言語空間+備忘録

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伊首相、原子力発電は「最も安全」

2011-04-27 | 日記
時事ドットコム」の「原子力発電は「最も安全」=伊首相〔福島原発〕」( 2011/04/27-06:38 )

 【ジュネーブ時事】ベルルスコーニ伊首相は26日、「原子力発電は最も安全(なエネルギー源)だ」と強調した。福島第1原発の事故を受け、同国は原発復活計画の無期限凍結を表明したばかりだが、首相は原発の安全性と推進計画の重要性を訴えた。AFP通信が伝えた。
 首相は、福島原発事故から間もない6月に原発復活の是非をめぐる国民投票を予定通り実施すれば、否決されて同国の原発計画が「数年間」後戻りする恐れがあると指摘。こうした事態を避けるため、政府が計画凍結を決めたと説明した。




 イタリアは「原発復活計画の無期限凍結を表明した」ので原子力発電をやめるのかと思っていましたが、

 じつはそうではなかったようです。

 上記報道からは、イタリア政府は「原発を推進するために」「原発復活計画の無期限凍結を表明した」ということがわかります。



 ところで、ベルルスコーニ伊首相は26日、「原子力発電は最も安全(なエネルギー源)だ」と強調した、と報じられていますが、

 どう考えても、火力発電や水力発電のほうが「安全」だと思います。

 「最も安全」ではないものを、「最も安全」と強調しているわけですから、これは「何か裏がある」と考えて、まず間違いないでしょう。ではその「裏」は何なのか。イタリアはなぜ、原子力発電を続けたいのか、それが気になります。



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税率引き下げ競争とフラット税

2011-04-26 | 日記
アーサー・B・ラッファー、ステファン・ムーア、ピーター・タナウス 『増税が国を滅ぼす』 ( p.238 )

