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2020年12月23日 | 社会・経済

雨宮処凛がゆく!第543回:

年末年始の支援情報!〜炊き出し、相談会、大人食堂などなど〜の巻

マガジン92020年12月23日

https://maga9.jp/201223-2/

12月19日、私は日比谷公園にいた。

 この日開催されたのは、「なんでも相談会」。4月から開催されている「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも電話相談会」と同時に開催された。5回目となる電話相談には全国から500件ほどの相談が寄せられ、日比谷公園の「なんでも相談会」には52人が相談に訪れた。食料支援の食料を受け取りにきた人は120人。当日は私も相談ブースを担当し、4人の相談に対応した。

 4人のうち、男性は3人、女性が1人。女性は40代、男性は60代が1人で40代が1人、30代が1人。全員がすでに住まいのない状態で、うち3人は公園や路上での寝泊まり。所持金は、もっとも多い人で4000円。もっとも少ない人でゼロ円。このような場合、住まいと生活費を確保できる公的制度は今のところ生活保護制度しかないのでその利用を提案するも、60代男性のみが利用を承諾し、後日、支援者と福祉事務所を訪れることに。しかし、他の2人は「しばらく考えさせてほしい」。もう1人は「とにかく自力で頑張る。生活保護だけは嫌だ」という答え。数日分の宿泊費、食費などを支給し、連絡を待っているという状態だ。

 コロナ禍以降、定期的にやっている炊き出し以外で初めてこのような野外での相談会が開催されたわけだが、私が対応した4人だけで、全員がすでに住まいも失い、所持金も尽きかけているという事実に改めて事態の深刻さを噛み締めた。なぜなら、この相談会は労働や生活、健康、学費問題などの相談を想定しているもので、住まいのない人に特化した相談会ではないからである。それなのに、担当した全員がホームレス状態。中には今年の5月頃から住まいがないという元イベント関係の仕事の人もいた。仕事が途切れる年末年始、事態はさらに深刻になる可能性がある。

 ということで、この年末年始には様々な取り組みが予定されている。

 まずは私も属する「新型コロナ災害緊急アクション」。つくろい東京ファンド、ビッグイシュー基金、反貧困ネットワーク、NPO法人POSSEと共催で年末の緊急相談会と「年越し大人食堂2021」を開催する。概要は以下だ。

「年越し大人食堂2021」(年末年始緊急相談会)

  • 12月31日(木)15〜18時

  東池袋中央公園にて相談会と食料配布。

  • 1月1日(金)12〜18時

  聖イグナチオ教会にて相談会と「大人食堂」

  • 1月3日(日)12〜18時

  聖イグナチオ教会にて相談会と「大人食堂」

 詳細については「新型コロナ災害緊急アクション」や「反貧困ネットワーク」のサイトで見てほしいが、この年末年始の取り組みについては、こちらでクラウドファンディングもやっている。寄付したいという人はぜひこちらへのご協力をお願いしたい。

 また、4月から5回にわたり「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも電話相談会」を開催してきたわけだが、この年末年始にも開催する。概要は以下。

「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも電話相談会」

12月31日(木)から1月3日(日)まで

午前10時〜午後7時

電話番号:0120-157-930(全国どこからかけても無料)

 この年末年始には、東京都のホテル提供もある。

 住まいのない人などに対して、年末年始、ホテルを1000室提供する、生活費の貸付も行うと東京都は発表しているのだ。現時点でわかっているのは12月21日(月)から約1ヶ月、1日あたり1000室が提供されるということ。こちらについて詳しいことはまだわからない。情報が入り次第、私のTwitter(@karin_amamiya)などでも伝えていく。

 ちなみに東京都の窓口の電話番号は0120-874-225、女性専用ダイヤルは0120-874-505(どちらもTOKYOチャレンジネット)。住まいがない人は無償でホテルに泊まれるので(最大2週間という話)、まずは電話してみてほしい。

 それ以外にも、都内では炊き出しなどがある。

 以下、現時点で発表され、私が把握している情報だ。

‣渋谷/2020-21 渋谷越年越冬闘争実行委員会(美竹公園)

12月28日(月)夕方~1月4日(月)早朝

12月29日(火)より連日15時集合で共同炊事、集団野営

※支援についても同サイトで募集している

  • 山谷越年闘争/山谷労働者福祉会館運営委員会(城北労働福祉センター前路上)

