金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

18 幼馴染

2007-01-02 21:12:16 | 鋼の錬金術師
⑱ 幼馴染達と大人の視線
 「エド・・・!」
ウィンリィの言葉は途中で止まった。当然だろう。彼女がロックバレーに出かけた日、エドは起き上がるのも一人ではできない病人だった。それが今日帰ってみるとエドは一人で歩いている。足取りもしっかりしているしやせ細るばかりだったほほが幾分ふっくらしてきている。
「お帰り、ウィンリィ」
「ただいま」
毒気を抜かれたように無意識に返答とするウィンリィ。
「あ、それ新しいオートメールだろ」
ウィンリィが大事そうに抱えている荷物をエドが目ざとく見つける。
「風呂上がったら付け替えてくれよ」
「風呂って、エド切ったのじゃないの!」
「6日目だな。もう何でも食っていいし、そうだアップルパイ作ってくれよ」
「パイってもうそんなものまで食べれるの」
「最初は離乳食と同じだったけどな」
この6日間、ウィンリィがいなかったのは幸いであった。ラッセルは毎食ごとに半分エドを抱くようにしながらスプーンでひとさじずつ食べさせていた。当初エドは照れくさがったのだが、ラッセルが反応を読み取りながらのほうがいいと言い切るので、結局受け入れていた。慣れとは怖いものである。今はそうする必要は無いのだがエドもラッセルもこの小鳥の餌付け状態に違和感が無くなっていた。
「傷口は?」
「見るか?すごいんだなこれが」
エドワードが何のためらいもなく腹をめくり上げる。(どれほど無残な傷跡が)と思っていたウィンリィの前に。
「無い」
エドの腹部にも胸部にも何の傷跡も無い。
「無いだろ。俺も治癒練成は始めてだったけど」
「ふーん、あの変態腕は確かだったわけ」
「なんだ、まだ気にしてるのか。誤解だって言っただろ」
(エドはそうでも、あの変態男が何を考えてるのか知れたものじゃないわよ)

風呂から上がってきたエドの髪はまだぐしょぬれだった。
ウィンリィは昔と同じようにタオルで金の髪を拭いた。
「髪ぐらい拭いてきなさいよ。まったく、こんなのが傍にいたら面倒見が良くなるのもわかるわねぇ」
「こら、むやみにこするな。切れる」
「文句を言うのなら自分で拭いてから来なさいよ」
幼馴染の声はひらっきぱなしのドアの向こう、立ち話中だったロイとラッセルのところまで響いた。長身のラッセルと軍人にしては小柄なロイには年齢差ほどの身長差は無い。
「幼馴染か、」
少しうらやましい気のするラッセルである。小さいころから一箇所に長く住んだことの無い彼にはそういう対象がいなかった。
「子供だな」
育った環境はまるで異なるがそういう対象を持たないという意味でこの二人は似たような幼少期を過ごしていた。ロイにとってはヒューズが、ラッセルにとってはエドが友の名で呼べる最初の相手であった。
「あの子があんなに元気になってくれるとは正直思わなかった」
「問題が起きるのはこれからです。まだ本当の意味で症状が出ているわけではありませんし。あそこまで長期の中毒はへたな治癒を行うと残存機能を阻害します。肝機能低下、神経障害への対処、比較的負担の少ない血液の浄化、できることをして時間を延ばします」
「完全に治すのはやはり無理か」
「はい」
「そうか」
「まともな方法では不可能です」
「まともでない方法か、赤い石でもあれば」
後半はつぶやきになった。
気を取り直したようにロイは話題を変えた。
「実技試験は明日の13時だが用意はできているのか」
この数日エドに付きっ切りの彼に用意をする暇などあったのだろうか?
「素人の目を楽します方法を考えますよ」
涼やかに微笑する。その整いきった顔立ちを見るうちにロイはこの子なら術師以外の使い道もできると確信した。
(戦闘力もある。人当たりもいい。女にももてそうだ。うまく育てれば軍人としても一流になる。育ててみるか)
イースト以来の部下達と引き離され、病気のエドワードをかかえて、この時期のロイは身動きが取れなくなっていた。ラッセルが来たのは偶然のタイミングだったが、まるで無き友が自分の代わりに与えてくれたような気がしてならなかった。

⑲ 緑陰の錬金術師