 過去二五年間、とりわけここ五年間で、世界の税率は二〇世紀のどの時期よりも速いペースで引き下げられている。成長志向の減税は、世界経済で現在最も顕著に見られる傾向とすら言えよう。法人税率は下がっている、個人所得税も下がっている、富裕税は引き下げられるか廃止されている。アメリカの新左派は、税金は成長とは無関係だと議会でもテレビ番組でもさかんに主張しているが、世界は明らかにその説を信用しなくなってきた。社会主義国の指導者でさえ、グローバル化する経済と移り気な資本という現実を認識し始めている。たとえばブルガリアの社会主義政府は、このほど一〇%のフラット税を導入した。国際市場で競争力を発揮し経済成長を遂げようとする国にとって、税率を低水準に維持することは、効果的な戦略となりうる。
 税率引き下げの波が始まったのはあのレーガン減税からだ。他の国はこのお手本を見習った。先進国の平均的な個人所得税の税率は、一九八〇年には六八%だったが、九五年には五〇%を下回り、現在では四五%になっている(表9・1参照)。三〇年足らずで三分の二に下がったのである。
 法人税の引き下げ幅はもっと大きい。先進国の平均的な法人税率は、レーガン政権の発足当時と比べると、四三・五%から三〇・三%へ、およそ半分になっている(表9・2参照)。残念ながらアメリカの平均法人税率は、世界で三番目に高い。なにしろカリフォルニア州やメーン州の法人税率は、世界で一番高いのである(*4)。多国籍企業は、国外で事業を行えば、このように高い法人税を課されずに済む。私たちの一人(ムーア)は、このほど税制に関する意見交換会に参加した。そこにはインテル、デル、IBM、キャタピラーなどフォーチュン五〇〇社の多くが出席しており、各社は口々に次のような本音を漏らした。今日では多くの国で、法人税負担をほぼゼロで済ますことができる。アメリカの税率は高すぎる。これでは新工場をアメリカに建設するなど考えられない、と。このように、高い税金はアメリカの優位を危うくしている。
 世界各国が税率を引き下げる傾向はかれこれ三〇年も続いているが、最近ではそのペースが加速している。「このところ税率の引き下げがたくさんの国でひんぱんに行われているので、税率表の更新が追いつかない」と、タックス・ファウンデーションの理事長スコット・ホッジがこぼすほどだ(*5)。その最大の原因は、フラット税を導入した国や税率の低い国に出し抜かれるのはもうごめんだ、と多くの国が考えるようになったからだと想像される。
 世界には現在、フラット税を採用している国が二四ヵ国あり、すべて東欧諸国である(表9・3参照)。なんという様変わりだろう。これらの国々は半世紀にわたって鉄のカーテンの向こうに閉じこめられ、厳格な経済統制でがんじがらめにされ、生活水準は停滞し、実質的には下落した。それがいまでは資本主義の優等生で、フラット税のお手本である。二四ヵ国の平均税率は二〇%で、西欧の四〇~六〇%はとてつもなく高く感じられる。フラット税採用国は競い合うようにして低い税率を採用しており、ロシアが一三%であることは先ほど述べたとおりである。ポーランド政府が一五%と発表すると、ブルガリア政府は個人所得税をフラット化し、一〇%とした。
 数十年にわたり世界で唯一のフラット税採用国だったのは、じつは香港である。香港は一九四七年からフラット税を採用しており、税率は一五%。配当税、キャピタルゲイン税は存在せず、域外で上げた利益にも税金はかからない。香港は関税のない自由貿易港であり、資本主義の天国である。超高層ビルが建ち並び、夜中過ぎまでごった返す通りでは、ピーナツからロレックスの時計にいたるまで、ほとんどあらゆるものが活発に取引されている。税法はたった一八〇ページで、数万ページにおよぶアメリカの税法とは対照的だ。おかげで香港は、土地がなく(超高層ビルが立ち並ぶのはこのためだ)資源もないにもかかわらず、数十年にわたって繁栄を謳歌してきた。なぜ他国が香港を見習うのに半世紀近くを要したのか、まったくふしぎと言わざるを得ない。
 香港を取り上げたからには、ここで中国にも言及しておかないと片手落ちになる。スタンフォード大学フーバー研究所のアルビン・ラブシュカは、「中国の偉大な減税」政策が中国の経済改革の原動力になったと指摘する。あまり知られていないが、これはじつにみごとな政策である。小平は一九七八年に改革開放路線への転換を決断し、自由市場の導入を基本とする経済改革を推進する。農場の民営化(これによって農業生産高は二倍近くに拡大した)、経済特区の導入、外国資本への門戸開放、国営企業の民営化、減税などがその柱とされるが、「最も重要なのはサプライサイド減税政策だった」とラブシュカは話す。ラブシュカは中国で丹念にデータを集めた結果、一九七八年には政府の税収がGDP比約三一%に達していたことを突き止めた。しかし減税導入後は、約一一%まで下がっている(*6)。ここには間接税や規制などによる負担が含まれていないが、それでも二〇年間で税負担が半分以下に下がったことはまちがいない。これが、中国本土の二桁台のめざましい経済成長に寄与したことは明らかである。減税がなかったら、奇跡のような好況があれほど長く続くことはなかったにちがいない。


 いまや、世界中の国々が税率を引き下げ始めており、税率引き下げ競争の様相を呈している。東欧諸国はフラット税をも導入した。共産主義の中国でさえも税率を引き下げ、それによって2桁台のめざましい経済成長を遂げた、と書かれています。



 引用文中の「表9・1」「表9・2」を示します (引用の都合上、2つの表を連結しています) 。



表9・1 先進国の     表9・2 先進国の
  個人所得税最高税率     法人税最高税率

国名(abc順) 1980年 2007年 1980年 2007年 

オーストラリア 62  49   46.0  30.0
オーストリア  62  50   55.0  25.0
ベルギー    76  50   48.0  34
カナダ     64  44   37.8  36.1
デンマーク   66  59   40.0  25.0
フィンランド  68  51   43.0  26.0
フランス    60  48   50.0  34.40
ドイツ     65  45   56.0  39.90
アイルランド  60  42   45.0  12.5
イタリア    72  43   40.0  33.0
日本             42.0  39.5
ルクセンブルグ        40.0  30.4
メキシコ    55  28   42.0  28.0
オランダ    72  52   48.0  25.5
ニュージーランド62  39   45.0  33.0
ノルウェー   75  40   29.8  28.0
ポルトガル   84  42   47.2  26.5
スペイン    66  43   33.0  32.5
スウェーデン  87  56   40.0  28.0
スイス     38  34
イギリス    83  40   52.0  30.0
アメリカ    73  39   46.0  39.3

平均      68  45   43.5  30.3



 これらの表を見ると、たしかに世界中の国々が税率を引き下げていることがわかります。「表9・1」と「表9・2」は先進国のみを対象としていますが、引用文中の記述をも併せ考えれば、先進国にかぎらず、ほぼすべての国が税率を引き下げてきていると考えてよいと思います。

