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30 竜王

2007-01-03 01:50:10 | 鋼の錬金術師
30 竜王

ランファンが帰国したときリンの世話係は異国の女が就いていた。黒い髪と瞳のアメストリスの女。名はマリアといった。今、ランファンの腕にはオートメールは時間的に無理だったがそれでも人目をごまかせる程度の義手はついている。
 家のものに聞くと世話係のランファンが一緒に帰国しなかったとわかったとき、ヤオ族の有力な家の者たちが一斉に娘を世話係として差し出したらしい。もしもリンの手がつけばいずれはヤオ族の族長の正室、うまくいけば皇后もあり得る。しかし、リンはどの家の娘も取らなかった。そして異国人を指名した。これには長老達も納得した。今はヤオ族内で争っている場合ではない。それに異国人ならもしも身ごもったとしても正室はありえない。
 マリアの主な仕事はリンが伴ってきた不老不死の鋼鉄の巨人の世話であった。
『アルフォンス君!なぜここに』
『ロス少尉元気そうでよかった』
『あなた一人なの、エドワード君はどうしたの』
『兄さんは…大佐(准将)に預けてきたよ』
『いったいなぜ』
『兄さんのためにリンに皇帝になってもらうんだ』
『アルフォンス君、何があったの』
『兄さんは、病気なんだ。僕の、僕のせいで。治せるのは神農しかいない』
正確には神農が治せるかもわからない。だが信じたかった。錬金術の可能性を信じたように。
マリアがアメストリスを離れてからの国の情報を一通り話す。マスタングが准将になったこと。イースト時代の部下たちがばらばらにされたこと。今ロイが緑陰荘という名の軍に近い家に住んでいること。
『緑陰荘なら(アームストロング)少佐の別荘(紅陽荘)の隣にあったはずよ。きっと少佐もエドワード君に手を貸してくれるわ』
『良かった。きっと兄さんさびしがるだろうから』
アルは知らない。ラッセルがセントラルに来て、エドのために緑陰荘に同居していることも、彼が兄のために命を注ぎ込むような技を使っていることも。
『僕はこの国のことを知りたいんだ。兄さんのために、リンを皇帝にするために』
『いいわ。私でできることなら何でもするわ』
再会した日こういう会話を交わした二人はその言葉どおりシンの言葉や文化を必死に学んでいった。その中には錬丹術の知識もあった。

 ランファンが戻ったのは皇帝の誕生日まで半月というぎりぎりのタイミングだった。
本来なら武に優れたヤオ族は皇帝に剣舞を捧げるのが通例である。しかしその中心となるものが半分以上死傷している。それに変わるものが出せないとヤオ族は終わりである。
リン、ランファン、アル、マリアはもっとも奥まった部屋、リンの寝室で意見を交わしている。問題はシンに来てからアルの練成がかならずしもうまくいかなくなったことだ。小さいものは問題ないが10メートルをこすサイズになると数秒で崩れるのだ。原因はわからない。
アメストリスを離れたためか?兄の側を離れたためか?
手配できる限りの錬丹術師も集め、原因を探るために専門用語になるとおぼつかないマリアの通訳のもと研究も続けた。しかし、原因がアルフォンス自身にあるとしたらシン国の錬丹術師の対応できる範囲ではない。
「アル、こうなってはもはやどうしようもない。俺は君自身を皇帝に差し出すしかない」
沈痛なリンの声。できるなら竜の練成を成功させてアル自身に対しては手を触れたくなかった。何の約束もなく離れた友のために、アルの安全はできるだけ確保したかった。しかし、リンにはヤオ族の族長としての立場がある。
「いいよ。覚悟はしていたし」
アルの答えはあまりにも静かだった。
「待って、お願い待って。そんな、皇帝にアルフォンス君を渡したりしたら」
「うん、分解するかもね」
「平気な顔でいわないで!」
マリア・ロスの声は悲鳴に近かった。
「そう言われても僕鎧だからねぇー」
生身の体ならテヘッとでも言いそうな声でアルは答える。
「リン様、アルはヤオ族にとっても最後の切り札です。温存できるほうが良いかと思いますが」
ランファンがそっと意見を述べる。リンの気持ちを代弁するような言葉である。
「できれば、俺もそうしたい。だが、」
もう時間がなかった。
「リン様たとえ小さい竜でも多少の効果はあります。練成はして、うまくいけばそれでいいですし、最悪でも皇帝陛下がどうされるかはわかりません」
「確かに、…アルもうシン語はほぼ話せるようだな」
彼らは最初のうちはアメストリスの言葉で話しあっていたが、ここ数日はほぼシンの言葉で話していた。
「普通の会話なら何とかなるよ」
「よし、最悪皇帝のところに行ってもあきらめるな。できるだけ引き伸ばせ。魂の秘密を餌にしろ」
「リン、一回聞きたかったんだけど、皇帝が父親だという実感がある?」
「は、あるわけないだろ」
「一度ゆっくり話したいとか考えないの」
「アル、俺はヤオ族のため皇帝になるため生まれた」
「うん、僕自身も父親に好きも嫌いもないけどね、昔友達がお父さんを探していたんだ。後でわかったけど父親は殺されていた。今まで忙しくて思い出す暇もなかったけどあの二人は元気かと思って。それに好きになれるかわからないけど父さんに一度会っておきたかった。リンはどうなのだろうと思っただけだよ」
「その友達の父親はいい父だったのか」
「うん、やさしい人だったと言っていたよ」

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