詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

あなたの十割

2015年04月26日 | 
「人間のからだの七割は水でできている
くらい当たり前のもの」※
本の中で目にしたとき
急にあたりが透明になって
たくさんの気泡が昇っていった
あなたの七割も水なのね
不思議な気持ち
きゅぅと胸が締めつけられる気持ち

「人間の七割は水である」なんて
ずっと前から知っていたのにいまさらなぜ
急に浮き上がって見えるのだろう
「当たり前」という言葉が怖い

あなたの春を憂鬱にする花粉も
少しずつ蓄積していく化学物質も
そのとき器に入っている水に
いっときとどめられているだけなの

あなたの通ってきた風景のトンネルも
その道を行ったり来たりする私の姿も
ふとした拍子に流れてしまって
もう元に戻れなくなるの

あなたも私も
あなたと私のまわりの人びとも
温められた地表から立ち昇る
蒸気のようなもので
いっときゆらゆらと揺らめいている
奇跡的に同じ時間に
ひとつの器に収まって
揺れながら互いのゆらゆらを見ている
手を差し出しても
かすめてゆるゆるとほどけていくの

でも目を開けて
手を伸ばしてつかもうとすれば
あなたはしっかりとして
確かな感触を返してくれる十割
あなたは誰の記憶によって
七割を保つ三割の
その形を留めているのだろう

「当たり前」
という強い言葉が生み出した
立体の効果は一瞬で
「人間の七割は水である」ことはすぐに
紙に印刷された平板な文字にすぎなくなった
流れていってしまうのはなにより
「当たり前」に隠れている奥行きを
なぞるように感じる
形なき心のほうなんだ

それでも
音楽のように
記憶によってしか留めておけない
流れていってしまうあなたを
更新し続け
時の間から盗みたいと願っている


※森本千絵著『アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話』(サンマーク出版)より
Mr.Childrenの桜井和寿さんがアルバム『HOME』を表現したという言葉
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2015年04月20日 | 
ポリフォニーは
互いの音をよく聴き合って
かえってつつましやかだ
光のあたる舞台の上で
ピアニストは指と虚空に意識を集め
焦点から流れを立ち昇らせる
聴衆は息をひそめて
耳から伸びた棒のずっと先で
落としてきた小石を辿るように
顔を傾ける

集中のため人はいなくなり
会場は、風がなめらかにうねらせる草原

コホン
遠く誰かが乾いた咳をする
壁を擦る翳りのような男の人の頬
その遠慮がちな音はまるで
この世に産み落とされた悲哀

止められない流れの中で
わたしの望みも哀しみもあるけれど
美しい風景を前に
大きさの前に
邪魔すまいとして
そっと岩陰に隠れるような身振り
そのとき
彼はたてがみをなびかせる
一頭の野生馬のようで
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プレスト

2015年04月16日 | 
街が昏くなっているので
青が余計に光って見える
西の方で黒い雲がもくもくと育っている
押し寄せてくる

こんなときは無数に扉が開いている
本のページも開いたままになっている
女性の髪はふくらんでいる
嵐を孕んでいる

飛び立つつもりだったコップを
丸ごと体の中に取り込んで
あふれるものはすべてそこからと
わかってしまったが
なにか
この対比と空に
その下の不吉に沈む街に
わくわくしてしまう
懲りずに何度でも

窓から見えるサタンとミカエルの闘いのような景色に
まだ平和な空の街を運んでいるこちら側の窓が浮んでいて
ながれながれながれていって
足早に通り過ぎる家々の窓の
不安げな表情を見てしまう
背後のスペクタクルから切り離されて
あっち向いたりこっち向いたり
好き勝手な空間をコラージュしている
顔の連符を見てしまう
私も顔の間をすり抜けて
好き勝手な空間を生きている

高架はぐっとカーブして駅のホームに入る
おかえりと言いながら
銀色が次々に灯っていく
急き立てられて跳び上がり
飛び出すと
地上に降り立った者は正体を隠しながら
大気の中の暗号を解読する
指が拍子を取っている
何の匂いか思い出せない
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気付かないこと