 そして、先進国のみを対象としたこれらの表と、(先進国以外をも対象としている)「表9・3」を比べてみると、あきらかに「表9・3」に掲載されたフラット税導入国の税率のほうが低いことがわかります。これらの国々は「レーガン減税」の成功に学び、「限界税率と経済成長率の逆相関関係」を利用して経済成長を遂げようとしているものとみてよいと思います。



表9・3 フラット税採用国と税率(%)

アルバニア   10  キルギスタン     10
ブルガリア   10  ラトビア       25
チェコ     15  リトアニア      27
エストニア   22  マケドニア      12
グルジア    12  モーリシャス     15
ガーンジー(英領)20  モンゴル       10
香港      16  モンテネグロ     15
アイスランド  35.7 トランス・ドニエストル
             (モルドバ共和国内)10
イラク     15  ルーマニア      16
ジャマイカ   25  ロシア        13
ジャージー(英領)20  スロバキア      19
カザフスタン  10  ウクライナ      15



 しかし日本も、これらフラット税採用国のように、10%~20%のフラット税を採用すべきかは、別の問題だと思います。これについては今後、機会があれば考えたいと思います。

限界税率と経済成長率の逆相関関係

2011-04-25 | 日記
アーサー・B・ラッファー、ステファン・ムーア、ピーター・タナウス 『増税が国を滅ぼす』 ( p.219 )

 じつは増税で人口を失った州は、カリフォルニアのほかにもたくさんある。ある州から別の州への人の移動は、州の経済政策に対する評価の表れとみなすことがでできる。この一〇年間で、記録的な数のアメリカ人が州境を越えて移動した。たとえば二〇〇七年だけで八〇〇万人が別の州に引っ越しており、一日当たりに換算すれば、毎日二万人が移動している計算だ。その多くが、暮らしやすい生活環境や成功のチャンスを求めている。読者がこの章を読み終えるまでにも、およそ五〇〇人が別の州に移動していることだろう。フォーブス誌の発行人リッチ・カールガードが「二一世紀で最も貴重な自然資源は、頭脳である。優秀な頭脳の持ち主は、移動する。その行き先に注意すべきだ。彼らが行くところには、活発な経済活動が付いていく」(*22)と言っているが、まったくそのとおりである。
 リベラル寄りの北東部州、続いて古い産業と組合が幅を利かせる中西部州は、人材という最も貴重な資源を日々失っている。北東部州の発展を支えるべき人材が減り続けていく状況を見れば、政治家の無責任な政策が何を引き起こすかは一目瞭然だ。これらの州の指導者は、何年も高い所得税を課し、労働組合法を押しつけ、野放図に支出を膨張させた。それでも誰も出て行きはしないと自信があったのだろうが、実際には五〇〇万人が州外に転出して政策に「ノー」を突きつけている。
 所得税率が最も高い部類に属すカリフォルニアとニューヨークは、所得税ゼロのテキサスやフロリダに比べれば、明らかに分が悪い。表8・1に示すとおり、こうした税金の安い州では、税金が高い州よりも経済活動が活発である。アトランタ連銀が一九九六年に発表した調査報告書には、「相対的な限界税率は、州の相対的な成長率と、統計的に有意な負の相関関係にある」と書かれている(*23)。平たく言えば、こうだ。税金が高いと経済は縮こまる。


 税率が高いと、優秀な頭脳の持ち主が逃げ出す。個人所得税の安い州では、高い州よりも経済活動が活発であり、雇用増加率も高い。「相対的な限界税率は、州の相対的な成長率と、統計的に有意な負の相関関係にある」と書かれています。



 引用文中の「表8・1」は、下の表です。table タグを書くのが面倒なので (しかもこのブログではなぜかレイアウトが乱れるので) 、適当に空白で区切って引用します。



 表8・1 個人所得税の最高税率が
         高い州・低い州ベストナイン
  (但し書きのない限り、1997~2007年の実績)

      最高税率 個人所得 人口   雇用
            増加率 増加率  増加率

アラスカ   0%  68%  12%  18%
フロリダ   0%  89%  20%  25%
ネバダ    0% 119%  45%  45%
ニューハンプシャー
       0%  68%  11%  14%
サウスダコタ 0%  65%   7%  15%
テネシー   0%  64%  12%   8%
テキサス   0%  91%  21%  20%
ワシントン  0%  74%  14%  17%
ワイオミング 0%  97%   7%  28%

