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YOMIURI ONLINE」の「
出荷制限「市町村」単位も 農家の不満に配慮」( 2011年4月5日 )
政府規制見直し
政府は4日、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、県単位で行ってきた農産物の出荷制限などの実施方法を見直すことを決めた。
今後は、〈1〉市区町村などの単位で制限・解除などを指示できるようにする〈2〉3週連続で放射性物質が食品衛生法の暫定規制値以下になれば、制限を解除する〈3〉放射性物質の放出が続く間は毎週検査を行う――を原則とする。暫定規制値は、現在の規制値を維持する。
出荷制限は原子力災害対策特別措置法に基づき、福島、茨城、栃木、群馬各県産のホウレンソウなどを対象に行われている。政府は4日、新たに千葉県の一部市町産の野菜についても、同県内では初めて出荷制限を指示した。
今回の措置は、同一県内なら放射性物質が検出されない地域でも出荷が制限され、風評被害を受けることへの関係者の強い不満に配慮したものだ。
ただ、日本農林規格(JAS)法では、農産物の産地表示は県単位で行われている。市町村単位で制限を解除しても消費者には分かりにくいとの指摘があり、風評被害による買い控えの抑制につながるかどうかは不透明だ。
政府は産地表示を細分化するためのJAS法改正のほか、出荷制限解除後の出荷状況を調査し、風評被害があると判断した場合は幅広く補償対象とする方向で検討を進めている。ただ、法改正には一定の時間が必要な上、補償の具体的な基準作りは難航するとの見方が少なくない。
(後略)
農産物の出荷制限を、(1) 市区町村単位、(2) 3週連続暫定規制値以下で解除、(3) 放射性物質の放出が続く間は毎週検査を行う、に見直すことを政府は決めた、と報じられています。
この背景には当然、下記の報道で報じられている事情が存在していると思います。
「
産経ニュース」の「
出荷制限新ルールでも自治体、生産者の不安消えず」( 2011.4.5 00:10 )
政府が方針を示した、農産物の出荷制限地域の細分化。放射性物質が暫定基準値を下回っていたにもかかわらず、県単位で制限がかけられていたために出荷を見送ってきた生産者にとっては朗報となる。
長崎大学の山下俊一教授(被曝=ひばく=医療学)は、「最近の検査結果をみると、検出される放射性物質の量は着実に減っている。原発の半径30キロ圏内はともかく、ほかの地域では農産物の出荷規制の解除を考えても大丈夫ではないか。消費者だけでなく、生産者への配慮も必要で、風評被害防止の観点からも解除は望ましいと思う」と評価する。
■農家の気持ち代弁
だが、自治体や生産者の受け止めは複雑だ。
新たに出荷制限がとられることになった千葉県旭市の農家の男性(71)は「解除を待ち望んでいるが、その場合も風評被害で売れないのが怖い」と心配顔。「政府は安全性を消費者にしっかり伝えてほしい」と訴えた。JAうつのみや(宇都宮市)の担当者は、「消費者は県単位で生産地を見ている。良い効果はあまり見込めない」と楽観はしていない。
群馬県の大沢正明知事も、「市町村別の細かな産地指定をした場合、それで風評被害を乗り越えられるのかという課題が残る」と、風評被害の深刻さを心配した。
福島県の佐藤雄平知事は、国が県に規制の判断を“丸投げ”したりしてきた点に怒り沸騰だ。4日の県災害対策本部会議では、政府担当者に「現場のことを分かっているのかと疑いたくなる」と声を荒らげる場面もあった。知事は「(国の対応は)あいまいだ。『雪が降るぞ』『雨が降るぞ』だけでなく(国の知見で)『傘させ』『カッパ着ろ』まで言ってくれないと農家は困る」と、生産者の気持ちを代弁した。
■厳しい検査必要
ルールができても、課題も山積している。
大きな課題となるのが農産物の原産地表示。原産地表示を規定する日本農林規格(JAS)法は、原則として都道府県名で表示すればよいことになっている。だが、今後はJAS法の例外規定を利用して、市町村名などの名称で流通させるケースがでてきそう。