2015年04月12日 | 雑記
もちろん、気が付かないことはたくさんあるのです。

コーヒーの飲み過ぎで夜眠れないこととか
暇を持て余し過ぎてものすごく疲れていたこととか。
コーヒーの飲みすぎだよ
人間は忙しいほうがいいんだよ
アドバイスしてくれる人がいたのに
本当にそうなんだと気付くのに何年もかかってしまいました。
気が付いてみればなんて大きな損失!
昼間はずっと眠かったし
一番軽やかなはずの青春時代は
一トンくらい荷物を背負っているかのようにいつも重たかった。

そして、最近は夫に言われたこと。
私はどうも「逃げてる」らしいのです。
「逃げてる」なんて、自分ではまったく思ったこともなかった!
でも確かに、なんだかうまくいかないな、なんでこうなっちゃうんだろう
と思ってきたことが、それは「逃げてる」からだ
と考えるとつじつまが合うというか、よくわかる気がするのです。
わぁ自分じゃ絶対気付かなかったよ!

気付くって大事だ!

でも気付いていないかもしれないことを心配し過ぎるのも
もしかしたら気付かないことよりも悪いことかも、というのは
先日、友達に会って言われたことで感じました。
今見えていないことを気にし過ぎて、予想しすぎて進まないので、
体験として学べないのです。
だから本当の気付きが得られない。
予測し過ぎるのを少しやめてみよう。

ところで今日は先輩の家に行きたくて、
緊急で自転車を買おうと思い、
街をあちこちウロウロしていました。
歩きながら、
多少成長したつもりになっていたけど、ちっとも。
人からの肯定の言葉を頼りに生きているよな……。
こんなんでは、とても自分の足でしっかり立っているとは言えないな。
などと考えていました。
どれだけ暇人かと呆れられてしまいそうですが……。
晴れているような曇っているような
暑いような寒いような天気。
風が吹くと桜の花びらがたくさん舞いました。
何軒かまわりましたが、
買おうと思ってすぐに買えるものじゃないですね、自転車って。

結局、バスに乗ることにしました。
街の景色が流れていくのをぼんやり
座って見ていられるバスはとても好きです。
降りたバス停から先輩の家までは約20分。
初めての街を歩くと別の世界に来たような夢見心地になります。
ハナミズキが今日はとても心にしっくりします。
花や葉の雰囲気、木の佇まい。
先輩の家にいたのはほんの30分ほどでしょうか。
レースのカーテンが風で揺れています。
一緒にテレビをしばしぼんやり眺める……。
先輩は仕事が趣味というくらい好きなのに、
いまは病気のため、仕事をお休みして半年以上経ちます。
「つらいですね」と言うと
「しょうがないよ」とあっさり。
たくさんの葛藤や苦しみを経てのその境地なのでしょうけれど、
なんだろう、このこだわりのなさ。
これまでもきっとこうやって生きてきたのだろうな、先輩は。
いろいろ焦ったり、悩んだり、
たぶんいろんなことを望み過ぎて空回りしている私も
帰り道は街の様子が違って見えました。
とても素朴ですとんとしている。
問題はいろいろあるかもしれないけど、
しょうがないよ、なるようになるだけだよ。
あるがまま、あれこれ思わずに、ただ受け入れる。
受け入れる心さえあれば、私もけっこう生きていける気がしました。
自分の中の言葉によって。
こんな心地、これまで知らなかった。
こんな心地もあるのだな。

家の近所まで先輩に車で送ってもらって
まだ空も明るい5時。
なんだかぽっかり違う時空にいたみたい。
今日は時間が不思議な流れ方をしています。

たくさんの気付きのヒントがいろんなところにあって
それを大事に積み重ねていきたいですが、
そのためには、恐れずに何かを信じてみてまずは進もう、と
まるでいまさら思春期のように思うのでした。
中二病とか、言わないで(言ってもいいけど)。


ちょうど一年ほど前に高松で撮った写真(高松を去る一週間前)


夫はすでに東京に行って仕事をしていて


私はひとりで自転車で30分ほどかけて龍満池へ


高松にいた頃のきらきらした気持ちを忘れそうになっている


と気が付くこの頃




忘れないようにしたい(高松の家の近所のため池)


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思い出

2015年04月10日 | 
思い出は未来にあって
街灯のように点在し
行く道を照らす。
反芻によって強化されるが
思わぬところで
ばったり出くわすこともある。
目を凝らすほどに滲んでいき
揺蕩うことで浸っている。
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