12月29日(火)昼〜1月4日(月)朝

※支援についても同サイトで募集している

  • 横浜寿町越冬闘争/寿越冬闘争実行委員会(寿公園)

12月30日(水)〜1月4日(月)

食事提供

 また、関西では以下の取り組みもある。

  • コロナSOS年末年始市民相談/コロナSOS市民相談at大阪市役所実行委員会(大阪市役所南西角)

 12月28日(月)、30日(水)、1月1日(金)、3日(日)、4日(月)12時~15時

 それにしても、こんなに厳しい年末を迎えるのは初めてだ。

 貧困問題に取り組んで14年。リーマンショック後の2008年の年越し派遣村、その翌年、オリンピックセンターが年末年始に開放された公設派遣村も経験してきた。15年から毎年、年末は都内や関東近郊の炊き出し現場を回ってきた。

 年々炊き出しに並ぶ人が若年化し、昨年末は「ロスジェネの多さ」に驚いた。「この国の底が抜けている」。そんな光景を見るたびに思った。しかし今年、突然猛威を振るったコロナ禍は、リーマンショックの比ではない打撃をこの国にもたらした。格差と貧困がじわじわと深刻化する中、それでもギリギリ生活していた人たちにとって、文字通り「トドメの一撃」となってしまった。

 ネットカフェで暮らしていた人、ダブルワークをすることでなんとかアパート生活を維持できていた人、自分は貧困とは無縁だと思っていた人、20年以上、寮付き派遣で全国各地の工場を転々としてきた人。そんな人たちからのSOSが、この春からひっきりなしに届き続けている。家賃を滞納してもうすぐ追い出されるというアパートの一室から、ネットカフェから、深夜のファストフードから、コンビニから、車上生活をしている車から、悲鳴のような「助けて」の声が上がっている。

 そんな人たちと出会うたび、「よく生きててくれた」と思う。気がつけば、春頃から支援者たちは「よく生きててくれた」が口癖のようになっている。本当に、よく生きていてくれた。よく死なないでいてくれた。それしか言葉が見つからないような、それほどに追い詰められた人たちと多く出会ってきた。何人もの涙と怒り、やるせなさに触れた。

 11月、新型コロナ災害緊急アクションの政府交渉に、ベトナム人僧侶のティック・タム・チーさんが同席してくれた。新型コロナウイルス感染が拡大してから、タム・チーさんのもとにはベトナム人実習生、留学生からの相談が殺到している。これまで、北海道から沖縄まで約1万9000人に70トンの米を送り、関東には4ヶ所の保護施設を作って600人以上を保護してきたという。生活苦や帰国できるかという心配から不安定になる若者も多く、中には自殺を図った人もいる。そんな若者たちのメンタルケアもしつつ、これまでに数百人の帰国を支援してきたそうだ。

 そんなタム・チーさんは、「ベトナムには、『破れてない葉っぱは破れた葉っぱを包むべき』という言葉があります」と口にした。自らが無事であれば、傷ついた誰かを助けるべきという意味だろう。翻って、少し前の日本にもそんな言葉はあったような気がしたけれどどうしても思い出せない。思い出そうとしても、「自己責任」「人に迷惑をかけるな」「全部お前が悪いんだ」という言葉にかき消されてしまう。

 だからこそ、今、私たちは「助け合い」を実践している。「自助」を強調する政治に対しての最大限のカウンターであり、弱者を見捨てる政治への、必死の抵抗でもあるのだと思う。「新型コロナ災害緊急アクション」では、4月から困窮者に対してもう5000万円以上の給付をしている。民間が数千万円の給付をしていることの異常さを、政治は自覚してほしい。そして、恥じてほしいと思う。

 とにかく、この年末年始、一人も困窮で死なせない。そんな覚悟で支援者たちは寒い中、奔走している。そして年末年始も休み返上で困窮者支援を続ける。私も現場に張り付く予定だ。だけど本当は、「一人も死なせない」という覚悟は、政治にこそ求められるものではないのだろうか。

