102の5
小説版より
「これ以上は無理だ」
どうやらこうやら屋根から博物館の建物の中に降りて来たラッセルの第1声は自分自身の現状把握だった。
一応ドーピング薬で持たしてはいるが薬の効き目は長くて6時間。まして健康人でもつらい砂漠の中ではよくもって3時間だろう。
「降伏するか、交渉するかは好きにしてくれ。ここのことはここの者しか決められない」
突き放しているようだが正解ではある。ラッセル自身も『自分の街』を失っている。だからこそ惰性でここに住んでいる大人にではなく子供に訊いた。
「生き残りたい」
「敵はあとどのくらいいる」
「50人」
「攻撃は次で終わる」
それ以上は自分が持たないと予測できた。だとしたら次の攻撃で50人全員を倒すしかない。そのためにはまず敵を1箇所に集めることだ。そして倒す方法が必要だ。
「水」
屋根から落ちた大男がうめいた。意識が戻りかかっている。
ラッセルはあわてて隠しポケットに手を入れ光る粒に見える縛粒(ジョウリュウ)を取り出した。残りは5粒。無駄にはできない。だが指先が震える。これを使ってもまともにコントロールできないだろう。
馬賊の大男はいきなり跳ね起きた。10メートル以上の高さから落下したのにたいした回復力である。
ヒューと軽い口笛をラッセルは吹く。
「たいしたパワーだ」
どうもラッセル・トリンガムという存在は他人とリズムの異なるところがある。口笛を吹く暇に逃げればいいのに。
後(1917年)に喜劇役者エドワード・ヘルリック(シャオガイ)はエドを相手に語っている。
そののちエドにとって人生最大の難問を与えるのがシャオガイの役目。
『豆とか、小さいとか、ほんものよりちっこいとか言われたらにっこり笑って愛想を振りまくんだよ。絶対に』
この辺りは後の話となるのでその折に詳しく書くことにしよう。
この街の地理や地形の特徴はシャオガイが詳しく知っていた。白水の技についてはラッセルが推測した。
「結界術の使い方は行きに説明している。そんなに難しい技でもないし白水なら使えるはずだ。」
「見た目はわからないけどあの泉の広場は居住区より高い。あそこでボールを転がせば病院辺りまで転がってくるよ」
「それなら病院の近くに餌を置こう」
太陽は沈みかかっていた。砂漠の太陽はたちまち沈む。完全に暗くなる前に作戦を抱えたシャオガイは博物館の外に出た。勝利の可能性を手に。
シャオガイは白水のところに行くと、作戦を説明した。
作戦とやらを聞いて白水は驚くよりあきれていた。
確かに結界術については説明された。一応狭い範囲なら成功した。
それほど難しくないのも事実だ。
しかし、「スケールの違いを考えてないな」
行き道に成功したのはせいぜい片手で持てる水差しサイズ。
それをいきなり泉一つ分に使えというのだ。
0,5リットルで成功したといって、2500リットルでもうまくいくと思っているのか。5000倍だぞ。
しかもそれでうまくいかなかった場合、他に対策がないと言い切るのだ。ほとんど脅しである。
さらに悪いことには
「もう作戦は実行しているよ。だから月が『捧げものの木』に懸かるときに水を流して欲しいんだ」
否も応も無い。
やるしかないのだ。
シャオガイが白水への連絡のために行ってしまうと博物館は静かになった。
ラッセルは服を脱いだ。ボタンはさっきシャオガイにはずさせているので脱ぐだけでいい。
服の内側に細かい砂が入っている。
じっとりした汗と混ざって不愉快この上ない。
ラッセルが着ていたのはもともと砂漠地帯用の服装ではない。そのために余計に不快感が増した。
ラッセルは下着まで脱ぎ捨て素裸になった。日が沈んで空気は急速に温度を下げているがまだ寒いほどではない。
ラッセルは馬賊の大男は完全に気絶していると思っていた。だから安心して汗が収まるまで裸のままでいた。
しかし実際は動くことはできなかったが大男は半分ほど意識が戻っていた。
薄暗がりの中、淡く紫にひかるしろい影。
さらり。
銀の髪がオーラのようにその背を飾る。
(女神、あなただ)
復讐と破滅と罠をつかさどる3女神の一人。エリス。
いにしえの神格では大地の再生をつかさどった。根はイシュヴァールの神と同一である。
大男の目に映る女神は自分を倒した女の顔をしていた。
音声にしたらゾクリと書かれるであろう感覚にラッセルは襲われた。
―お夜食にピーチパイを頼んだよ。メリッサを添えてくれるってー
一瞬、意識が低下した。その瞬間弟の幻影を見た。
(フレッチャー・・・?)
