鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

オール虫キャスト『江刈の野原はみんなのパラダイス』

2014-11-08 12:28:25 | 日記

葛巻2日目のつづきです。

 (注:ひとつ下の分から読んでいただけると、順番がつながります)

 

 この日の取材をだいたい終え、江刈小学校へ。

そろそろみんな下校の時間かな。

さよならを言いにいかなくちゃ。

次は来年4月に来るねー

と教室をのぞくと・・・・・・・いつもカメムシ探しに熱心な3,4年生、T先生の組が

何やらにぎやか。

「今ね、学習発表会でやる劇の練習してるんだ!」と子どもたちの顔が上気している。

楽しそうだね~というと

「題名は『江刈の野原はみんなのパラダイス』っていうの」

「わあ、観てみたいなあ、写真送ってね」

 

 カメムシも登場する劇ときいて、楽しみにしていたところ、きのうT先生から、劇の写真と脚本が送られてきましたー。

 

 さて、この『江刈の野原はみんなのパラダイス』はもともと立木和彦作、小峰書店刊『みんなで作る小学校劇4年生』に載っていたもの。

原作にはもちろん「江刈」はついていないのだけど、ぜひ虫たちが登場する劇を上演したい、とT先生が脚本をさがし、キャストにカメムシを加えて手直ししたのだという。

出演は、くも吉、くも太、チョウ、ミツバチ、テントウムシ、カマキリ女王、スズメバチ1,2、くも助一家親分、子分、そして、われらがカメムシ、というオール・虫キャスト。

 

江刈の野原で、虫たちは楽しく暮らしています。

(注:緑色の翅の衣装をつけているのがカメムシ役のYさん)

ところが、そこに「カマキリ軍団」が来た!という知らせが。

 

わっ、ほんとだ、来たー

2匹のスズメバチを従えた、カマキリ女王です。

(鎌をもった女王様、サングラスの悪役たち、かっこい~)

女王:「なんてみごとな野原だ。気に入った、なんとしてもあたしたちのものにするのだ!」

「オオーっ」

 

どうしよう・・・・と不安におののく虫たちの前に、くも吉とくも太が。

ほかの虫を手当たり次第に網でつかまえるというので、この野原ではくもはきらわれものの仲間はずれ。

「どうしたの?」と心配してきくくも吉に、みんなは「いやあねえ、くもって」と去っていく。

 

そこへ今度はくも助一家の親分と子分があらわれて、この野原をぶんどるために、くも吉たちの網で

虫たちを一網打尽にしろ、とせまるも、くも吉はむやみな殺生はしない、とだんこ断る。

 

 翌日、夕闇の中で遊んでいたテントウムシがくもの網にかかってしまう。

もがいていると、くも吉が網から助け出してくれた。

しかしテントウムシ、仲間のカメムシやチョウたちに、自分はクモをやっつけて逃げ出したのだ、とついウソを。

 

 「助けてやったのに、どうして?」とくやしく泣きする弟のくも太を

「いつかきっと、わかってもらえるよ」となぐさめる兄のくも吉。

暮れゆく野原で、くも太はひとり歌う・・・・・・

「どうして,わかってくれないの,

こんなにつくしているのに,心に悲しさが,募るだけ…

いつかはきっと笑えるだろう,

その日を信じて生きていく♪」

嫌われ者のクモのさみしさを、マイクをもって、せつせつとソロで歌ったのは、

あのカメムシはかせ2号のTくんでした。

 

 さて、カマキリ軍団が攻めてきて、江刈の野原で大乱闘がはじまった。

 

応戦するも、虫たちは追い詰められていく。

そこへ、くも吉、くも太が登場。

カマキリ軍団を挑発しつつ、くもの巣へ誘い込み、一気に捕縛!

クモの糸に絡めとられて、さすがのカマキリ女王とスズメバチたちも降参。

しかし、虫たちは、「仲間どうしであらそっている時じゃないよね」とカマキリたちを放してあげる。

 

「見て、野原は花が満開よ」

「ぼくたちの手で野原をまもっていこう」

「うん!」

くも太:「江刈の野原はみんなの」

全員:「パラダイス!!!」

 

パチパチパチパチ!!!

出演は、江刈小学校3,4年生 T先生組のみなさんでしたー。

(ちなみにT先生は、後列右端)

 

楽しそうだなあーーー。

感心してしまうのは、キャスティングが絶妙なこと。

おとうさん、おかあさんたちも衣装づくりに協力してくれて、劇は大成功のうちに幕を降ろしたのでした。

 

 

 2014年、4回の葛巻訪問もこれで最後となりました。

カメムシ調査や本の制作のために、あたたかく惜しみないご協力をいただいた

葛巻のみなさん、ほんとうにありがとうございました。

鈴木町長さん、中村前町長さん、小野前校長先生、佐々木前副校長先生、江刈小学校の教職員のみなさん、町役場のみなさん、町のみなさん、ホテル・グリーンテイジ、葛巻高原牧場プラトーのみなさん、生徒たちのご家族、お米屋さんのご主人、江刈中学校のみなさん、カメムシ調査に足を運んだ石川忠さん、長島聖大さん、大久保清樹さん、福音館書店編集部北森芳徳さん、そしてちいさなカメムシはかせたち―

わあ~こんなにたくさんの方々のご協力をいただいたんだ、と胸がいっぱいです。

心より、お礼申し上げます。

 

 

 わたしたちが次に葛巻に行くのは、来年4月。

雪が溶けて草が芽吹くころ、江刈の野原でまた会おう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『江刈の野原はみんなのパラダイス』だよ~葛巻二日目

