里の家ファーム

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トイレ愛

2015年12月17日 | 社会・経済

トイレで変える未来=中村秀明

毎日新聞2015年12月9日 東京朝刊

投書欄「みんなの広場」が面白い。気づかされ、考えさせられることが多い。先日も東京都練馬区の高校生、安丸音織さんに教わった。

 世界の23億人が衛生的なトイレを使えず、そのせいで女性がレイプの被害にあうとか、学校にトイレがないことが子どもが通学しない原因にもなっているのだ−−と。

 私たちのトイレ事情は国際的には「奇跡」に近い。

 日本の航空会社は最近、国際線に温水洗浄機能付きを導入したが、飛行機を降りると状況は一変する。先進国でも街中でトイレを見つけるのは難しいし、やっと見つかっても便座がなくて途方に暮れることが珍しくない。

 途上国に行けば概念が覆される。安丸さんが書いたように「土に穴を掘ったものが村に一つ」とか、ビニール袋に入れて口を縛って、そこら辺に投げ捨てるだけといった状況にある。

 そんな途上国へトイレで支援しているのが、総合住生活企業のLIXIL(リクシル)だ。

 貴重な水をむだにしないため、1回1リットルで済ます「超節水トイレ」をケニアの都市部に普及させ、都市周辺で、し尿を肥料に変えて再利用する循環型の無水トイレ「グリーントイレ」を導入するなどの取り組みを進めている。

 ケニアには、小学生のころ「トイレ愛」に目覚めたという山上遊さんが駐在する。「快適なトイレをつくりたい」と12年前に旧INAX(イナックス)に入社、世界の事情を知って「私のほかに誰がやる」と今の部署に異動を希望したそうだ。

 9月、現地の団体とともにスラム地区の学校にグリーントイレをつくり、とりわけ女子生徒に喜ばれた。人気の秘密は山上さんらの考えで設けた鏡だ。「教室に戻ってくれないほどです」と支援事業を統括する小竹茜室長が写真を見せてくれた。鏡の前の女子生徒が、照れながら満面の笑みを浮かべている。

 トイレが汚くて恐ろしい場でなく、笑い声が響く楽しい場になれば、その国の未来は変わる。日本では考えもつかない「ちゃんとしたトイレがないから学校に通い続けられない」という妨げが取り除かれることで教育の機会が広がり、新たな可能性が生まれるからだ。

 話題にするのをはばかるものなのにトイレには世の中を左右する力がある。その重みを知る人たちは「時間を忘れてトイレ問題を議論するほど、熱い思いの持ち主ばかり」(小竹さん)という。水や食べ物の確保も大切だ。だがその先は? トイレについてもっと考えたい。(論説委員)