いちじくの 知るを隠せる 内の花 夢詩香
*これは、かのじょがよく通っていた野原に植えられていた、いちじくの木の冬芽です。かわいらしいですね。
あの人はよく、この野原で遊んでいました。苦しいことの多い世界で、あの人の心がやすらぐ、数少ないきれいな場所でした。
あそこで、ニワゼキショウやヒメジョオンやナノハナと話をするのが好きだった。青草の上を吹くそよ風に染まっているのが好きだった。野の隅には、自分が特に友達だと思っているクスノキがあって、いつも話をしていた。
クスノキの中には、美しい魂がいて、かのじょを深く愛してくれていた。
高い空を見ては、いつか帰れる故郷を夢見ていた。あの場所があるだけで、かのじょはつらいことばかりのこの世界で生きることが、随分と楽になっていたのです。
だが、わたしは知っている。
そんなかのじょの様子を、どんな男が、どんな目で見ていたかを。
あの場所も、いつしか、かのじょが安らぐ場所ではなくなっていました。ある日突然、クスノキは切られた。そしてたくさんのいちじくの木が植えられていた。いつしか工事がされて、妙な太陽光発電パネルが並んでいた。なぜそんなことになったか知っていますか。
だれもわからないと思ったら、大間違いだ。
いちじくの木は知っている。野原に咲く花も、すべての草も知っている。
かのじょが欲しかった男が、やったのです。あの人があそこばかりに行くのが憎くて、馬鹿な男があそこをつぶしてしまったのです。世間に通りのいい痛い言い訳をしてね。
嘘だと思うなら、あそこに行って、いちじくに聞いてごらんなさい。本当のことを言ってくれますから。男が、どんなずるいことをしたのかを、すべて教えてくれますから。
いちじくの花は、実の中に隠れている。だが、決してないわけではない。真実は、いちじくも実をむけばわかる。いつまでも、嘘ばかりが通用する世の中ではない。
すべての人間が、自然界の声を聴くことができるようになった時、馬鹿男がどんなことをしてきたか、それらもすべてばれるのです。
あれらが、どんな恥ずかしいことを影でしてきたか。すべてがばれるのです。