階段を上りきった時
ただ四角く刳り抜いただけのような
開け放ってあった窓から
水の線とコンクリートの線
それは同時に空の線
三つを組み合わせた図形が目に入り
海がそこにあることを
波の音が小さく胸の中で砕けるように感じて
不意に思い出が生まれていたと知った
真摯な思いなど持ち合わせていないけど
感動などという言葉で呼ぶこともなく見ていた景色が
感覚の波を絶え間なく繰り寄せて
引いていったあとに現れる絵は
大抵時代遅れだから
もうどこだったかも思い出せないのだけど
わたしは思い出によっていまの景色を見ている
だから歳をとるほどに鏡の中のように
景色は深くなっていく
だから自分のつまらなさやくだらなさを超えて
自分のことを大切にしてしまう