 願わくば、来年の年末年始は、ボランティアで走り回った支援者たちがゆっくり休めるよう、「公助」が機能しますように。そんなことを願いつつ、年末年始に備えている。

*****  *****

2021年は、国から「誰一人、困窮では死なせない」というメッセージを

私の2020年は、コロナ禍の困窮者支援の現場で活動し、政府や東京都などに申し入れをし、そんな現場をレポートし続けることで終わった。

 (文:雨宮処凛 編集:榊原すずみ/ハフポスト日本版)

  2020年12月23日

 2021年の元日、私は「大人食堂」にいるはずだ。大人食堂とは、コロナで困窮した人などに食事を振る舞い、相談支援を行う場所。私も属する「新型コロナ災害緊急アクション」などの団体が集まり、大晦日には池袋で食料配布と相談会、元日と1月3日には「大人食堂」と相談会を開催するのである。

 「新型コロナ災害緊急アクション」は、新型コロナウイルス感染が拡大し始めた3月、貧困問題に取り組む30以上の団体によって立ち上げられた。緊急事態宣言の出された4月に相談フォームを開設すると「ネットカフェが閉まって行き場がない」「所持金が尽きた」「家賃滞納でアパートを追い出された」などのSOSが続々と届き、現在もそれが途切れることはない。

 私の2020年は、コロナ禍の困窮者支援の現場で活動し、政府や東京都などに申し入れをし、そんな現場をレポートし続けることで終わった。

人の命や生活を犠牲にし続けてきたシステムが限界を迎えた

いろんな人に会った。

 コロナで仕事を失い、何日も食べていなかった人。住まいを失い、路上に座り込んでいた高齢の男性。内定を取り消された若い男性や、非正規の仕事を切られてシェアハウスを放り出された若い女性。住宅ローンが払えないという自営業の親子。勤めている風俗店の寮を追い出されそうだという女性。

共通していたのは、コロナ禍は「きっかけ」に過ぎなかったということだ。

 新型ウイルスの流行は、この国の経済がとっくに崩壊していたということを、嫌というほど露呈させた。非正規雇用を増やし、彼ら彼女らを低賃金で不安定な立場に押し込み、何かあればその層を放り出す一一一。そうやって人の命や生活を犠牲にし、騙し騙しで続けてきたシステムが限界を迎えていることが、白日のもとに晒された。矛盾が一気に噴出した。

 冷静に考えれば、誰だってわかる話だ。働く人の4割が非正規雇用で、将来の見通しを立てづらい。社会的信用に乏しいが故にローンなどを組むのが難しく、賃貸物件の入居審査に落ちることもあるなど居住の不安定さにも晒されている。そんな非正規雇用で働く人の平均年収は179万円(国税庁・18年)。男性は236万円。女性非正規に限ると154万円。これでは何かあった時のための貯金も難しい。実際、金融広報中央委員会の19年の調査によると、貯蓄ゼロは単身世帯で38%。

「寮付き・日払い」の仕事を渡り歩き、とうとう路上生活へ

そんな人々が、コロナ禍で真っ先になんの補償もなく放り出された。

 出会った一人一人が、この「失われた30年」の、そしてこの国の雇用破壊の歴史の生き証人だった。

 例えば私が会った中には、20代から約20年、全国各地の「寮つき・日払い」の工場などを転々としてきた40代のロスジェネがいた。就職氷河期で正規雇用の道がなく、派遣の仕事に就いたが最後、そこから抜け出せない人というケースだ。

 仕事を失うたび、同時に派遣会社の寮も出されるので、次の仕事も「寮つき派遣」しか選択肢がない。その上、職探しの間にわずかな貯金が尽きてしまうと「寮付きの上、日払いOK」の職を探すようになる。日給の一部でも日払いにしてもらえればその日の食事をとることができるからだ。

 そんなふうに生活していると、次の仕事も「寮付き・日払い」しか選択肢がなくなる。安定した住まいを確保したくとも、初期費用など貯まらないから綱渡りのように「寮付き・日払い」の仕事を渡り歩くしかない。

 そんな生活を約20年続けてきた彼は、コロナによってとうとう路上生活となった。そうして「新型コロナ災害緊急アクション」にSOSをくれたことで、生活保護を申請。20年にわたる自転車操業のような生活からやっと脱出できると胸を撫で下ろした。