ところが、出荷停止の「発動」と「解除」が混在する地域産の農産物の場合、市町村名で産地が表示されても、どこの市町村産ならば安心なのか、消費者が正確な情報を把握するのは難しい。
全国消費者団体連絡会の阿南久事務局長は、「行政が市町村ごとの数値を公表して消費者に分かるようにしたり、産地偽装防止のためのチェックや検査をきちんとすることが求められる」と指摘する。
消費者問題研究所の垣田達哉代表は「検査回数が1週間に1度というのは少なすぎないか。毎日とは言わないが、2日に1度ぐらいはやるべきだ」と、厳しい検査態勢の必要性を説く。
新しいルールが適正に運用されなければ、消費者にかえって混乱を与えることにもなりそうだ。
「農産物の出荷制限地域の細分化」には、「放射性物質が暫定基準値を下回っていたにもかかわらず、県単位で制限がかけられていたために出荷を見送ってきた生産者」の立場、すなわち「生産者への配慮」として、「風評被害」を防止するという狙いがある、と示唆する報道がなされています。
私が思いますに、「あまり効果はない」のではないかと思います。
「放射性物質が暫定基準値以下です」と明示したところで、
あるいは
「放射性物質には言及せず、産地のみ」表示したところで、
消費者には、あえて「その地域の」農産物を買う理由がない
からです。九州産などを買っても間に合うなら、わざわざ「その地域の」農産物を買おうとする人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
「検査回数が1週間に1度というのは少なすぎないか。毎日とは言わないが、2日に1度ぐらいはやるべきだ」などという意見も出されているようですが、
「
放射性物質の流出阻止は数カ月後が1つの目標」であり、放射性物質は (少量とはいえ) 継続的に放出されている以上、「2日に1度の検査を3回連続でパスすれば安全」だなどとは、口が裂けても言えない、というのが常識的な感覚ではないかと思います。
そもそも農家の立場に立って考えれば、「
「安全宣言」は時期尚早」でみたように、
国は、「風評被害」の場合であっても
補償の対象になりうる、と言っている
のであり、農家・生産者が「早く出荷させろ!!」と主張するのは、どこか変ではないかと思われてなりません。そもそも、
出荷したところで、従前の値段では売れない
と考えるのが当然ではないかと思います。規制の変更が、本当に農家の利益になるのでしょうか?
おそらく、規制は変更されるでしょう。そしてその場合、「規制変更によって出荷可能になった地域の」農産物の価格は下落するでしょう。
(多くの) 市民は買わないかもしれませんが、「惣菜屋」などを営む企業(事業者)は買うかもしれません。「国が問題なし、と判定した食材を安く買える」からです。消費者は「知らないうちに」その農産物を食べることにならないか、という懸念が消えません。
企業がそれ (=消費者の不安) を避けようとすれば…、
醤油の「遺伝子組み変えなし」のような表示、たとえば「福島県産原材料なし」の表示が、食品のラベルに貼られてしまうことになるかもしれません。
農産物の出荷制限地域の細分化は、本当に農家・生産者の利益になるのでしょうか? 私は、ならないと思います。
「消費者」に冷静な対応を求める声は目立ちますが、「生産者」にこそ、冷静な対応を求めるべきではないでしょうか?
■追記
「出荷制限」対象地域であれば「確実に」補償されるのに、「出荷制限地域を細分化」してしまえば補償対象にならず、価格が下落して利益は減るためにかえって(農家にとって)損になるのではないか、という趣旨です。もっとも、「価格下落分」も「風評被害」ということで補償されるのであれば、農家に損失はないのかもしれません。
おそらく農家が「早く出荷したい」のは、当座の現金(手元資金)が必要だからではないかと思います。国による緊急融資などが効果的かもしれません。