(上記9州の平均) *
       0%  82%  17%  21%

(下記9州の平均) *
       9%  62%   7%  11%

ケンタッキー 8%  60%   7%   9%
ハワイ    8%  62%   6%  17%
メーン    9%  60%   5%  11%
オハイオ   9%  44%   2%   1%
ニュージャージー
       9%  62%   6%   9%
オレゴン   9%  61%  13%  13%
バーモント 10%  66%   4%  10%
カリフォルニア
      10%  77%  13%  16%
ニューヨーク
      11%  64%   3%   8%

  * 平均値は単純平均である。(←但し書き)



 たしかにこの表を見ると、最高税率が高ければ、所得増加率も雇用増加率も低い、という傾向が見て取れます。したがって、著者の主張、税金が安いほど経済成長が活発になり、雇用も増える、という主張は、認めてよいと思います。



 しかし、カリフォルニアは凄いですね。10%もの税率 (全米2~3位の高税率) であるにもかかわらず、個人所得が77%も増加し、雇用が16%も増えています。この数字は、税率が0の州の数字と比較して、遜色がありません。「カリフォルニアからの人口流出」は気にするほどのこともない、とも考えられますが、カリフォルニアの税金が安ければ、個人所得も雇用も、もっと増えていたはずであると考えられますので、高税率であるにもかかわらず税率0の州と遜色ない経済成長を遂げていることをもって、カリフォルニアの経済政策が「正しい」ことにはならないこと、もちろんです。



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カリフォルニアからの人口流出

2011-04-24 | 日記
アーサー・B・ラッファー、ステファン・ムーア、ピーター・タナウス 『増税が国を滅ぼす』 ( p.212 )

 最新の国勢調査データによると、二〇〇五年、〇六年、〇七年には二五万人以上の州民がタイガー・ウッズに続けとばかり他州へ逃げ出している。二〇〇三~〇七年には他州への流出人口が流入人口を上回った(*12)。流出がどれほど激しかったかは、引っ越しトラックの料金を見ればわかる。ロサンゼルスからアイダホ州の州都ボイシまでの料金は二〇九〇ドルで、逆方向の八倍に設定されているのだ(*13)。また、ロサンゼルスからテキサス州オースティンまでの料金は、逆方向の三倍になっている。要するに、移動の向きは東への一方通行だった。ここ一〇年間でカリフォルニアを出て行った人と入ってきた人との差は、一五〇万人近くに達する(*14)。驚くべき数字と言えよう。
 なぜまたこうも大勢の人が、西海岸の天国から逃げ出すことになってしまったのだろうか。いまこれを書いている間にも、この州が毎日三〇〇〇万ドルも借金をしているのは、どうしたわけだろうか。住宅価格が三〇%近くも急降下したのはなぜだろうか。その理由はたくさんあって複雑に絡み合っているが、少なくともその震源地はわかっている。州議会のあるサクラメントだ。
 事態が悪化し始めたきっかけの一つは、情け容赦のない増税と、金持ちをあたかも金のなる木のようにみなす同州の政治風土である。またカリフォルニア州にあまたある規則や事務手続きの類に従うコストは、他州で事業を行う場合の二倍以上につく。二〇〇六年にはサーフボードの大手で生粋のカリフォルニア企業の一つが、同州での事業をたたんでしまった。罰金や訴訟や、挙げ句の果てに刑務所送りになるリスクを嫌ったためである。カリフォルニアでサーフボードを作れないとなったら、どうすればいいのか。この一件は、企業や富裕層に逆風を強く感じさせるきっかけとなった。

(中略)