鍵のかからない個室で熟睡できない生活が10年以上

ネットカフェ生活を10年以上続けていたという人もいた。

 その生活を知らない人は、「好きでやってる」「気楽でいいよな」なんて言う。しかし、足や腰も伸ばせず、鍵のかからない個室で熟睡できないという生活が10年以上続くことを想像してほしい。私たちがタンスを開けるのと同じ動作をするごとに彼らにはロッカー代がかかり、風呂にも洗濯にもいちいち出費が発生する暮らし。

 そればかりか毎日、「今日の寝床、明日の仕事」に気を揉む日々。そんな人たちがコロナで仕事を失い、緊急事態宣言でネットカフェが休業になったと同時に寝床まで失った。「もうこんな生活は終わりにしたい」「精神が削られる」。疲れた様子でそう口にした人と多く出会った。そんなネットカフェ生活者は、都内だけで4000人。この層が放置されていたこと自体が異様なことなのだ。

 女性からのSOSも多く受けた。飲食店や宿泊、小売、風俗、キャバクラ、ヨガやジムのインストラクターなど職種は幅広かった。働く女性の半数以上が正規雇用で、男性を100として女性の賃金が74であるこの国で、女性が困窮するのは当然のことだった。

 しかもコロナ禍は、非正規女性が支えるサービス業にまず打撃を与えた。住まいを失う女性の中には、シェアハウスに住む人も少なくなかった。非正規だと賃貸物件の入居審査に落ちることがあることは前述したが、シェアハウスであればそれほど審査が厳しくない上、初期費用も低く抑えられる。が、一部シェアハウスは少しの家賃滞納であっという間に追い出される。

「何かあったらホームレスになる層」を放置すれば国が滅ぶ

 コロナ以前から、不安定層からのSOSはあった。「仕事を切られた」「怪我で入院。治療費がかかった上、その間、仕事ができずにアパートを追い出された」。それぞれ個別の事情から住まいも職も所持金も失った彼ら彼女らは、ネットで見つけた支援団体にメールしたり、炊き出しの現場に現れたりしていた。それが、コロナによって多くの人に一斉に、経済危機が訪れた。結果、立場の弱い人たちが、生きる土台を崩された。

 今、政治に望むのは、コロナ禍を機に、これまで破壊されてきた雇用の安定をはかってほしいということだ。「何かあったらホームレスになる層」をこれほど増やし、そしてこれ以上放置しておけば、それは確実にこの国を滅ぼしていく。

 政府は今年度から地方自治体の「AI婚活」を支援するらしいが、未婚率を下げ、少子化を食い止めたいのであれば、雇用の安定をはかることがAI婚活なんかよりもずーっと重要なことだと私は思う。しかし、国は一向にこの根幹部分に手をつけようとはしない。

 携帯がないことが、社会参加の壁に

一方で、公的支援のアップデートも必要だ。

 例えばコロナ禍で、民間の支援は大幅に進化した。例えばSOSをしてくる半分近くが携帯がすでに止まっているかもうすぐ止まるという状態。よって、本人がフリーWi-Fiのある場所にいる時にメールしてくるのだが、フリーWi-Fiがない場所では連絡がとれない。フリーWi-Fiが文字通り命綱になっていることから、コロナ禍の中、都内の炊き出しでは「フリーWi-Fiを飛ばす試み」やスマホの充電サービスが始まった。

 また、携帯がないことは社会参加の壁になる。例えば、仕事。通話できる携帯番号がないと難しいのは不動産契約も同じだ。一方、料金滞納で携帯が止まると他の携帯会社と情報が共有され、再契約が難しくなることもあるらしい。「携帯なんて贅沢だ」と言う人もいるかもしれないが、今、もしあなたが携帯を失ったら、日常生活のあらゆる場面に支障が出るはずだ。すでに携帯は社会的IDになっている。

 ということで、7月には、「つくろい東京ファンド」がNPO法人ピッコラーレ、合同会社合同屋と協働し、本人負担ゼロで通話可能な電話番号を付与した携帯電話を渡すという「つながる電話プロジェクト」を開始。最長2年間まで無料で使ってもらうシステムで、独自に通話アプリを開発したのだ。

 生活保護の窓口は、追い返されると死ぬ確率がもっとも高い場所

それだけではない。同つくろい東京ファンドでは、20年12月、「フミダン」というシステムも開発した。コロナ禍で生活保護申請をする人は4月には25%増。その後一時は落ち着いたが、9月に2ヶ月ぶりに増加に転じている。そのような状況で起こるのは、役所が申請する人を減らすため「若いから働ける」などと追い返すという「水際作戦」だ。

