詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

新しいスーパー

2015年07月30日 | 
スーパーで活ホタテ
横縞にのびる雲の下を川に沿い
縦にのんびり歩いてきたのに
ずいぶん勢いがあるじゃないか

電車が四方八方からやってくる
鉄橋の下をくぐり
深海みたいな名前のラブホテルを斜めに見て
シロツメクサの繁栄と衰退の攻防を
金網越しに観察してみたり
この場合、繁栄が防御で衰退が攻撃になるのかな

橋を渡って新鮮なスーパー
ピカピカと明るくて
生活でいっぱいの
だけど夕暮れが
どことなく流れてくる
なんとなく木立の中の
芸術家の気分になり
野菜の間をさまよってみたり

モチーフを見つける
活ホタテ一枚百五十円
質感がすばらしい
海の生活を思い出させる
岩のようなざらざらした殻
表面に化石のようにくねくね
へばりついた白いヒモの模様
開きかけた口の中がトロリととろける

帰りも川べりを歩いた
誰かが大きな絵筆を動かし続けている
両手をさげ
のどを広げ
家を通りすぎ
ずっと遠くまで行ってしまった
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水が流れる

2015年07月25日 | 
電気も消さずうつ伏せになって
枕を抱えるようにして耳を押し付けていると
階下の家で水を流す音が聞こえる
音は深いところで踊るこびと
くっついたり離れたりを繰り返す
滑稽な遊び
まぶたは幸福にあわさる

すくってみたり
揺れる模様
なめらかな反射
仲間から離れ
いまはひとり
温かくくるまれ
静かに内側から弾けている

湯をかきまぜながら
肩はひんやりした空気になでられて
山あいを流れる霧のような不安
うちとけながら保たれている
自分への違和が張っている膜
仲間へのわずかな隔て
アンバランスを胸に抱えて裸になると
また一枚、山々が神秘の衣をまとう

霧が晴れれば小さな花
宙を歩いて行けそうな
遥かな景色があらわれるように
肌と水の揺らぎを混同するほど
おののきも風景を美しくするばかり
耳に楽しんでいた泡たちの軽い響き

ふいに入り込む
絶え間なく堆積していく過去の間
そのとき感じていたあいまいな何かの
すべての層を開き
地下の実験室で
何本もの試験管に入れて
よく調べてみよう
そう思って安心し
電気を消して眠った
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雨上がりに

2015年07月18日 | 
病を得たひとは
自分に割り当てられた小さな空間を
顔から消してしまった希望のかわりに
虚無で満たしてしまったが
十階の病室の窓から
ふいに自分を超越した者のように
眼下の街を眺めることができる

この日
日暮れのあたり
少しずつ薄墨を流して
ゆっくり掻き混ぜるように雲が動いて
誰かが押していく点滴の車の音に
紛れてしまいそうな遠雷を
ようやく聞き分けるとまもなく
固まった空気が動かし難い
クリーンなクリーム色に整えられた
こちら側から遠く隔てられた向こう側の世界を
雨風が黒く乱暴に塗りつぶしていて
建ち並ぶビルの間のまっすぐな道を
小さな人が傘をようやく持ちながら
歩いていくのが見える
その激しさが自分の上に降ることはもうないと
喉を掻き回すこともなくなった

けれど固まった空気さえぶるぶる震わせる
隠されていた怒りのエネルギーが
次々に破裂し始めると
キーボードを叩く指のように
稲光が街の上を這いまわり


彼の中に
どのような文字を打ち出していったのか
それともなんの文字も打ち出すことができなかったのか

すべてから切り離されてしまった彼が
渦中であってほしいと
なんらかの文字を打ち出してほしいと
勝手に願っているのは私で
むなしさも切なさも悲しさも
未来に向かっていることに初めて思い当たる

実際はカーテンすら開けず
もちろん稲光を見ることもなく
煮こごりの中に凝固したまなこだけだった
私だって明日をも知れぬ身だ
などと
言ってみたところで
未来を信じている眼の光は
きっと隠せない

ただ水たまりに映っているものを
揺らさないようにと思って
ううん、そうじゃなかった
ひとつ
ふたつ
固まってしまった景色を揺らす
波紋をおくりたくなって
そっと近付く
他愛のないことを
話しかけてみる
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いまさらイエモン

2015年07月12日 | 雑記
 この土日は久しぶりに晴れて、からっと乾いた洗濯物を取り込む時の匂いが、ああいい気持ちっと言っていてしあわせを感じました。小さなしあわせ感て大事です。
 と、言いながら、話は反対側に行くよう?なのですが、なぜかいまさらイエモン、という話です。ボーカルの吉井和哉さんは、先日、眞鍋かをりさんの妊娠と結婚という報道があったので、しあわせつながりにならなくもないかもしれませんが。

