夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

言葉の説明はきちんとするべきだ。文化庁の国語調査

2008年07月29日 | Weblog
 文化庁の国語調査の事を先日書いた。28日のTBSの午後2時からのワイドショーの終わりの方で、たまたま見たのだが、その一つ「憮然」を取り上げて説明していた。「憮」の漢字の意味を説明し、「失意」の意味だから、「失望してぼんやりしている様子」になるのであって、「腹を立てている様子」が間違いであるとの説明だった。そして大型辞典の『辞林』だったか、1988年から「腹を立てている様子」だとして、その意味で使っている人の方が多いから、との編集部の意見も紹介していた。
 私は中型辞典の『新辞林』しか持っていないが、そこにも「思いどおりにならなくて不満なさま」とある。用例は「憮然たる面持ち」。そこで他の辞典で調べてみた。
・岩波国語辞典=失望するさま。また、(あきれはて)驚くさま。「憮然たる面持」
・新選国語辞典=意外なことに驚いて、がっくりするようす。失望して心のしずむようす。「憮然たる表情」
・新明解国語辞典=自分の力に余るという表情で、ためいきをつく様子。「憮然としてあごをなでる」。意外な出来事で、ぼんやりする様子。暗然。
・明鏡国語辞典=落胆して、また、驚きあきれて、呆然とするさま。「憮然として立ち去る」「憮然たる面持ち」
・大辞泉=失望・落胆してどうすることもできないでいるさま。また、意外なことに驚きあきれているさま。「憮然としてため息をつく」「憮然たる面持ちで成り行きを見守る」
・広辞苑=失望してぼんやりするさま。失望や不満でむなしくやりきれない思いでいるさま。「憮然たる表情」「憮然として立ちつくす」

 色々な解釈がある。とても文化庁の解釈で済むとは言えない。各辞典の意味を挙げてみる。
失望。驚く。驚いてがっくりする。失望して心がしずむ。ため息をつく。ぼんやりする。暗然。落胆し、驚いて呆然とする。失望・落胆。驚きあきれる。失望してぼんやり。失意や不満でやりきれない。
 文化庁が正解だとする「失望してぼんやりしている様子」はどうも広辞苑の解釈を取り入れているらしい。説明がそっくりである。
 それにしても「失望してぼんやり」と「失望してがっくり」「失望して呆然とする」は違うだろう。広辞苑の「ぼんやり」は「気がきかないさま。利発でないさま」と同辞典にある。明確に「がっくり」「呆然」とは違う。

 何ゆえに、文化庁はこの広辞苑の解釈を是としているのか。そしてこのテレビもまたそれに唯々諾々と従っているのはなぜなのか。
 各種辞典の「驚きあきれはて」や「不満でむなしくやりきれない思い」なら「腹を立てている」とも似ているではないか。それらの意味をなぜ無視するのか。
 そうした事を考えると、文化庁のこうした調査とその結果発表が果たして役に立つのか、との大いなる疑問が湧く。この「憮然」なら「腹を立てている」のような説明をしている辞典もあるのが原因とも考えられるのである。
 では同じく調査をした「さわり」ではどうなのか。
 正解は「話などの要点」で、間違いが「話などの最初の部分」である。「さわり=最初の部分」の説明をしている辞典は私の持っている7冊では新選国語辞典のみで、同辞典は正しく「いちばんの聞かせどころ」と説明して、最近の用法では「曲などの出だしの部分」も言う、と説明をしている。
 つまり、文化庁が間違いだとしている用法は最近の用法らしい。ではなぜ最近はそのように使われているのか。前出の辞典は「曲などの」と言っている。そこにヒントがある。ポップスなどの曲では、「さわり=聞かせどころ」を「さび」と呼ぶ。そこから出だしの部分が「さわり」となったのではないか、と私は推測している。
 なぜ正しいのか、なぜ間違っているのか、をきちんと説明してくれなければ、ただ、間違いですよ、と言われたって、納得出来る訳が無い。どの年代が何%などと数値を挙げるよりも、そうした説明をする方がずっと役に立つはずである。と言うか、数値など実際には何の役にも立ちはしない。

 文化庁がこの有り様なら、せめて新聞がきちんと説明したって罰は当たるまい。マスコミはいつだってそうなのだ。単に現象を挙げているだけなのだ。テレビはさぞ、これは絶好の話題が出来たぞ、とほくそ笑んだ事だろう。
 このTBSの番組では、何と説明者が「呆然(ぼうぜん)」を二度も「あぜん」と読んでいた。あまりの事に私は「ぼうぜん」とし、そして「あぜん」とした。間違った言葉遣いの話をしていて、自分が間違っていれば世話が無い。この人は以前は朝のニュースショーの司会もしていたくらいの人である。私は面白く見ていたが、何の理由あってか、降ろされてしまった。その後、同局はオーム事件の不始末があったとかで、ニュース番組から手を引いて、朝、どの局もニュースショーをやっている時間帯に全く異質の「はなまるマーケット」なる番組を放送している。まあ、その前にみのもんた氏のニュースショーをやっているから、現在では、ニュースから手を引いたとは言えないが。
 この例だけで言うのは乱暴だが、テレビの報道のいい加減さに、私はホント「憮然たる思い」なのです。この場合の「憮然」にはもちろん正解を含みますが、同時に間違いとされている「腹を立てている」も含んでおります。