金属中毒

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穏やかな時間  本文の1部ですが入り損ねたお話

2007-01-13 19:39:42 | 鋼の錬金術師
銀の(アルゲントゥム)トリンガムの
リザの子犬達より  
 
本文の1「穏やかな時間」

 ラッセル・トリンガムが推薦枠で国家錬金術師にトップ合格したと知ったリザ・ホークアイはセントラル一おいしいと評判の店で直径40㎝のチーズケーキを買い元上司の住む緑陰荘に向かった。
(エドワード君少しは元気になっているといいけど)
電話で声を聞いた限りではずいぶん調子が良さそうに感じた。このケーキはエドの希望である。
「いらっしゃい、ホークアイ大尉」
「あ、中尉それ1番店のチーズケーキだろ」
前に見たときは意識もなく雨に打たれた子猫を思わす様子であったエドが、今日は顔色もよく玄関まで吹っ飛んできた。
「エドワード、お前はまったく子供みたいに。すいません大尉」
とがめているのは銀の瞳のトリンガム、先日リザが連れてきた青年だ。
「いいじゃん。俺中尉とは仲良しなんだ」
「気にしないで、エドワード君とは12歳のときからの友達なの」
「にしても、お前も一応16だろ。もう少し礼儀を」
「その言い方、ロイにそっくり。お前こっちに来て一段と老けたな」
「お前はまったく成長してないな。」
「誰が水やっても伸びない豆だ!」
「どうしてそう聞こえるのだろうな。俺は中身を言ってるんだが(まぁ、外も同じか)」
ポンポンとテンポ良く交わされる声にリザが微笑する。
「元気になって良かったわ。そうそうトリンガム少佐(待遇)銀時計おめでとう。私の目に狂いはなかったわ」
「ありがとうございます。大尉」
「軍の中ではないのよ。リザでいいわ」
「はい、・・・リザさん」
「あ、ずるい。ラッセルだけ名前呼びだ」
「そうね、いつも司令部で会っていたからすっかり『中尉』になっていたわね」
「わーい、それならリザ、姉さん」
「あらうれしいわ。かわいい弟がほしかったの」
「お茶入れてきます。エドワードあまりはしゃいでると後で疲れるぞ」
「お前がいるから平気だよー!」
テンポ良く投げ交わされる会話の中にもエドが闘病中であることがうかがえる。
(そうね、いくら奇跡の使い手の名を得ていても限界があるわね。この国の医術ではどうしても3ヶ月からよくもって一年。もう宣告されてしまっている。せめて残った時間を楽しめるようにしてあげたい)
「にぎやかだな、中尉」
「まぁ大佐いらっしゃったのですか」
「君が来ると聞いてね、久しぶりに休んだよ」
「大総統第一側近が簡単に休まれるなんて」
「第一側近か、首輪をはめ直されただけだが」
「大佐、そんなことを口にされては!」
「ハハ、心配しなくてもいい。君の前だけだ。中尉」
男女の視線はエドの上で溶け合った。
「あ、お邪魔なら俺あっちで待ってるけど」
「エドワード君!」
「エドワード!大人をからかうとは悪い子だな。どこで覚えたのだ。まったく」
「ラッセルから」
ぺろっと舌を出す姿は世間の評価通りのお子様で、「とても、あの緑陰(ラッセルの二つ名)と同じ年には見えない。うっかりすると10歳くらい違って見える」といわれるのも無理はない。もっともこの評価にはラッセルの年齢不詳も考慮に入れるべきである。

直径40センチのケーキはほとんどエドの腹に収まった。
「こんな甘いものよくそんなに食えるな」
わずかに1センチ分ほど味見しただけのラッセルは半ば感心したような表情でエドを無意識に見下ろした。
「ここのうまいんだ。一番店」いつもなら見下ろしてくるラッセルに文句をつけまくっているエドが今日は満面の笑顔で返答する。
「はぁー、幸せそうだな。(しかしこれでは夕飯のカロリーを加減してやらないと)」
エドのフォークからケーキのかけらがぽろぽろ落ちる。ラッセルが手早くふき取るが次の一口でまた落ちる。
「食ってからでいいだろ。そんなこと」
「そもそもぽろぽろ落とすのが問題だ」
「しょうがないだろ。ケーキだから」
「子供みたいな言い訳をするな・・と、お前子供だな」
「うるせー、このふけ顔」
リザがクスリと笑った。
「まるで、本当の兄弟みたいね。エドワード君いいお兄さんが出来て良かったわね」
やさしく笑うリザはいかなる二つ名を持つ国家錬金術師より強かった。
「ラッセル君は甘いもの苦手だったの」
「苦手では無いですけど、あまり食べないですね」
「こいつ好みまでおじんなんだ。コーヒーはブラックだしココアは飲めないし」
「飲めないではなく、飲まないだけだ」
「そういうのを苦手というのよ」
とりとめのない穏やかな時間が過ぎていく。そんな中でも国家錬金術師が三人もいるので練成の話題はよく出てくる。普通人には理解できない記号めいた言葉をむきになってやり取りする男3人をリザは昆虫採集に夢中の子供を見る母親の目で見ている。
(エドワード君のためにこんな幸せな時間がずっと続いてくれれば、 エドワード君?)
ついさっきまでロイに元気良く言い返していたエドが急におとなしくなった。
「エドワード部屋に戻ろう」
「・・・もう少しこっちにいたい」
目がかすんでいるのか、エドはしきりに両手でこすっている。
「こら、こするな。傷になるだろ」
ラッセルに手がエドの両手をそっと押さえる。
おとなしくなったエドを軽々と抱き上げた。


エドがいなくなると室内は急に静かになった。
「大丈夫かしら」
「エドならラッセルに任せておいていい。面倒見のいい子でね、治療以外にも食事におやつ着替えに歯磨きとじつに細かく面倒見てくれている」
「本当にお兄ちゃんですね。ラッセル君は」
「エドワードが子供に戻っているよ。あの子があんなに柔和な顔になるとは思わなかった」
「アルフォンス君はあれから?」
「連絡なしだ。あの子はそういう点もう少しこまめかと思ったが、やはりエドワードの弟だな」
冗談めかして言うがロイにはわかっていた。正式の国交の途絶えたシン国にあの目立つよろい姿で密入国するのがどれほど大変か。ましてや皇位継承争いのど真ん中に突っ込んでいったアルフォンスが簡単に連絡できるはずがない。
                                  
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