2010年度、宮崎全国大会の最優秀賞は、群馬県の前橋南高校、『黒塚Sept.』であった。ちなみに作品名は(クロツカ セプテンバー)と読む。実際劇場で見て、これが最優秀だと確信した観客がどれほど居たかは疑問である。そんな今年の大会だったかも知れない。しかし、選ばれるには理由がある。その理由を、個人的に感じたところを元に想像しまとめてみた。
『黒塚Sept.』を一言でいえば今までの高校演劇ではなく、AI・HALLで見る通称若手劇団のお芝居のような手触り。見終わった後に爽快感とか感動を感じさせるつもりもなく、現実のざらりとした行き詰まり感で観客を拒否する。そんな印象。何を最優秀に選ぶかは、その年の審査員に決定権がある訳だが、今年に関しては黒塚が審査員集団にとって一番リアルに、質感高いものとして映ったのだと思った。残り3本の優秀作品はどれも顧問など大人の気配が漂い、完成度もめちゃくちゃ高いが、黒塚には子供でも大人でもない若者の行き場のない情念のようなものが感じられた。
物語はこうだ。9月に入っても新型インフルエンザで休校の続くとある高校。演劇部員達は部長の家に集まって、間近に迫ったコンクールの打ち合わせをしている…らしい。というのは何か不自然な空気が時折流れるのだ。部屋の主である部長の少女は髪の毛を振り乱し寝ている。部屋は雑然とし、主は携帯を無造作に投げたり、落としたりする。突然跳ね起き携帯電話に応じる。「ごめん、寝てた。家分かる? ○×を右に曲がって…」など友人に自宅への道順を教え、友人も訪ねてくるのだが、携帯の呼び出し音は一切鳴らない。バイブ? それにしては遠くから電話に反応する。これは何かおかしいと確信を持ったのは、主が飲み物を取りに行った瞬間にそれまで部屋にいた二人の友人がお互い見つめ合ったような姿勢のまま、一切動かなくなった場面だ。主が三ツ矢サイダーを持って部屋に戻ると、何事もなかったように動き始める二人の友人。サイダーは三ツ矢に限るよねなんて会話自体は至って普通。
さらに違和感のあるものといえば、他の部員には存在しないと分かっているカズちゃんって部員と、いかつく太った主の弟。弟は姉である主の部屋へ無言で入ってきて本棚から漫画をもって出て行く。無言だが、「これ借りるぞ」とか、「こっちへ来い」などのメッセージを姉に対し発する。これはどうやら意味がありそうだ。ところが部員達は弟に反応しない。幾度かのやりとりの末、観客は主、弟、部員の三者が同じ空間にいる人物ではないということを確信する。問題は誰が現実で、誰が空想の世界の人物かだ。やがて物語の収束。部屋に漫画を借りに来る弟に対し、主が「勝手に部屋に入ってくるな。」と怒鳴りつける。弟は決して動じず、「学校行け。」と捨てセリフを残して部屋を去る。このやりとりで今まで部屋で語り合っていた主と部員達の会話が、主の作り出した幻の世界だと気付く。さらに追い打ちをかける出来事が起こる。部屋の扉が風によって開いた。主は扉に向かい親しみの笑顔で「カズちゃん。」と語りかける。想像が確信へと代わり、幕が降りた。
この部屋の主である部長の少女の醸し出す雰囲気も独特。深く沈んでいるかと思えば、かわいらしい声を出してベットの上でおしりで飛び跳ねてみたり、これがいい、嫌という判断を短時間で的確に答えたり、黒塚という能の演目について話を進めたり。一言で彼女の存在を言い表すことが出来ないのだが、笑顔と物憂げな表情が繰り返される若い頃の桃井かおり、大竹しのぶのような印象の女優さん。いや、時代が違うのでそこに椎名林檎の狂気を混ぜてもらわないといけないです。彼女の存在無くして、この作品は成立しなかったし、顧問三作品が後塵を拝する理由になのだと思う。
以上、ごのいなり最優秀黒塚Sept.解説。的を得てるかどうかはBS2、9/5の青春舞台でご確認ください。
