ぽれぽれ百綴り

犬好きおばさんのんびり雑記。

ふんりゅう-前編-

2016-06-03 10:29:39 | 日々の暮らし
カウンターしかないカフェに入ったときに、
私の右隣に座った友人S嬢が、
私の顔の一点を凝視して鋭く言い放ちました。

「コレなに!?」

え?

「コレ、もしかしてふんりゅうじゃないの!?」

ふ、ふんりゅう?

ふんりゅうってナニ!?

聞いたことのない単語なんだけど?

粉瘤(ふんりゅう、アテローマ)とは老廃物が皮膚内部に溜まってできる良性腫瘍の一種だそうです。

シロさんのことがあったので
腫瘍という言葉に過剰に反応してしまうけど、
悪性化することはほぼなさそう。

それが私の右頬にあるらしい。

女も五十路の足音が聞こえてくると、
お金は貯まらなくても、
老廃物は溜まるようです。

生きていると辛いことがいっぱいです。

あいほんを鏡代わりに使っても自分では見えないので、
横顔を撮ってもらいました。


(いろいろ汚くてスイマセン)

この黒い点がそう。

ニキビとは明らかに違うし、凹凸もそれほど感じられない。

触ると少しかたいような。

たいしたことなさそうなんだけど、
検索するとかなりグロテスクな画像がたくさん出てきて、
治療するには手術しかないみたい。

こんなにショボいのに、なんだかおおごとです。

「その小さな黒い点は氷山の一角
その下にすでに真珠のような大きなツブが埋まってるんだよ!」

恐ろしいことをS嬢が叫びます。

お金が貯まらないのなら、

いっそのこと溜まった老廃物くらい真珠となってくれないものでしょうか。

顔面で真珠を養殖するというのもかなりグロテスクですが。

久しぶりの登場なので紹介しますと、
S嬢とは私のシンガポール滞在時代のクラスメイトです。
私はかの国に夫とともに2012年3月末に帰国するまで1年暮らしましたが、
ビザ欲しさから
学生となってシンガポール大学の英語集中講座に通いました。

そのとき初対面で
「この子とだけは絶対仲良くなれない」と私が直感したのがS嬢で、
人生とは不思議なもの、
今もいちばんの仲良しが彼女です。
だって当時の彼女は(今もですが)、
何不自由なく育ったような美人さんで。
自信に輝き、肌も輝き(シンガポールでこれは奇跡)、
私に娘がいたらこのくらいってくらいに年下で、
住む世界も性格も未来も、
とにかくすべてが完全に違ってるって感じだったんですよ。

私の想像する真珠大は山椒の実ほどですが、
お金持ちのお嬢さんがいう真珠大は梅の実くらいあるかもしれません。

ぶるぶるぶる。

ゾッとします。


でも今はシャーペンで突いたような黒い点がひとつあるだけ。

よく気づいたな。

美肌の美人は美意識が高すぎるな。

私の肌が見入ってしまうほど汚いってことか?

「すぐにでも取ってしまわないと大変だよ!」

「今から行こうよ!今日、取ってしまおう!」

S嬢は大あわてで、一大事な様子です。

その騒ぎようとグロテスクな画像を見過ぎだせいで、
さすがに私も怖くなってきました。
実際、放っておくと成長したり、化膿したりで深刻なことになりかねない。
ごく稀にだけど皮膚がんになることもあるとか、ないとか。

さっそくその日の帰りに近所の皮膚科に飛び込みました。

「粉瘤ですね」

ドクターは言いました。


「これは氷山の一角で、
この下には真珠くらいの大きさのツブがあるんですよね!?」

完全にS嬢の受け売りでドクターに詰め寄る私。

「うーん。

そんなに大きくないですよ。

そうですね…米粒大からその半分くらいでしょうか」

なんだ。

ほっとしました。


それなら手術もカンタンそうだし、痕も残らなそう。


「でもうち、手術してないんですよね」

え?

「紹介状を書きますから」

ならオッケー。
病院はいくつかの候補から私が選べるみたい。

「そこを予約して、

まずは診察を受けて、

手術日を決めてもらって、

血液検査して、

当日は、
麻酔して、
切って、
縫って…
まあ縫うかどうかは実際の大きさ次第ですが…」

そんなに大袈裟なの?

「ニキビ痕程度まで治るのに
半年くらいですかね」

そんなに長い道のりですか!?

「じゃあせめて、
すぐに手術をしてくださりそうな病院を紹介してください!」

ドクターに迫りました。


「どんどん大きくなって目立ってくるって友だちも言ってたし、
明日にでも手術してほしいです!!」

鬼気迫る形相で訴えました。

「今日明日でそんなに急に大きくはなりませんよ」

私の気迫に驚いた様子でドクターはおっしゃいます。

「それはそうでしょうけれど、
でも大きくならないうちに、
ちょっとでも痕が残らないように、
ちょっとでも早く取ってしまいたいです」

「あのね…」

私の無知にあきれた様子でドクターはおっしゃいます。

「あのね、その大きさになるまでにね…」

「2、3年かかってるんですよ」

衝撃!!

「あなた、ずっと気づかなかったんでしょう?
あと1年くらいはそのサイズのままですよ」

知らなかった。

ぼうぜんとしている私をそのままに、
ドクターは紹介状を書き始められました。


私は3年もの間、人知れず、われ知らず、
粉瘤ってやつを手塩にかけて育てていたもよう。

そんなに長いおつきあいだったのに、
今までまったくその存在に気づいてませんでした。

ごめんよ、私の粉瘤。

まるで私の存在感さながらに、
存在感のない私の粉瘤。

でも、粉瘤って漢字に馴染めないし、
3年も育ててきたんなら、
その存在を感じるためにも、(必要か?)
いっそ私の粉瘤には私なりの漢字を考えてみたい。

奮龍

どうでしょう?

強そうじゃん。(強いと困るような気も…)

よし、これでいこう。


(いろいろ汚くてほんとスイマセン)

力士みたい。



(こちらは横綱の鶴竜、30歳)



(こちらが私の奮龍、3歳)

名前をつけると愛着もわくものだけど、
悪いけど奮龍とは早々にお別れしたい。

つづきます。



(発見現場となった雪ノ下工房さんでいただいた、かき氷とパンケーキ。
再訪はないでしょう。)



シロさん、シロさんの名づけはなりゆきだったよねえ。

ご覧いただきありがとうございました。

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