ぬばたまの 珈琲にとく 月影の かすかに甘き ひとりのいほり
*今日は、枕詞の応用について語ってみましょう。これは、ツイッターで蘭が歌ってくれた歌です。
ぬばたまとは、ヒオウギの実のことです。その実が黒いことから、「ぬばたまの」は、「黒」とか「夜」とか「髪」とか、とにかく黒いものを思わせる言葉にかかります。
ぬばたまの夜の香りを身に納めけふを去りつつすぐす閨かな 夢詩香
というふうにね。しかし、こういうことも硬く生真面目に守りすぎることもない。黒いものなら何でもいいというわけではないが、そういうものをぬばたまに結び付けると、また言葉の意味が鮮やかに印象付けられます。
ぬばたまの オブシディアンは 夢を見る かはたれに呼ぶ 神の祈りを
こんなふうにね。オブシディアンは黒曜石のことです。とても黒いきれいな石のことです。遠い昔には石器にも使われた。古代のイメージのするきれいな石のことですから、黒人の肌をイメージするためにこれは使いました。
ほかにも、「ぬばたまの男」なんてのがありましたね。もちろん黒人のことです。こういうふうに、枕詞は柔らかく使えばまたおもしろいものになる。
子規はきらいですが、この歌だけは覚えているという人もいるでしょう。
久方の アメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも 正岡子規
「久方の」は「天」とか「月」にかかる枕詞です。「あめ」とアメリカ人の「アメ」をかけて作ったのだが、これがおもしろいので、わたしたちも使わせてもらいました。
久方の あめりかびとは みづからを まほの国とぞ 世に宣るがよい
おもしろいですね。柔らかく言葉を使ってみると、いくらでも応用ができます。ほかにも一つやってみましょうか。枕詞の定番と言えば、「ひさかたの」と「ぬばたまの」に「ちはやぶる」「あかねさす」くらいだというところか。「ちはやぶる」は「神」にかかりますから、いくら何でも神をもじることはちょっと難しいですね。では。
あかねさす ヒルデガルトの 見し夢は 銀の御里の いのりなるべし
ちょっと衒学的ですね。ヒルデガルト・フォン・ビンゲンのことなど知らない人が読んでもなにもわからない。ですが、「あかねさす」は「昼」にかかるので、ヒルデガルドでひっかけてみました。
遊びの要素もありますがね、おもしろいので、やってみてください。