俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その49

2011年05月18日 23時06分15秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「わかったよ。きみが高性能……いや、高度な知性を備えてるってことは」
「オ褒メニ与リ、光栄デス」
「ひとつ。聞いてもいいかな」
「何デショウ?」
「いま君は、かつての主の死を確信したわけだが。感情の動きは、特になかったのか? 悲しみ……であるとかさ」
 先程まで得意げに弁舌を振るっていたナウスは、静止し押し黙った。カメラアイの側面についた小さなランプが、深呼吸するように点いたり消えたりしている。
「私ノ頭脳二ハ」
 考え考えといった様子で、慎重に言葉を発する。
「アラカジメ『感情』ヲ作リ出スプログラムガ用意サレテイル訳デハアリマセン。デスガ、限リナク機能ヲ高メ、学習ヲ繰リ返シタ電子頭脳二、『感情』二近イモノガ生ジルコトハ判明シテイマス。私ノ頭脳ニモ、ソノ現象ハアラワレテイルハズデス。
 ケレドモ――私ハ、悲シンデイマセン」
「なぜだ?」
 金属製のその顔をまじまじと見つめ、フォックスは問うた。
「考エテモミテクダサイ。アナタガタ“ヒト”は、喜ビ、悲シミ、怒リ、愛シ、憎ミマス。時二ソレガ、大キナ過チヲ生ムノデス。感情ヲ持ツユエニ、冷静サヲ、論理性ヲ、道義心ヲ失イ、誤ッタ道ヘト進ム。サラニ、大キナ感情ノ波ハ、身体機能ヘモ影響ヲ及ボシマス。
 悲シミノアマリ機能停止スルオペレーター・ロボットヤ、怒リ狂イミスヲ犯ススーパー・コンピュータガ、必要トサレルデショウカ?
 私ハジェームズトトモニ十年以上ヲ過ゴシ、彼ノ人格ハ私二大キナ影響ヲ与エマシタ。彼ノ死ハ、私二トッテモ大キナ喪失デス。
 シカシソノ喪失ガ、私ノ回路ヲオーバーロードサセル前二、アルプログラムガ作動シマス。大キナショックガ私ノ機能ヲ低下サセル恐レガ生ジタ場合、ソレニ関連スル一連ノ記憶ヲ遮断スル――イワバ一時的二“忘レル”ノデス」
 そこまで言うと言葉を切り、カメラアイで二、三度まばたきする。目玉が乾いて困るわけでもないのに、なぜまばたくんだ、とフォックスは思ったが、それはたまたままばたきに見えるだけの、機能的に意味ある動作なのかもしれない。
「じゃあ今の君は、ジェームズのことを忘れているわけか? それにしては、最後に会った日の日付まで覚えていたじゃないか」
「スベテヲ忘却シテシマウヨウデハ、ソレハソレデ問題ガアリマス。喪失スル記憶ハ、私ノ頭脳ノ中デ生ジタ感情ノ動キダケデ、感覚器ガトラエタ情報ナラバ、自由ニ思イ出スコトガデキマス」
「??? なんだか、よくわからないぞ」
「ジェームズノ姿ヤ言葉ハ思イ出セルノデスガ。ソレラニ対シ、私ガイカナル感情ヲ抱イタカ。好意ヲ持ッタカ、嫌悪ヲ生ジタカ。私ハジェームズノ何ガ好キデ、何ガ嫌イダッタカ……ソノ部分ハ一切、思イ出スコトガデキマセン」
 フォックスの両目が、大きく見開かれる。
「それじゃあ……それじゃあ、何も覚えていないのと同じじゃないか」
 幼い日々のおぼろげな記憶の中、ところどころに鮮明に焼き付いた一瞬一瞬が、昨日のことのように浮かび上がってくる。あたたかく大きな手、丸くなり眠り込んでしまった体の上からかぶせられた厚手のジャンパー、湯気をあげるカップが二つ、その中のコーヒーの苦み。ニッパーで切り出した部品で組み立てる模型の戦闘機、血の味と指先の絆創膏。知らない街を一人でさ迷い歩き、やっとのことで見つけ出され抱き上げてもらった時の、涙でにじんだ路地の風景。

 “ヒト”ノ悲シミガドンナモノナノカ、私二理解スルコトハ不可能デス――私ハ、真ノ意味デ、悲シンダコトガナイカラデス。

 自嘲気味に聞こえるナウスの声に、フォックスは我に返った。


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1 コメント

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Unknown (七市)
2011-06-17 15:29:16
ナウス…。
雪月さんにかかるとナウスの高性能さも増しますね。
「感情を忘れる」という表現が印象的。
無くて当たり前な風に思っていたけど、ロボットもヒトと同じく感情を抱くのでしょう。
それが高性能であればあるほど。
フォックスが、生前の父を思い出す所は鼻がツンとなりました。
ナウスも、こうして思い出したいと思っているのでしょうねぇ。
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