 そして何よりもカリフォルニアの成長を阻んだのは、累進制のきつい所得税である。同州の高額所得者に適用される税率は一〇・三%に達し、全米で三番目に高い。州の個人所得税収の七五%は、一〇%の最富裕層が払っている(*19)。この「あくどい金持ち」の三人に二人は中小企業の経営者であり、州民のために雇用を創出している人たちである。ところがリベラルは毎年のように環境運動家や組合運動家や貧困撲滅を訴える団体などと手を組み、富裕層への課税を強化すべきだと訴えている。人気俳優のロブ・レイナーなどは、増税案を住民投票にかけて成立させる目的で、基金まで発足させた(*20)。
 だがレイナーにとっても、彼を支援する政治家にとっても、じつに具合の悪いことがある。カリフォルニアの高額所得者は、こうした金持ちいじめをいつまでも我慢するつもりはないと公言していることだ。彼らは実際に州外に家を買っている。まさかと思われる向きは、二〇〇三年に私たちが入手したカリフォルニア州の納税データをご覧いただきたい。二〇〇〇年には、カリフォルニアには年間所得が一〇〇万ドルを超える百万長者(ミリオネア)が四万四〇〇〇人おり、年間一五〇億ドルの税金を納めていた。ちょっと考えるだけで、これがとんでもない数字であることがわかる。最富裕層〇・一五%が所得税収の二〇%を払っているのだ。また財政均衡化会議が監査委員会に提出したデータによると、二〇〇一~〇三年に発生した税収減の約八〇%は、富裕層が出て行ったせいで発生したという。なにしろ二〇〇〇年には四万四〇〇〇人いた百万長者(ミリオネア)が、二年後には二万九〇〇〇人になってしまった。この大量流出で、税収は年間およそ六〇億ドル減少している(*21)。
 富裕層が減ったのは、州外へ逃げ出したからだけではない。ドットコム・バブルの崩壊で、多くの高額所得者が一転して無一文になったことも一因である。だが国勢調査データをみると、どれほど大勢が出て行ったか、またその行く先がどこかがわかる(図8・1参照)。
 中にはこうした人口流出を鼻であしらい、この州は混み合っていたのだから人が少なくなる方が結構だ、と傲慢な発言をする輩がいる。だがこの人たちは、出て行ったのが食い詰め者ではなく成功者だということを忘れているのだろう。カリフォルニアからの移住者をみると、事業を興し財を成した人の比率が異常に高いことに気づく。ラスベガスに高級住宅を開発したある不動産デベロッパーから二〇〇四年に取材したところによると、ラスベガスで最近売れた高級住宅三〇〇戸のうち、二五〇戸はカリフォルニアからの「税金亡命者」だという。高額所得者に分類されるような人なら、カリフォルニアで一年間に払う税金でネバダの新築住宅が買える、とカリフォルニア州議会議員のレイ・ヘインズ(共和党)は話す。


 累進制のきつい所得税などの「金持ちいじめ」を嫌って、カリフォルニアから成功者(事業を興して成功した中小企業のオーナー)が逃げ出している、と書かれています。



 引用文中の「図8・1」は、カリフォルニア州民の移住先を示す棒グラフです。私は「図」は表示しない(スキャナで読み取らない)ことにしているので、数値を記載します。なお、以下は「図8・1」のグラフから (目分量で適当に) 数値を読み取った値、おおよその値です。

   図8・1 カリフォルニア州民の移住先

   ネバダ   14万人  所得税率ゼロ
   アリゾナ   9万人  大幅減税
   テキサス   7万人  所得税率ゼロ
   ワシントン  6万人  所得税率ゼロ
   オレゴン   7万人  売上税ゼロ
   コロラド   6万人  納税者権利保護
   フロリダ   3万人  所得税率ゼロ

 これを見ると、税金の安いところへ人々が逃げていることがわかります。もちろん「図8・1」のデータは、「金持ちに限定した人数」のデータではないはずですが、移住先に税率が低いところが選ばれていることはわかります。



 増税の問題点はすなわち、金持ち、とりわけ中小企業のオーナーが逃げ出した場合の影響にあります。

 彼らが逃げ出せば、(高額消費をする人が減って) 消費は冷えこみ、(企業は閉鎖、または一緒に移転となるために) 雇用も減ると考えられます。

 そしてもちろん、税収が減り、州財政が悪化します。累進制がきつくなる「前に」彼らが納めていた税金も、カリフォルニア州には入らなくなるからです。



 しかし、ここでひとつ、(私には) 疑問があります。

 税率の程度にもよると思いますが、多少税率が高いからといって、本当に移住したり、会社を閉鎖・あるいは移転するものでしょうか。なぜなら、移住・移転してしまえば、これまでの顧客基盤を失うことになってしまうからです。

 現実問題として、新たな場所で事業を再開するのは大変だと思います。

 とすれば、上記の移住・移転は「そろそろ引退しようかな」と思っていた人の背中を押しただけ、とも考えられます。しかし、アメリカ人はアクティブだ、税金の安い新天地で事業を再開している人も多いはずだ、という考えかたも成り立つと思います。

