寝屋をとふ 子猫のありて 子が笑ふ 夢詩香
*これは、かのじょの中にずっと残っていた小さな記憶から詠んだ句です。
まだ上の子が赤子に毛が生えたような年だったころ、かのじょは一匹の子猫を拾ったことがありました。その頃はまだ小さな賃貸の部屋に住んでいたから、猫など飼ってはいけなかったのだが、どうしても捨てておくことができず、かのじょは部屋に少しの間かくまっていたのです。
かわいい猫でした。雑種でしたが、少しアメリカンショートヘアの血を引いているような姿をしていました。最近はアメショを飼っている人はたくさんいますから、かのじょのその推測が当たっていないということはありません。
何よりもうれしかったのは、まだ小さかった最初の子が、子猫をとても喜んでくれたことでした。上の子は色白のかわいい子だった。かのじょはとても深く愛していた。その子が、子猫が来ると、顔をぱっと明るくして、愛したい、という心を見せるのです。
かわいい、愛したい。そんな心が、子供の目に光って見えるのです。
それは美しかった。子供の中にそんな暖かなものがあるなんて。この子はきっとすごくいい子なんだ。かのじょはあの時のことが、ずっと忘れられなかったのです。
ただ、残念ながら、夫が相当な猫嫌いだったので、子猫との暮らしは長く続きませんでした。夫は会社に猫を飼ってくれる人がいたと言って、猫を連れていきました。だが、本当はそれは嘘だったということを、かのじょが知ったのは、ずっと後のことでした。
夫が子猫に何をしたのか、わかっても、あの人は何も言わなかった。ただ、あの子猫を愛することを、子供に味わわせてやれなかったことを、ずっと寒く感じていた。
できるなら、愛させてやりたかった。暖かな魂の経験を、味わわせてあげたかった。だが、そんな小さな願いも、夫は許してはくれなかったのです。
もう終わったことですが、いつかわたしは、あの人のこの小さな悔いを、取り戻してやりたいと思っています。かのじょの愛したあの子に、小さな猫をやりたい。あるいは、もっといいものを。
そういう願いがあります。