 夫によると、イエモンは高校生の頃には大ブーム中で、カラオケに行くとみんな歌いまくっていたそうなのですが、私はまったく知らずにここまで!過してきました。どこかで小耳に挟んでいたのかもしれないのですが、意識にのぼってくることもなく(という言葉の使い方が正しいのかどうか不安ですがあとで調べます……)。

 それが、確か高松にいた頃、2、3年前でしょうか、夫は歌が好きで、良さそうな歌番組があると録画したりするのですが、録画しておいたある番組を一緒に見ていたときに、吉井和哉さんが『点描のしくみ』という歌を歌っていて、面白い曲だなぁと思って、何度も繰り返して見ていました。歌詞が面白いし、曲も声も雰囲気があっていいなぁと言っていると、夫に「イエローモンキーというバンドのボーカルだった人だよ、『球根』て名曲知らない?」と言われ、ふーん、と返し、それから『球根』を聴いたのかどうだったのか、そうかなぁ名曲かなぁ渋いなぁ、みたいに思ってそのまま忘れてしまいました。

 そして数カ月前。ショッピングモールの中の靴屋さんでスニーカーを探していたとき、ある音楽が流れて、聞いたことのある音楽ではあったのですが、ちょっと衝撃、というか完全にしびれてしまいました。詩の内容、曲の展開、なんだっけこの曲?!私が普段書こうと試みている詩よりもずっと破壊力?がある!!あ、詩って一体なんなんだろう?!
 聞えてきた歌詞を頼りにネットで検索(便利な世の中だ)。そこで出てきたのがイエローモンキー『SPARK』でした。でもそこからまたしばし経過。車で出掛けたときに、夫が持っていたイエローモンキーのアルバムを聴いて、すっかりはまってしまいました。
『球根』?天才だね!

 うまく説明できないので、横着して、ある日の日記。
 「今日は雨で、今はほとんど降っていないようだけれど外は灰白色の世界。秋の虫のような涼やかな声が聞える。私の矢印はとても短くて、同時に幾つも発生することも多いのだけれど、どれも長い時間をかけて削り磨いてきたものではなく、すぐに失速する。そして真ん中に開いた穴の真空状態、無風の、すべてが静止しているかのような時間が訪れる。人に向かっていく気持ちもない。急ぎ手に入れたものも宙に浮いて。私はこうなる。いつもこうなる。
 だからふと『球根』という曲を聞いたりすると、あ、いいなぁと思う。とても外から。こういう激しさ、今の私にない心地にしばし浸ってみる。」

 わかります?!
と、言われても困ると思いますが、私はどういう人間か、と言えば(訊かれてないけど答えます)、とっても抑制が利いてしまう人間なのです。若い頃には激しい気持ちもあったのですが、ずっと守られて育ってきたせいか、そして生来の臆病から、すごく守ってしまうのです。あらかじめ考えてしまう。変にかしこぶって(勝手に造語……自分の中で利口ぶって振る舞うということ)、知らないくせに、経験もしないで、こうなったらこうなるだろう、だからやめとこう、と思ってしまう。あらかじめ考える割に、考えることがとんちんかんで、結局は行き当たりばったりになってしまうものの。

 そしてそんな人間の激しい気持ちはどこへ向かうかというと、自分に向かってしまうのです。どんどん閉じていってしまう。そして素晴らしい空とかきらきらした景色とかにどうしようもなく感情移入してしまう。そんな青春時代でした。どうしようもなく、無力な人間です……。書いていてちょっと悲しくなってきました。

 青春時代は過ぎたけど、いまもそうは成長していなくて、「こんな人間が詩を書くなんて。黙って生きろ!」とときどき思う。と、書いている。ばかですね……。それとも、もしかしたら思い切り生きられない分、何か書きたくなるのかな。
 
 そんなわけで、とても地味に生きている私、いまさらながらイエモンを楽しく聞いています。
(なぜイエモンが小さなしあわせの逆を行くかというと、この激しさが「生きている!」という感じだから。「小さなしあわせ⇔生きている!」についてはいつか書くつもりです。たぶん。)


空のスペクタクルには安心して気持ちを注ぎ込める


昔ほどではないものの


高松にいたとき、夕食の準備をしていたら窓がすごい色に染まっていた




夫はカメラを持って、私は携帯を持って外に出てみた




水があると空は二枚分
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湯気

2015年07月07日 | 
いつも仕事の前にコーヒーを飲む
ベンチに埋もれるほど座っている
右上から白んだ光が落ちてくる
窓がある
知ってる
見上げる
雲が開いていく
青い舞台に白い月が待っている
小さく切り取られると
動きはダイナミックになる
ただそこに佇んでいることさえ
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