 しかし、生活保護の窓口は、そこで追い返されると死ぬ確率がもっとも高い場所である。そのような水際作戦をさせないために開発されたのが「フミダン」。申請を希望する人がオンライン上でフォーム入力をすることで申請書の作成ができ、それを最寄りの福祉事務所にFAXできる機能を備えたウェブサイトだ。この年末年始に試験運用が始まる。

 このように、民間の支援は日々アップデートしている。現場のニーズを拾い上げ、それを次々と形にしている。

もうすでに、自助も共助も限界に達している

 その一方、コロナで職を失う人が増え続け、自殺者が急増する中、新総理に就任した菅氏が繰り返したのが「自助」という言葉だった。

 しかし、「所持金ゼロ円でホームレス」という状態は、公的支援にも家族や友人にも助けを求めず自助を極めた結果であるし、12月、大阪で親子が餓死したと見られる状態で発見されたが、家族で「共助」をしようとすれば時に一家心中や共倒れ型の餓死に繋がってしまうことはこれまでも見てきた通りだ。もうすでに、自助も共助も限界に達している。

 これまで、「新型コロナ災害緊急アクション」では1000人以上のSOSに対応し、「5000万円以上の給付」を行なっている。原資は「緊急ささえあい基金」に寄せられた寄付金で、こちらには3月以降、一億万円近くが集まっている。

 多くの人の善意に支えられて活動できているわけだが、民間のボランティアには限界がある。というか、民間団体が数千万円の給付をしていること自体が異常なのだ。

 2021年はどうか「誰一人、困窮では死なせない」というメッセージが国から発されてほしい。ほんの少しでも、困り果てている人々に安心感を与えてほしい。そのための「各種公的制度の変更」がなされてほしい。それで救える命は、確実にある。

(文:雨宮処凛 編集:榊原すずみ/ハフポスト日本版)

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家賃滞納、ホームレス化すると施設に収容されてしまう日本 生活困窮者に居宅保護を徹底すべき

藤田孝典 | NPO法人ほっとプラス理事 聖学院大学心理福祉学部客員准教授

Yahooニュース(個人) 12/22(火)

新型コロナ禍で住宅を失う人たちからの相談増加

 新型コロナウイルス感染拡大の影響から失業、休業により、家賃滞納やホームレス状態に追いやられてしまう人たちが増えている。

 私たちのNPO法人ほっとプラスにも連日、男女・年齢問わず、多くの生活相談が寄せられている。

 これに対し、政府も住居確保給付金による最大12ヶ月間の家賃補助を政策変更して対応している。

 しかしながら、住居確保給付金はいくつも書類の提出を求められたり、制度がわかりにくいこともあり、申請まで行き着かない人が相変わらずいる。

 そのような場合、当然、家賃滞納が起こり、滞納期間が続けば、不動産業者によって、明け渡しの要請や勧告がおこなわれて、居所を失う事態が発生する。

 不動産業者も賃貸物件は商売の道具なので、賃料の支払いが滞れば、コロナ感染が広がっていようが、寒かろうが、転居先が決まっていなかろうが、関係なく明け渡しを求めてくる。