『黒塚Sept.』を一言でいえば今までの高校演劇ではなく、AI・HALLで見る通称若手劇団のお芝居のような手触り。見終わった後に爽快感とか感動を感じさせるつもりもなく、現実のざらりとした行き詰まり感で観客を拒否する。そんな印象。何を最優秀に選ぶかは、その年の審査員に決定権がある訳だが、今年に関しては黒塚が審査員集団にとって一番リアルに、質感高いものとして映ったのだと思った。残り3本の優秀作品はどれも顧問など大人の気配が漂い、完成度もめちゃくちゃ高いが、黒塚には子供でも大人でもない若者の行き場のない情念のようなものが感じられた。
物語はこうだ。9月に入っても新型インフルエンザで休校の続くとある高校。演劇部員達は部長の家に集まって、間近に迫ったコンクールの打ち合わせをしている…らしい。というのは何か不自然な空気が時折流れるのだ。部屋の主である部長の少女は髪の毛を振り乱し寝ている。部屋は雑然とし、主は携帯を無造作に投げたり、落としたりする。突然跳ね起き携帯電話に応じる。「ごめん、寝てた。家分かる? ○×を右に曲がって…」など友人に自宅への道順を教え、友人も訪ねてくるのだが、携帯の呼び出し音は一切鳴らない。バイブ? それにしては遠くから電話に反応する。これは何かおかしいと確信を持ったのは、主が飲み物を取りに行った瞬間にそれまで部屋にいた二人の友人がお互い見つめ合ったような姿勢のまま、一切動かなくなった場面だ。主が三ツ矢サイダーを持って部屋に戻ると、何事もなかったように動き始める二人の友人。サイダーは三ツ矢に限るよねなんて会話自体は至って普通。
さらに違和感のあるものといえば、他の部員には存在しないと分かっているカズちゃんって部員と、いかつく太った主の弟。弟は姉である主の部屋へ無言で入ってきて本棚から漫画をもって出て行く。無言だが、「これ借りるぞ」とか、「こっちへ来い」などのメッセージを姉に対し発する。これはどうやら意味がありそうだ。ところが部員達は弟に反応しない。幾度かのやりとりの末、観客は主、弟、部員の三者が同じ空間にいる人物ではないということを確信する。問題は誰が現実で、誰が空想の世界の人物かだ。やがて物語の収束。部屋に漫画を借りに来る弟に対し、主が「勝手に部屋に入ってくるな。」と怒鳴りつける。弟は決して動じず、「学校行け。」と捨てセリフを残して部屋を去る。このやりとりで今まで部屋で語り合っていた主と部員達の会話が、主の作り出した幻の世界だと気付く。さらに追い打ちをかける出来事が起こる。部屋の扉が風によって開いた。主は扉に向かい親しみの笑顔で「カズちゃん。」と語りかける。想像が確信へと代わり、幕が降りた。
この部屋の主である部長の少女の醸し出す雰囲気も独特。深く沈んでいるかと思えば、かわいらしい声を出してベットの上でおしりで飛び跳ねてみたり、これがいい、嫌という判断を短時間で的確に答えたり、黒塚という能の演目について話を進めたり。一言で彼女の存在を言い表すことが出来ないのだが、笑顔と物憂げな表情が繰り返される若い頃の桃井かおり、大竹しのぶのような印象の女優さん。いや、時代が違うのでそこに椎名林檎の狂気を混ぜてもらわないといけないです。彼女の存在無くして、この作品は成立しなかったし、顧問三作品が後塵を拝する理由になのだと思う。
以上、ごのいなり最優秀黒塚Sept.解説。的を得てるかどうかはBS2、9/5の青春舞台でご確認ください。
全国高校文化祭、そして今日放送された青春舞台で黒塚Sept.をみました。
話の内容が難しくて、いまいち分からなかったのですがごのいさんの解説でやっと理解できました。
スッキリしました!ありがとうございます!
前橋南高校のみなさん、素晴らしい演技でした!
劇場で見ると役者さんが遠いもので表情とか、仕草とか見えない分を想像します。テレビにはアップってものがあって、時として見えすぎるんですよね。BSで見る黒塚は、オカルト並に怖かった気がしました。血の臭いを感じたのは僕だけ?
ではでは。