緑陰荘ではなかった。
見たことのない異国風の調度品のある部屋だった。
幻覚にしてはあまりにもはっきりしていた。
だが弟がここにいないことは当然わかっている。
(俺は正気を失くしかけているのか)
小説版より
「これ以上は無理だ」
どうやらこうやら屋根から博物館の建物の中に降りて来たラッセルの第1声は自分自身の現状把握だった。
一応ドーピング薬で持たしてはいるが薬の効き目は長くて6時間。まして健康人でもつらい砂漠の中ではよくもって3時間だろう。
「降伏するか、交渉するかは好きにしてくれ。ここのことはここの者しか決められない」
突き放しているようだが正解ではある。ラッセル自身も『自分の街』を失っている。だからこそ惰性でここに住んでいる大人にではなく子供に訊いた。
「生き残りたい」
「敵はあとどのくらいいる」
「50人」
「攻撃は次で終わる」
それ以上は自分が持たないと予測できた。だとしたら次の攻撃で50人全員を倒すしかない。そのためにはまず敵を1箇所に集めることだ。そして倒す方法が必要だ。
「水」
屋根から落ちた大男がうめいた。意識が戻りかかっている。
ラッセルはあわてて隠しポケットに手を入れ光る粒に見える縛粒(ジョウリュウ)を取り出した。残りは5粒。無駄にはできない。だが指先が震える。これを使ってもまともにコントロールできないだろう。
馬賊の大男はいきなり跳ね起きた。10メートル以上の高さから落下したのにたいした回復力である。
ヒューと軽い口笛をラッセルは吹く。
「たいしたパワーだ」
どうもラッセル・トリンガムという存在は他人とリズムの異なるところがある。口笛を吹く暇に逃げればいいのに。
後(1917年)に喜劇役者エドワード・ヘルリック(シャオガイ)はエドを相手に語っている。
そののちエドにとって人生最大の難問を与えるのがシャオガイの役目。
『豆とか、小さいとか、ほんものよりちっこいとか言われたらにっこり笑って愛想を振りまくんだよ。絶対に』
この辺りは後の話となるのでその折に詳しく書くことにしよう。
この街の地理や地形の特徴はシャオガイが詳しく知っていた。白水の技についてはラッセルが推測した。
「結界術の使い方は行きに説明している。そんなに難しい技でもないし白水なら使えるはずだ。」
「見た目はわからないけどあの泉の広場は居住区より高い。あそこでボールを転がせば病院辺りまで転がってくるよ」
「それなら病院の近くに餌を置こう」
太陽は沈みかかっていた。砂漠の太陽はたちまち沈む。完全に暗くなる前に作戦を抱えたシャオガイは博物館の外に出た。勝利の可能性を手に。
シャオガイは白水のところに行くと、作戦を説明した。
作戦とやらを聞いて白水は驚くよりあきれていた。
確かに結界術については説明された。一応狭い範囲なら成功した。
それほど難しくないのも事実だ。
しかし、「スケールの違いを考えてないな」
行き道に成功したのはせいぜい片手で持てる水差しサイズ。
それをいきなり泉一つ分に使えというのだ。
0,5リットルで成功したといって、2500リットルでもうまくいくと思っているのか。5000倍だぞ。
しかもそれでうまくいかなかった場合、他に対策がないと言い切るのだ。ほとんど脅しである。
さらに悪いことには
「もう作戦は実行しているよ。だから月が『捧げものの木』に懸かるときに水を流して欲しいんだ」
否も応も無い。
やるしかないのだ。
シャオガイが白水への連絡のために行ってしまうと博物館は静かになった。
ラッセルは服を脱いだ。ボタンはさっきシャオガイにはずさせているので脱ぐだけでいい。
服の内側に細かい砂が入っている。
じっとりした汗と混ざって不愉快この上ない。
ラッセルが着ていたのはもともと砂漠地帯用の服装ではない。そのために余計に不快感が増した。
ラッセルは下着まで脱ぎ捨て素裸になった。日が沈んで空気は急速に温度を下げているがまだ寒いほどではない。
ラッセルは馬賊の大男は完全に気絶していると思っていた。だから安心して汗が収まるまで裸のままでいた。
しかし実際は動くことはできなかったが大男は半分ほど意識が戻っていた。
薄暗がりの中、淡く紫にひかるしろい影。
さらり。
銀の髪がオーラのようにその背を飾る。
(女神、あなただ)
復讐と破滅と罠をつかさどる3女神の一人。エリス。
いにしえの神格では大地の再生をつかさどった。根はイシュヴァールの神と同一である。
大男の目に映る女神は自分を倒した女の顔をしていた。
音声にしたらゾクリと書かれるであろう感覚にラッセルは襲われた。
―お夜食にピーチパイを頼んだよ。メリッサを添えてくれるってー
一瞬、意識が低下した。その瞬間弟の幻影を見た。
(フレッチャー・・・?)
緑陰荘ではなかった。
見たことのない異国風の調度品のある部屋だった。
幻覚にしてはあまりにもはっきりしていた。
だが弟がここにいないことは当然わかっている。
(俺は正気を失くしかけているのか)
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