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東京新聞社説 2019年6月6日
ひきこもりの人に関連する事件が続いている。自宅にこもる状態や家庭内暴力に目がいきがちだが、背後に社会からの孤立が指摘されている。苦悩への理解と支援の手を差し伸べねばなるまい。
ひきこもりの人が必ずしも事件を起こすわけではない。そこに至る要因もさまざまで一様ではない。そういった誤解が広がらないよう事件を慎重に見極めたい。
長男への殺人容疑で送検された元農林水産事務次官は、長男から激しい家庭内暴力を受けていたという。中学時代に不登校になりひきこもるようになったとも供述しているようだ。
家庭の状況に気づいていた近隣住民はおらず、行政にも容疑者夫婦から相談は寄せられていなかったようだ。
本人も家族も長年、不安を吐き出したり、悩みを相談できる場がなく、社会から孤立して追い詰められたことが考えられる。
川崎市の二十人殺傷事件の容疑者もひきこもりがちだったという。起こした事件は許されないが、孤立していた可能性はある。
政府はひきこもりを「半年以上にわたり自宅や部屋から出なかったり、趣味の用事や買い物で出かけるほかは外出しない人」と定義、四十~六十四歳の中高年は推計で六十一万人いる。そのきっかけは「退職したこと」(複数回答)が36・2%と多い。就職活動や、職場でのパワハラなど人間関係のつまずきなどが要因にもなっているようだ。
本人が不安に思うことは約半数が「家族に申し訳ない」(複数回答)と感じていた。働けない自分を責めている姿が浮かび上がる。
若年層も五十万人を超える。
どの年代からでも誰でもそうなる可能性がある社会問題といえる。それだけに社会から孤立しないような周囲の支援が大切だ。
政府は自治体に相談窓口を設置し、生活や就労支援も始めている。自ら相談に行きづらい人たちへは訪問による継続支援が必要だが、十分とはいえない。窓口や居場所を増やすべきだ。
当事者や家族でつくる支援団体が各地で支援を続けている。悩みを共有すれば不安も和らぐし具体的な対応策の知恵もある。もっと周囲の支援に頼っていい。行政も支援団体との連携を進めたい。
いったんひきこもりになると復帰しづらい社会の制度や風潮も当事者を追い詰めているのではないか。私たちの見る目、つまり社会が問われている問題である。