無視する訳にも行かない。
 「発売する」は当然ながら他動詞である。国語辞典には「記念切手を発売する」「本日発売」などの用例が挙がっている。「本日発売」のような名詞どめの使い方なら、「好評発売中」「新発売」「発売禁止」「発売日」などなどいくらでもある。それらは「好評に発売している最中」「新しく発売する」「発売するのを禁止する」「発売する日」である事は言うまでも無い。いずれも間違いなく他動詞の用法である。だから、同じ事だが、「好評に発売されている最中」「新しく発売される」「発売されるのを禁止する」「発売される日」でもある。
 従って、「○○が発売」と主語が「○○」なら、「○○が××を発売する」になるに決まっている。言い替えるなら、「××が○○から発売される」になるに決まっている。決まっていなければ日本語にはならない。しかしながら、日本語にならない日本語を平気で使う人々が大勢居る。20日の東京新聞夕刊に、大阪府箕面(みのお)市で、餌やりの禁止条例が猿に続いて烏にまで及んでいる事が記事になっていた。問題は「施行」である。

 大阪府箕面市は20日、開催中の12月議会で、「箕面市カラスによる被害の防止及び生活環境を守る条例」案を採決する。可決する見通しで、2011年7月から施行する方針。

 上はその記事の冒頭部分だが、記事の最後が次のようになっている。

 箕面市では今年4月からサルへの餌やりを禁止した「箕面市サル餌やり禁止条例」が施行したばかり。

 これは完全に「を施行したばかり」あるいは「が施行されたばかり」の間違いだ。記事を書いた記者が居て、それを校閲する校閲者が居る。それでいてこの有様である。少なくとも彼等は一流紙のプロである。それがこんなでたらめな日本語を使っている。と言うか、こうした現象があちこちでまかり通っていると言う事は、現今の日本語はこんなにもいい加減な言語になってしまっている、その証拠なのだろうか。
 以前、この事についてブログを書いた時、「○○が発売」は「発売される」の意味で使われているのではないか、とのコメントが寄せられた。確かにそう言える。しかし日本語にはそんな使い方は無いはずである。無い事をさもあるかのように振る舞えば、世間の常識は破壊されてしまう。
 「ぜんぜん」と言う副詞が昔は否定を伴う言い方だったのに、現在では「ぜんぜん面白い」などの使い方がされて、それが認められるようになっている現象とは質が違う。「ぜんぜん」のそうした使い方を認めない人でも、「とても」は昔は否定にしか使わなかった事を知れば、文句が言えなくなるだろう。こうしたある特別な言葉が使い方が変わって来るのは仕方が無い。しかし「発売される」の意味で「が発売」が許されるのはまるで意味が違う。それがそのほかの様々な他動詞にまで波及してしまう。「条例が施行した」はその見本である。
 いや、違うかも知れない。これは「条例が施行」ではない。「が施行した」になっている。「○○が発売」とは訳が違う。と言うか、「はやりの」「が発売」とは違うから、もっと重大な危機なのかも知れない。