詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

思い出

2019年11月18日 | 
携帯電話を呼吸器につないだら
わたしのスイッチを切る
場所も指紋も薄れゆく代わりに
ワルツのように駆け下りてくる
月明かり

もしもし
元気だった?
ふくよかな笑い声
甘えさせる声
いつかこんな日が来るんだと思っていた日は
こんな日を信じていなかったね

電話でなければ届かない距離
言いたいことがあるわけではないけれど
思い出したことをぽつぽつ伝える

電話ならすぐにつながると思ってた
いまは無線の時代だから
グーテンベルクのおかげで
活版印刷のおかげで?
そうわたしはいつも誰かの言葉を真似て
秋のように鮮やかな落ち葉を踏んだ

知り直すときの衝撃を紙に書き
少ない力で動かしていこうとする

電話という距離は近く
姿を見ている時の
わたしは憂いを思い出した
空は鳩の翼になって
首を傾け
オレンジの光線を
射る

ねえあなたって
しあわせね


ひたひた満ちてくる眠りの中で
毎晩、ひとつの町が作られて
毎朝、光のブルドーザーが破壊する

いつからかカラーは鈍く抑えられ
けれど
見ていることは確かなのだ
聞いているのは声なのか

よみがえりもあり
回復の可能性を探し
家族会議も開かれている
ひるがえりの銀髪の三つ編み

雑草のサラダの中に
散らしてあったシロツメクサが
かすかに匂い
ほの甘い
コメント
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