キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

百合-『掌の小説』より

2011-07-13 10:05:11 | 季節の花々
         

掌の小説 (新潮文庫)
川端 康成
新潮社


         「百合子はだれかが好きになると、その人と身も心も同じにならな

         いと気が済まない性質だった。結婚するとそれが益々嵩じ、夫と同

         じになるために、髪を切り、化粧をせず、ひげを生やし、活発に歩

         き、陸軍に志願しようとまでした。それを受け入れてくれない夫が

         嫌いになり、最終的には神を愛し、神と同化しようとする。神は自

         己愛の化身の花百合に彼女を変える」

         これは川端康成の「掌の小説」中でも特に短い2ページたった30行

         足らずの「百合」というお話です。誰かと同化したいという気持ちは

         女性の潜在意識の中にあるのかもしれませんね。自分では気づ

         きませんが。川端康成はそれを目ざとく見つけた、というか、関わ

         り合った多くの女性の中に、そういう人がいたのかもしれません。


         

         122編もの短いお話からなる「掌(てのひら)の小説」には、どれ一つ似

         ていると思わせるものがありません。色々なタイプの人、特人女性が

         描かれていて、読んでいて倦むことがありません。甘く切ない話、おど

         ろおどろしい話、ぞっと背筋が凍るような話、グロテスクな話、しっとり

         と情緒纏綿の話、あっと驚く顛末の話etc. いつ、どこを開いて読んで

         も面白いなどという読み物はそうありませんものね。名人技。もちろん

         一昔前の作なので、単語も仮名づかいも古めかしく、今では使用禁

         止の差別用語がやたら出てきます。それらがすべて味になっている

         のですが。今にして、川端康成を再発見しています。
コメント
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