家賃滞納からネットカフェ生活へ

 そのような住宅を失った方たちが少ない荷物を持って、たどり着く先はいくつかある。

まずはネットカフェという場合が多い。

 所持金がある程度残っている場合には、毎日ネットカフェ利用料を支払えば、シャワーや個室を利用できて、睡眠もとることが可能だ。

なかにはネットカフェから人材派遣登録などをおこない、仕事を探したり、社宅や寮付きの仕事を求めていく人もいる。

しかし、当たり前だが、すべての人に仕事や住宅付きの仕事が用意されるわけでもない。

なかなか収入の目処が立たない人はネットカフェ利用料すら支払えなくなり、ホームレス化することになる。

「貧困ビジネス」と指摘され続ける無料低額宿泊所

 さすがにホームレス化すると大多数の方は耐えきれなくなり、居所や食事を求めて、役所の福祉事務所へ駆け込んでくることになる。

その際に生活保護を受けることと同時に、無料低額宿泊所を案内される事例が多い。

一部の自治体では、ホームレス化した相談者に無料低額宿泊所一覧の書類を手渡し、この中から好きな施設を自分で選んで入所してほしい、と伝えている。

行政が施設入所を強制するのではなく、相談者自身が自分で施設を選んで入所したという体裁をとる。

 このように、自治体によっては、ホームレスという理由だけで、無料低額宿泊所の入所を生活保護利用の条件にしている自治体もある。

無料低額宿泊所は一応、社会福祉法に規定される民間施設で、全国に570カ所ある。

 以前から、劣悪な住環境であり、利用料の割に粗末な食事しか与えられない、という訴えが多い施設もある。

利用者から生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」という批判が繰り返される理由だ。

埼玉県内の無料低額宿泊所の一室(猪股正弁護士撮影 2018年)

 いまも私たちのもとに「劣悪な環境なので転居先を探す手伝いをしてほしい」と訴える利用者やその家族からSOSが出されることもある。

 上記の写真は、ホームレス化した要介護状態の男性が寝起きしていた無料低額宿泊所の一室である。

便失禁などがあるにもかかわらず、施設では適切な介助やケアを提供していなかったことが如実に理解できる写真だ。

繰り返すが、これは社会福祉法に位置付いて、届出がされている正式な施設の姿だ。

生活困窮した場合に入所したいと思う人がいるだろうか。

自治体もこのような実態を把握しながら、施設利用を推奨する。

その理由は生活保護受給者の生活支援を施設に丸投げできて、実態把握を民間に委ねることができるためだ。

また、アパート等の入居には賃貸借契約が伴う。

住所がなく身寄りもない相談者は、アパートを探すことに苦慮する。

行政にとってみれば、施設に入ってもらえば、とりあえず当面の生活は任せられるし、使い勝手が良いのである。

行政が有する保護責任の民間への転嫁と言ってもいいだろう。

そこで、新型コロナ感染対策も不十分な無料低額宿泊所への依存は強まる。

以下のように、無料低額宿泊所は複数人部屋が多く、新型コロナ感染対策も不十分だと言わざるを得ない。

無料低額宿泊所(東京都内)利用状況調査結果(東京都 2020)

【定員数】

個室(単身世帯):1574室

複数人居室:2041室

【入居者数】

個室(単身世帯):1446人

複数人居室:1831人

上記の写真でもわかるように、隣人の居室との間には簡易な衝立(ついたて)があるだけであり、居室上部は繋がっている。

寝息や話し声、テレビの音など丸聞こえなだけでなく、感染対策も不十分だとわかるだろう。

入所者同士の隣人トラブルは絶えず、いくつかの施設では殺傷事件が何度も起きている。

この住環境であれば当然である。

居宅保護の原則を徹底するべき

確認しておきたいことがある。

生活保護制度では、アパート等の居宅での保護が原則だということだ。

これは「居宅保護の原則」という。

これから住宅を失う人たちが大勢出てくることが予想されている。

 厚生労働省、福祉事務所は無料低額宿泊所の利用を推奨するだけでなく、居宅保護に向けた支援を拡充するべきだろう。

早くから埼玉県内では「居宅保護の原則」に基づいて、住居を失った方たちにも不動産業者の協力のもと、即日でアパート入居ができるように、支援体制を築いてきた。

無料低額宿泊所に依存しない「ハウジング・ファースト」という実践である。

福祉事務所へ相談に来た人に対して、無料低額宿泊所一覧表を提供できるように、民間アパートの空き物件一覧を提供することも本来は可能である。

空き物件の情報を不動産業者にあらかじめ告知いただき、その物件と相談者をマッチングしながら、福祉事務所が調整をおこなっていく支援モデルである。

 昨日も私たちのもとにネットカフェから出てこられた方を地域の不動産業者と一緒に保護し、その日のうちにアパート入居してもらった。

寒いなか、また新型コロナ感染が広がるなか、居所を失ったご本人はどれほど不安だったことだろう。

簡易的な食事を提供した際に出た彼の「心から安心しました」という言葉は、これまでの過酷さや不安を端的に表していたように思う。

民間の支援団体にはいくつも無料低額宿泊所に依存しない支援方法のノウハウがある。

「居宅保護を原則」として、生活保護が行政主導で、適正に運用されることを進めていくときではないだろうか。