 日本がこのデータを参考にするなら、このあたりも、増税の効果 (マイナス効果) を判断する際に検討すべきなのかもしれません。

ルービノミクス

2011-04-23 | 日記
アーサー・B・ラッファー、ステファン・ムーア、ピーター・タナウス 『増税が国を滅ぼす』 ( p.165 )

 クリントンの当選は、サプライサイド経済学に対して有権者が最終的に「ノー」を突きつけたものと当時は受け止められていた。クリントンは選挙期間中に中間所得層への減税を公約する一方で、富裕層への増税も主張していたからである。とは言えクリントンは同時に「ニュー・デモクラット(新民主党)」を標榜し、過去二〇年にわたる同党のリベラル路線を慎重に避けて、財政規律、自由貿易、犯罪取り締まりの強化、強いドル政策、社会福祉改革を重視する方向に修正した。
 経済政策に関して指南役を務めたのは、ゴールドマン・サックスの前CEOで、クリントン政権発足と同時に経済政策担当大統領補佐官に任命され、のちに財務長官も務めたロバート・ルービンである。ルービンは民主党を、自由貿易、赤字削減、強いドルを三本柱とする成長路線に乗せた。民主党では一九六〇年代、七〇年代に増税支出型ケインジアンが跳梁跋扈したが、幸いにもルービンはそれではなかった。
 ただしルービンは基本的に、サプライサイド減税は効果がないと考えていた。減税は財政を逼迫する。そうなれば、投資に回るはずの国民貯蓄が国債に吸い上げられてしまう。すると金利が上がり、企業にとって資金調達コストが嵩む。こうしてクラウディングアウト現象によって、長期的成長に必要な民間投資が不活発になる、という理屈である。裏返せば、増税をすれば貯蓄が拡大し、金利は下がって、民間投資は増えることになる。やや乱暴なまとめ方だが、これがいわゆる「ルービノミクス」だった。財政赤字を計画的に削減すれば、アメリカ国内で投資が活発化するのみならず、国外からも資本が流入してくるという。だが私たちのみるところ、この主張にはどうみても難点があった。途中のプロセスを省いて頭と尻尾をつなげると、ルービノミクスでは、投資課税を増やせば投資が増え、投資課税を減らせば投資が減ると言っていることになるからだ。ともあれルービンは、「グローバル経済を救った男」として一九九〇年代末にタイム誌の表紙を飾っている(*14)。


 ルービノミクスには難点があった。なぜならルービノミクスでは、投資課税を増やせば投資が増え、投資課税を減らせば投資が減ると言っていることになるからである、と書かれています。



 ビル・クリントンは一九九二年の大統領選で、父ブッシュを破って当選しています。



 著者の主張には説得力があると思います。しかし考えてみれば、

 減税によるにせよ、ケインズ的な公共事業を行うにせよ、どちらであっても、(目先の) 国家財政は悪化します。したがって (短期的には) 国債発行ということになると思いますが、そんなことをすればクラウディングアウトが起こる、という批判は成り立ちます。

 この批判を回避するには、おそらく金融政策か為替政策以外には手がありません。そして為替政策とは事実上、金融政策ですので、「金融政策以外はするな」ということになると思います。

 しかし経済政策イコール金融政策、という帰結は受け入れ難いと思います。

 とすると、要はルービンの論理、
減税は財政を逼迫する。そうなれば、投資に回るはずの国民貯蓄が国債に吸い上げられてしまう。すると金利が上がり、企業にとって資金調達コストが嵩む。こうしてクラウディングアウト現象によって、長期的成長に必要な民間投資が不活発になる
のうち、「クラウディングアウト現象によって、長期的成長に必要な民間投資が不活発になる」の部分は、論理的に「弱い」のではないかと考えられます。つまりクラウディングアウトはそれほど重視しなくともよい (大きな影響がない) と考えられないか、ということです。

 これについてはさらなる検討が必要だとは思いますが、このように考える余地もあるのではないかと思いますので、一応、メモ (備忘録) 的に記載しておきます。



 なお、このブログには、「「特殊な目的」を伴うコメント」もみられますが、有益なコメントも寄せられています。

 クラウディングアウト現象に言及したものとして、「マンデル・フレミング理論」のコメント欄に書き込まれた内容は有益だと思います。よろしければ、併せ (あわせ) ご覧ください。