言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

カリフォルニアからの人口流出

2011-04-24 | 日記
アーサー・B・ラッファー、ステファン・ムーア、ピーター・タナウス 『増税が国を滅ぼす』 ( p.212 )

 最新の国勢調査データによると、二〇〇五年、〇六年、〇七年には二五万人以上の州民がタイガー・ウッズに続けとばかり他州へ逃げ出している。二〇〇三~〇七年には他州への流出人口が流入人口を上回った(*12)。流出がどれほど激しかったかは、引っ越しトラックの料金を見ればわかる。ロサンゼルスからアイダホ州の州都ボイシまでの料金は二〇九〇ドルで、逆方向の八倍に設定されているのだ(*13)。また、ロサンゼルスからテキサス州オースティンまでの料金は、逆方向の三倍になっている。要するに、移動の向きは東への一方通行だった。ここ一〇年間でカリフォルニアを出て行った人と入ってきた人との差は、一五〇万人近くに達する(*14)。驚くべき数字と言えよう。
 なぜまたこうも大勢の人が、西海岸の天国から逃げ出すことになってしまったのだろうか。いまこれを書いている間にも、この州が毎日三〇〇〇万ドルも借金をしているのは、どうしたわけだろうか。住宅価格が三〇%近くも急降下したのはなぜだろうか。その理由はたくさんあって複雑に絡み合っているが、少なくともその震源地はわかっている。州議会のあるサクラメントだ。
 事態が悪化し始めたきっかけの一つは、情け容赦のない増税と、金持ちをあたかも金のなる木のようにみなす同州の政治風土である。またカリフォルニア州にあまたある規則や事務手続きの類に従うコストは、他州で事業を行う場合の二倍以上につく。二〇〇六年にはサーフボードの大手で生粋のカリフォルニア企業の一つが、同州での事業をたたんでしまった。罰金や訴訟や、挙げ句の果てに刑務所送りになるリスクを嫌ったためである。カリフォルニアでサーフボードを作れないとなったら、どうすればいいのか。この一件は、企業や富裕層に逆風を強く感じさせるきっかけとなった。

(中略)

 そして何よりもカリフォルニアの成長を阻んだのは、累進制のきつい所得税である。同州の高額所得者に適用される税率は一〇・三%に達し、全米で三番目に高い。州の個人所得税収の七五%は、一〇%の最富裕層が払っている(*19)。この「あくどい金持ち」の三人に二人は中小企業の経営者であり、州民のために雇用を創出している人たちである。ところがリベラルは毎年のように環境運動家や組合運動家や貧困撲滅を訴える団体などと手を組み、富裕層への課税を強化すべきだと訴えている。人気俳優のロブ・レイナーなどは、増税案を住民投票にかけて成立させる目的で、基金まで発足させた(*20)。
 だがレイナーにとっても、彼を支援する政治家にとっても、じつに具合の悪いことがある。カリフォルニアの高額所得者は、こうした金持ちいじめをいつまでも我慢するつもりはないと公言していることだ。彼らは実際に州外に家を買っている。まさかと思われる向きは、二〇〇三年に私たちが入手したカリフォルニア州の納税データをご覧いただきたい。二〇〇〇年には、カリフォルニアには年間所得が一〇〇万ドルを超える百万長者(ミリオネア)が四万四〇〇〇人おり、年間一五〇億ドルの税金を納めていた。ちょっと考えるだけで、これがとんでもない数字であることがわかる。最富裕層〇・一五%が所得税収の二〇%を払っているのだ。また財政均衡化会議が監査委員会に提出したデータによると、二〇〇一~〇三年に発生した税収減の約八〇%は、富裕層が出て行ったせいで発生したという。なにしろ二〇〇〇年には四万四〇〇〇人いた百万長者(ミリオネア)が、二年後には二万九〇〇〇人になってしまった。この大量流出で、税収は年間およそ六〇億ドル減少している(*21)。
 富裕層が減ったのは、州外へ逃げ出したからだけではない。ドットコム・バブルの崩壊で、多くの高額所得者が一転して無一文になったことも一因である。だが国勢調査データをみると、どれほど大勢が出て行ったか、またその行く先がどこかがわかる(図8・1参照)。
 中にはこうした人口流出を鼻であしらい、この州は混み合っていたのだから人が少なくなる方が結構だ、と傲慢な発言をする輩がいる。だがこの人たちは、出て行ったのが食い詰め者ではなく成功者だということを忘れているのだろう。カリフォルニアからの移住者をみると、事業を興し財を成した人の比率が異常に高いことに気づく。ラスベガスに高級住宅を開発したある不動産デベロッパーから二〇〇四年に取材したところによると、ラスベガスで最近売れた高級住宅三〇〇戸のうち、二五〇戸はカリフォルニアからの「税金亡命者」だという。高額所得者に分類されるような人なら、カリフォルニアで一年間に払う税金でネバダの新築住宅が買える、とカリフォルニア州議会議員のレイ・ヘインズ(共和党)は話す。


 累進制のきつい所得税などの「金持ちいじめ」を嫌って、カリフォルニアから成功者(事業を興して成功した中小企業のオーナー)が逃げ出している、と書かれています。



 引用文中の「図8・1」は、カリフォルニア州民の移住先を示す棒グラフです。私は「図」は表示しない(スキャナで読み取らない)ことにしているので、数値を記載します。なお、以下は「図8・1」のグラフから (目分量で適当に) 数値を読み取った値、おおよその値です。

   図8・1 カリフォルニア州民の移住先

   ネバダ   14万人  所得税率ゼロ
   アリゾナ   9万人  大幅減税
   テキサス   7万人  所得税率ゼロ
   ワシントン  6万人  所得税率ゼロ
   オレゴン   7万人  売上税ゼロ
   コロラド   6万人  納税者権利保護
   フロリダ   3万人  所得税率ゼロ

 これを見ると、税金の安いところへ人々が逃げていることがわかります。もちろん「図8・1」のデータは、「金持ちに限定した人数」のデータではないはずですが、移住先に税率が低いところが選ばれていることはわかります。



 増税の問題点はすなわち、金持ち、とりわけ中小企業のオーナーが逃げ出した場合の影響にあります。

 彼らが逃げ出せば、(高額消費をする人が減って) 消費は冷えこみ、(企業は閉鎖、または一緒に移転となるために) 雇用も減ると考えられます。

 そしてもちろん、税収が減り、州財政が悪化します。累進制がきつくなる「前に」彼らが納めていた税金も、カリフォルニア州には入らなくなるからです。



 しかし、ここでひとつ、(私には) 疑問があります。

 税率の程度にもよると思いますが、多少税率が高いからといって、本当に移住したり、会社を閉鎖・あるいは移転するものでしょうか。なぜなら、移住・移転してしまえば、これまでの顧客基盤を失うことになってしまうからです。

 現実問題として、新たな場所で事業を再開するのは大変だと思います。

 とすれば、上記の移住・移転は「そろそろ引退しようかな」と思っていた人の背中を押しただけ、とも考えられます。しかし、アメリカ人はアクティブだ、税金の安い新天地で事業を再開している人も多いはずだ、という考えかたも成り立つと思います。

 日本がこのデータを参考にするなら、このあたりも、増税の効果 (マイナス効果) を判断する際に検討すべきなのかもしれません。