2014-11-08 09:20:29 | 日記

10月の葛巻訪問、第二日目。

 この日の昼間はは石川忠、長島聖大のカメムシ博士班と、制作中の本の担当編集者Kさん、縁の下の力持ちOさん、私の海花班に分かれて行動。

 博士班はひたすらこの地域のカメムシ調査に励みます。

 網のなかの「世界の忠さん」

 

 

いっぽう、私のほうは、現在出版に向けて鋭意制作中の本のための取材。

この本のテーマは、「やっかいものが、宝ものになった」というものなので、

「宝もの」の対比としての「やっかいもの」の面にフォーカスして、日頃カメムシに悩まされている

農作物食害、室内侵入の話をきかせていただくことにしようというもの。

 お米屋さんを経営しているというご主人に、稲をはじめとする農作物へのカメムシ被害について話を伺った。この地で生まれ育ったご主人によると、ここまでカメムシが増えたのは、20年くらい前からではないかと思う、という。

葛巻のような山間の地域では、稲作はただでさえたいへんだ。やっとつくった稲にカメムシがつくと、斑点米になってしまう。その他、江刈小学校の学校菜園の枝豆やピーマンなど、野菜類も被害にあう。

 しかし。

話をきくと、どうも「この迷惑な宿敵を撲滅しなくちゃならん!」と薬を使うことはほとんどないらしい。

カメムシはやっかいな存在だけれど、「ここに居る」生き物として、折り合っている、という感じなのだ。

いかにカメムシに迷惑しているかの話をきけるか、と思っていた私の予想とは・・・ちょっと違う。

 

 次に訪ねたのは、江刈小学校の近くにある江刈中学校。ここは校舎の後ろに山を背負っているので、

小学校よりカメムシの侵入が多いときいていた。

この中学校も、現在の生徒数は39名。かつての三分の一ほどだという。

 

こんにちわぁ、と入っていくと、

わっ!こんな歓迎看板に迎えられてびっくり感激。

 さっそくいちばん被害が大きいという体育館を見せていただく。

この日もそろそろ侵入してきたカメムシの姿が見える。

この体育館はカメムシにとって越冬に魅力的な条件を備えているのだろう。

一年でいちばんひどいのは、11月だという。

その時期は学校の行事もあるので、そのたびに朝、総出で床に落ちてきているカメムシ掃除をする。

年によって多少の違いがあるが、一昨年はいちばんひどかった。

!!!

これが11月のある朝、集められた分。

燻蒸剤を使うことも考えたが、けっこう広い体育館に使うとなると費用がかかるので

毎日、床を掃いて集めている。

生徒たちはさぞや、迷惑なカメムシをやっつけたい、と思っているでしょうねえ、と思い先生に訊くと、

「みんな淡々とやっているんです。カメムシは「ここに居るもの」と思っているんじゃないでしょうか」とカメムシ対策担当の先生。

「ここに居るもの」―お米屋さんのお話と共通するものがあります・・・・・・・。

 

葛巻には大きな宿泊施設は2軒だけ。

どちらのホテルにも、宿泊者に向けてカメムシに関する注意書きがある。

私は葛巻でいちばんカメムシの被害に悩んでいるのは、こういった宿泊施設なのではないかと思う。

葛巻以外のほかの土地の人が絡むからだ。

なかには、「こんな臭い部屋に料金は払わん!」と激怒するお客さんもいるというからたいへんだ。

しかし、そのホテルでも、上の貼り紙にあるようなスタンス。

 

 こうして話をきいてきて、私は考えた。

予想していたのとは、なんかちがう。

葛巻の人たちは、どうやらカメムシを生活に支障をきたす撲滅すべき宿敵、とは思っていないようなのだ。

でも、「カメムシもこの地の生態系の一部として、私たちはカメムシと共生しているんです」

なぁんて、もっともらしいキレイゴトをいう人もいない。

みんながカメムシに被害を受けてガンガン苦情を言うのでは、という私の予想ははずれた。

農作物を食害したり、臭い思いをして毎日掃除をしなければならなかったり、営業に支障をきたしたり・・・

しかしそんなカメムシを「ここに居るもの」として受け止めている葛巻の人たちの考え方は、

「やっかいもの」対「宝もの」という単純な対比では語れないようなものだった。

そう、この町のモットーは「無いことを嘆かず、在るものを力に」。

こんな葛巻の人たちとカメムシについて、どんな風に語ったら読者に伝えることができるだろう、と

考えている。

 

 後ろを山に抱かれた中学校には、いかにも虫が多そう。

次の予定まであまり時間がないけど、虫さがそう!

あぁー、見つけたー

クルミの茎にリンゴドクガの幼虫。見たかったんだあ。

色白な顔。

でも『イモハン』で見たリンゴドクガの幼虫とはどっか違うような・・・・・

そうだ、尾端に立っている赤い毛束がない!

なにかの理由で取れちゃったんだろうか?

 

学校の裏にある今は使われていないような小屋。(誰も見ていないと思うけど、この中は・・・・・・きっと虫たちの一大避寒リゾートなのでは)いかにも虫が集まってきそう、

と思っていたら、やっぱり。

越冬のために集団をつくりつつあるカメノコテントウがぶんぶん飛び交っている。

 かなりの数だ。

 

生きている姿を初めてみたヨツモンカメムシ。

 

次に来たときは、ここでゆっくり虫探したいな。

 

移動の途中で、いつも閉まっていたジェラート屋さんが、きょうは空いてるよ!

今や全国で評判の高い葛巻牛乳を使ったジェラート。

食べずにおくものか。

念願のジェラートを食べられる喜びが、体中から溢れ出てしまっているOさん。

パンプキンなど、フレーバーに使っている野菜や果実はすべて地元産。

美味しくないわけがない。

 

 まだまだ長くなりそうなので、一旦ここで閉じて、つづきは次回にします。