ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

モーツァルトを迎えにきたあの世からの使者

2005年11月08日 | ネタをたずねて三千里

                               ♪ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


 1791年7月のある天気の悪い日、グレーの服を着た、痩せて背が高く、人相の良くない男がモーツァルトを訪ねてきたそうです。
 彼は名前も告げず、一通の手紙をモーツァルトに差し出しました。それはレクイエム(鎮魂曲)の作曲を依頼するもので、「謝礼も望み通り払う。期限は切らないが、早い方がよい」とも書いてあったそうです。モーツァルトは承諾しました。
 数日後、グレーの服の男が再びモーツァルトのもとを訪れ、報酬の前金を渡しました。そして、時々様子を見に来ること、依頼者が誰かを知ろうとしても無駄であることなどを言い残して去ってゆきました。


 当時モーツァルトは経済的にも行き詰まっていたうえ、健康もすぐれず、自分の命も長くはないと考え始めていた時だったので、この不気味な注文には少なからずショックを受けたようです。
 モーツァルトは作曲を続けながら、次第に「あの男は死の世界から自分を迎えに来た使者かもしれない。そしてこのレクイエムは自分の死のための音楽ではないだろうか」とおびえるようになりました。
 その頃イタリアのトリエステに住む友人に出した手紙には、
「あの見知らぬ男の姿が目にうかび、しきりに作曲を迫る。もはや私の生命は終わりに近づいた、と覚悟している。私の人生は美しく、将来は輝いているのに、運命ならあきらめなければならない。これは私の葬儀の曲だ」という意味のことを書きつづっています。


     


 もともと健康ではなかったモーツァルトですが、「レクイエム」を書き始めてから体力はいっそう衰えるばかりで、11月末になると、ついにベッドから起き上がることができなくなったといいます。
 12月4日、いよいよ病の重くなったモーツァルトは、書きかけの「レクイエム」の演奏を聴かせてほしいと、枕頭の見舞客に頼みます。
 そして翌5日午前0時55分、モーツァルトはこの世を去りました。そして、モーツァルトが恐れていた通り、この曲は彼自身の鎮魂曲として演奏されたのです。
 この曲の完結は、のちに愛弟子のジュスマイヤーに託されました。


 ここまでは、怪談集に収められているのを時折り見かけます。かつてぼくもそれを読んで、ちょっとゾッとしたことがあります。


 実は、この話は怪談でもなんでもありません。
 モーツァルトの死後、グレーの服の男は、ヴァルゼック伯爵家の家令、つまり経理係だとわかりました。この伯爵は大の音楽好きで、作曲家に曲作りを依頼してはそれを買い取り、演奏会を開いては、自分の作曲として聞かせることが道楽だったそうです。伯爵は亡き妻の一周忌に鎮魂曲を演奏しようとして、その作曲をモーツァルトに依頼した、というのが真相だったようです。
 怪談集には、たいていこの結末は書かれていません。(音楽関係の本には結末までちゃんと書かれてます)


 毒殺説もあるモーツァルトの最後ですが、ほかにもさまざまな説があるらしいです。このあたり、ほかにも興味深い話がたくさん残っているようですが、それらはまた別な話になります。


 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」とはよく言う言葉ですが、結末まで全部知ってみると、「なあ~んだ」って感じの話ですね。
 ちなみにこの話、クラシック音楽の世界ではかなり有名なんだそうですよ。


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2 コメント

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またまた今更ですが・・ (みぃみ)
2006-03-29 18:38:57
2006-01-22 21:42:03



すいません。。今、ずーっとMINAGIさんのブログを読んでて(笑)倉敷でのいろいろな“キーワード”に「ああ!!これか!」といってるところなんですよ(^w^;

で、モツアルトなんですが、何年も前にまさに『アマデウス』という映画を見たのを思い出しました。。夜中のTVの映画特集とかであったので切れ切れにしか覚えてないのですが。モツアルトの親友?と思ってた男がモツアルトに嫉妬して、、レクイエムを作らせた的な内容だったような気がします。(MINAGIさんはご存知でしょう。間違ってたらすいません><;)

ただ、最後の最後。あんなに名声を浴びた彼が奇病のために集団墓地にバサ!!っと捨てられるように葬られたシーンだけが焼きついています。。 本当にモーツアルトはお墓がわからないとの事。。かわいそうですよね。。
いえいえどういたしまして(^^) (MINAGI)
2006-03-29 18:39:46
2006-01-22 23:44:39



 ぼくは「アマデウス」は観てないんですよ・・・ 一度は観たいと思ってるんですが。



 モーツァルトの死については諸説紛々だそうですね。妻がモーツァルトと不倫関係にある、と思い込んだホーフデーメルという役人によって毒殺された、とか、同じ音楽家のサリエリによって毒殺された、とか。

 しかしお墓がわからないなんて、ちょっとビックリです。うーむ、気の毒。。。

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