夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

平仮名でいろは歌を書いた皿が出土した

2012年01月20日 | 文化
 三重県の斎宮跡から、「いろは歌」を書いた皿の破片が出土した。斉宮とは斉王の居た所。斉王は、天皇に代わって伊勢神宮に祀られている天照大神(あまてらすおおみかみ)に仕える独身の皇女である。良く知られているのが、天武天皇の皇女で、持統天皇によって謀反の罪を着せられて殺された大津皇子の姉である大伯皇女(おおくのひめみこ)である。皇女の弟の死に対する悲しみの歌は、万葉集に何首も載せられていて、読む者の涙を誘う。

 出土したのは「ぬるをわか」と「つねなら」の部分で、私には「つねなら」の方はそうとは読めないのだが。この「ぬるをわか」の文字だが、「を」は今とは形が違うし、「わ」も新聞のカラー写真ではそうとは読めないが、「ぬる」はとても良く分かるし、「か」も点の部分が欠けているが、分かる。
 記事には「斎王に従って都から来た女官は教養を持っており、皿のいろは歌は、地元で採用された下級の女官が文字を覚えるために書いた可能性が高い」と書かれている。
 この言い方は、地元の下級女官は教養が無く、それでいろは歌で文字を練習したのだ、と言っている。そうでなければ、何も「都から来た女官」と「地元で採用された下級女官」などの言い方をする必要は無い。

 しかし、私にはこれらの文字の形がとても素晴らしく見える。特に「ぬるを」は素晴らしいと思う。平安時代や鎌倉時代に書かれた平仮名の和歌集の書道の手本が何冊もあるが、そこに出て来る文字と遜色が無い、と私は思う。
 私は平仮名に特別の興味を持っている。現在使われているパソコンの文字でも、平仮名の形が悪くて使いたくないフォントが幾つもある。全部が悪いのではないが、いじけていて嫌だなあ、と思える文字が幾つもある。
 だから、自分で平仮名書体を作ってみようと、平仮名の手本とされている和歌集の写本の写真を色々と調べている。

 そしてこの文字が書かれている場所にも不審がある。皿の内面の外側に「ぬるをわか」が書かれていて、外面のやはり外側、内面の外側と同じ所に、「つねなら」が書かれている。初めから「いろはにほをへとちりぬるを」と書き始めたのなら、続く「わかよたれそ」があって、その次が「つねならむ」になる。外側に「わかよたれそ」まで書いたとしても、まだ皿には余白が十分ある。それなのに、すぐ次の「つねならむ」を外側に書く、と言うのが不自然に思える。
 写真をつくづくと眺め、歌の続き具合を考えるのだが、どうにも腑に落ちない。
 そして、上に述べた「地元で採用された下級女官が文字を覚えるために書いた」に大きな不信感がある。